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07-04



「……貴方達なら、必ずそれにたどり着くと思ったからよ」


「随分と買ってくれているじゃないか。……けれど、質問に対する回答にはなっていないな。俺はお前が来てから一度もこの指輪を『窓』に映してない。なのにどうして、俺が手にしている指輪がお前の目的のものに違いないと判断できたんだ?」


「……どこからか監視でもしていたか? この指輪を。今か、10年前に」


「……なんのことだか」


「これ、どこに有ったものだか知ってるよな?」


「……知らないわ」


「遺留品だよ。10年前の事故の」


「……そう」


「事故といえば、ついさっき、俺の自宅にもトラックが突っ込んで来てな。……おかしいよな。ただでさえ物の少ない物理空間なのに、車だってかなりの貴重品のはずなのに、俺の周りだけトラックの事故が多いんだよな」


「何が言いたいのかしら」


「……お前らが仕向けたんじゃないのか、と言ってるんだ」


「……私は知らないわ。やったとしたらお父さんか、過去のノアボックスの社長でしょう」


「………ねえ、ヒカリちゃん。何だか私、疑われているみたいだけど、ヒカリちゃんは私のこと、信じてくれるわよね?」


 疑惑の女王は横を向く。

 度重なる質問に、うんざりとでも言うように。

 その身を包む温度が一層冷たくなったように感じた。

 

 冷たい視線は、ヒカリに向けられた。

 キンと射殺すように刺さる視線。しかし、それに怯むことなく、ヒカリは問い返す。


「…………ひとつだけ聞いても良いかな? ミレイちゃん」


「私たちがシノノメに行ったときのことも、アオヤギ先生のお部屋でお話したことも覚えているんだよね?」


「……ええ」


 静かに、けれど芯の強さも感じる声音。

 刺すような視線を交わし、翻し突き返すような問い詰め。ヒカリはいま、論理の刃をミレイの喉元に突きつけている。


 ミレイはあっけにとられたように少しだけ目を開きながら、首肯した。


「アオヤギ先生に『虫』のことを教えてもらったとき、ミレイちゃん、言ったよね。『ヒカリちゃんは移住したときまだ幼かったし、不慮の事故だったから詳しく知らなくても仕方がない』って」


「…………どうして、私が事故のせいで電脳空間に移住したことを知っていたの?」


「わたし、ミレイちゃんには、電脳空間に移住することになった経緯を話してないよ?」


 俺達が初めて遠征した日。

 シノノメに向かう車内で、自分たちの自己紹介を終えたあの日のことを思い出す。

 たしかにヒカリは経緯を濁して、10年前に移住したという点だけをミレイに伝えていた。


 その日以降も、ヒカリの移住についてミレイと会話しているのを聞いてもいない。

 

 それにもかかわらず、ヒカリの移住の経緯を知っているのはおかしい。


 監視していた?

 それとも――あの事故に関わっていた?

 それ以外に正当な理由なんてあるのだろうか。

 

 これは、ヒカリがかける渾身の必至だ。

 この問いに知らぬ存ぜぬは通用しない。知らないはずのことを知っていたのだから。その事故に関わっていた人物しか知らないはずのことだから。



 一秒、二秒……。時間の経過とともにじりじりと鋭さを増していく、論理の刃。

 突きつけられた女王は、鋭さに臆することなく、じっとヒカリを見つめ――――そして、笑った。


「ふふふふふ」


「あはははははははははは」


「そう、たしかにそう言ったわね。あはは、これはこれは。飛んだ失言ね。ふふふ、自らの無能さに笑ってしまうわ」


「けれどあのときは、始末したい一人を見つけることができて気が緩んでいたし、仕方のないことだわ。むしろ、そんな些細なことから疑念を確信に変えることのできた貴女を褒めるべきね」


「……いいわ、もう。教えてあげる……いえ、もう知ってるわよね、私のこと」


「そう! 私こそがノアボックス社長、人類をさらなる高みへと導かんとする者。オニヅカ ミレイよ!」



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