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06-15



「ノアボックス上層部が、『虫』のユーザに影響を与えるプログラムの規定緩和を要求したとき、アオヤギとミソノはそれを突っぱねたと言ったね? その後ミソノは、再度上層部が同様の要求をしてきた場合に備えて秘密裏に『虫』の権限を分割し鍵をかけた」


「同時に表向きには、上層部の溜飲を下げるため、代わりの開発をした。それが『目』だ。アオヤギとミソノにより練られたコンセプトは凶悪な犯罪者など、危険なユーザに対する処置を行わせるための自律型AIだが、ミソノが考えたその真の意図は違う」


「それは、『虫』からの一切の関与を受け付けない自律型AIだ。ノアボックスが『虫』を検閲の道具にできるよう改修したとしても一切の影響を受けず、ノアボックスに立ち向かうことさえできるようなAI。つまり、ゴメンマチ家にとって強力な味方となってくれるような存在として作ることを裏のコンセプトとしていたのさ」


「ミレイはその『目』のプロトタイプとして最初に作られたAIだ。アオヤギがノアボックスを去ってから数年後にようやく予算の承認がおり、開発された」


「ミレイは美しく、女神のように、人々の安寧を守ってくれるようにと願いを込めて作られた。実際、その希望のとおり、ミレイは明るく、優しい、けれども強い女神のような気質を持っていたし、その働きぶりも期待に適うものだった。ミソノと共に、表向きの『目』としての職務を遂行するための課題の抽出、制度や組織体制の観点からの改善など、精力的に仕事をしていた」


「全てがうまく行くと思われていた」


「――――だが、ミレイはある日突然その姿を眩ませた」


「ミソノは必死になってミレイのことを探したが、いくら探しても見つからなかった」


「そこでミレイに代わる『目』のプロトタイプとして作られたのが僕さ」


「僕が作られて半年後、ミレイは見つかる。鬼のような禍々しさと、氷のような冷徹さを持って。オニヅカ家最後の人間の側近となっていた」


「ミソノはミレイに自分のもとに戻ってくるように説得を試みた。だが全く取り付く島もなく、一蹴された」


「彼女に何が起こったか全くわからない。人が変わったかのようだった。オニヅカ家の敵としてミソノのことを恨んですらいた」


「そのとき、オニヅカ家最後の人間の側近になったミレイがやっていたことは、反対勢力の粛清だった。オニヅカ家の野望を推し進める上で邪魔となる人々をどんどんと切っていったのさ」


「このまま彼女を自由にさせてしまってはノアボックスの暴走――人類の危機に繋がりかねない。そう思ったミソノは、ミレイを無理やりにでも止め、ミレイの代わりとなってノアボックスの運営を握り、その動きを抑制するAIを作ると決意した。そうして作られたのが三号だ」


「同時にミソノは、ミレイのデータを格納するサーバの保管場所を探し、シノノメだと特定した。基板を物理的に壊すためにね」


 ……三号がミレイに似せて作られているのはそのためか。危険なAIとなってしまったミソノと取って代わるために。


「ミソノは電脳空間を出て、ヤナギ家にある物を託し、そしてシノノメに向かった。その結果が……その墓だ」


「……うちに、託した?」


「サトルくんが今左手の小指につけている指輪だよ」


「もとはミソノの持ち物さ。スマートリング。僕たち『目』のプロトタイプの『権限』が格納されている。『虫』への接続制限を解除する権限や、思考回路のブーストだったりね」


「僕たちは作られたAIだからいくらでもチューニングできる。けど、あえて人と同じ程度のことしかできないようにしてある。その制限を解除するための『権限』をそのスマートリング内の極小基板に入れて、物理空間に持ち出していたのさ」


「……ミレイの『権限』も入っている。……だからミソノはそれをゴメンマチ家の末裔に指輪を託した」


「そして、ミレイはその『権限』を手に入れるために物理空間に進出しようとしているというわけだ。……騒ぐ邪魔者は『虫』で消し、自分は人を超えた能力を手に入れて――理想の世界の神になるために」


 理想の世界の神。

 ふと、「あわれなおにのゆくすえ」の歌詞が頭に浮かぶ。

 ――あわれなおにのゆくすえは じごくのぬしかせかいのかみか――

 

 ミレイはこの世界を我が物にし、神になろうとしている。

 それを見越して、ミソノさんは……。


 左手の小指、サイズの割に線の太い黒い指輪を見やる。

 これが……ミソノさんから託されたもの……。

 ――だから、お守りの中に隠されていたのか。

 そして、サイズの割に線が太いのは、中に基板を埋め込んでいるためだったのか。

 目を凝らしてみれば、黒色の奥で微かに青い光が灯っているようにも見えた。


「ミソノがヤナギ家に訪れたとき、ヤナギ家は事情を聞き、快く受け入れてくれた。ミソノは巻き込みたくないと、その後の自らの行き先を告げなかったようだが……それが却って裏目に出るとはね、実に残念だ」


「その墓に刻まれている10年前の日付はね、ミソノがトラックに潰された日さ。黄土色の箱のマークのあるトラックに潰された日」


「……同じだろう? ヒカリくんの家も」



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