07-01
重厚な空気。圧を感じるそれは、喉で震わすことも叶わず、ただ肺を出入りするだけだった。
圧の発生源はこの左手の中、純白の「部屋」の扉の前にいる一人の女。凛とした佇まいはまるで女王の様で、全てを射殺してしまいそうな目線で「部屋」にいる面々を見ている。
淡々と、凍ってしまいそうなほど冷たい声音でその女――ミレイは問う。
「……あら、貴方はたしかプログラミング部の部長の……サイカワさんだったかしら?」
「…………あぁ、オニヅカくん。覚えていてくれて光栄だよ」
なに食わぬ顔で答える色男。
直前の会話などまるで無かったかのように、柔和に答えるその様に少しだけ寒気を覚えた。
「今日はどうしてここに?」
「有益な情報を得てね。……サトルくん、いま、指輪を持っているでしょう? それが、私のお母さんを探す鍵みたいなの」
サイカワの問に対するミレイの答えに、耳を疑った。
――どうして指輪を持っていることを知っている?
つい先程見つけたばかりの指輪だぞ?
それも我が家のガレージで。ヒカリの親の遺品の中から。
「厚かましいお願いだとわかってはいるけれど――私にそれ、いただけないかしら?」
「もちろんお礼はするわ。欲しいもの、なんだってあげる。……電脳空間に移住だってさせてあげるわ」
「……ヒカリちゃんと一緒の世界に住みたいでしょう? ヒカリちゃんも……ね?」
氷のような声音から一転、猫なで声で諭すように話す。
疑念が疑念を呼ぶ。
話を聞く気になれない。それどころか、目の前の女に僅かばかりの恐怖と――敵意が湧き上がるのを覚えた。
要求を飲む気はない。
その腹の中を暴いてやろうとすら思えた。
「……何が狙いだ? ミレイ」
「…………狙いも何も。お母さんを探すためと言ったでしょう?」
明らかに嘘だ。
純粋にお母さんを探すため、が理由ならば「手助けクラブ」の依頼の範疇であって、いま交渉の手段のように見返りを言う必要は全く無い。
報酬について触れるなら、初めて部室に来て依頼するときか、お母さんが行方不明になったことを打ち明けたとき、またはノアボックスの種々の疑惑を知り、その調査も実質的に依頼の一部に含まれるようになったときが自然だ。
しかし、ミレイは報酬について触れなかった。いくらでも話す機会はあったのに。
つまり、ミレイは「手助けクラブ」に対して報酬を渡すつもりは毛頭なかったということ。
それに対して、今の物言い――何でもやるから今すぐそれをよこせ、とでも読み取れる物言い――これは、「手助けクラブ」の活動に対する報酬とは別の意図があるように思えてならない。
「手助けクラブ」に依頼した、母の捜索とは別の思惑が。
――揺さぶりをかけてみるか。
「俺の目の前には、サイカワ ミソノの墓があるんだがな」
「……赤の他人でしょう。私の母の旧姓はサイカワだけどいまはオニヅカ ミソノだし、それに、そのお墓に私の母が眠っている証拠なんて無いじゃない」
……まぁ、そうだよな。完璧な証拠とは言い難いしな。逃げる隙はある。
仮にこの墓が我々の探していたミソノさんのものであったとしても、お前はそう言うだろう。
知らぬ存ぜぬ。
人が言い逃れする際の鉄板の手段だ。
そのあたりの立ち回りはお手の物か。
……別の角度から聞いてみよう。
「……お前って父親似なのか? その割に現社長のオニヅカ ケイさんとは似てないよな」
「あら? どうしてそう思ったの?」
「アオヤギ先生がそう言ってたからさ」
アオヤギ先生は、ミレイと初めてあったとき、「お父さん似かな」と言った。ミソノさんと親子関係であるとミレイから聞いたのにも関わらずだ。ミソノさんにここが似ているとか、部分的な特徴すら話さなかった。
どちらかの親の特徴が優位に発現することは珍しくないとしても、真に血を引く親子において、面影すらも感じさせないほどに全く似ないことなんてあるだろうか。
アオヤギ先生が気を遣ってその手の話を避けた可能性はもちろん否定できないが――それを一旦無視すれば、話題にすらしないほどにミレイはミソノさんに似ていないと言うことだ。
だがもし、 ミレイがミソノさんの血を引く子供でないとしたら、その容姿が似ていなくても不思議はない。
「……アオヤギ先生ってどなたかしら」




