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06-09



「シノノメは三方を山に囲まれている。もう一方は海だ。ここ、クチナシから向かった場合は、シノノメの西側の山から入る形になるから、シノノメを挟んで向こう側、つまり東側に海が見えるはずだね。そして海に向かって下り坂の道路が続く」


「だが、海までずっとなだらかに斜面で繋がっているわけではない。海の手前で大きな段差があって、実際の地形は、海岸段丘と言った方が近い。海までの道路はその段差を滑らかに結んでいるから、ずっと均一な傾斜の下り坂が続いているように感じるだけさ」


「昔、学校で習ったかな? 海岸段丘の利用のされ方はなにか。……主に農地だ。河川などがあれば水田としての利用もあり得るが、基本的には水源から離れている場合がほとんどのため、畑や果樹園等として利用される」


「シノノメも例外なくそうだ。記録に残っている限り、シノノメという地域は、農地、主に畑として利用されてきている。2020年代の環境悪化が顕著になる遥か前から、大多数の人が『ボックス』に移住するまで、多少農地を潰して住宅地とするところが増えた程度で基本的には畑としての利用が続いている」


「環境の悪化や戦争など、農業人口の減少が深刻となる中でもそれは変わらなかった。シノノメはこの国の食料自給率を支える数少ない農地の一つと言っても過言ではないのさ」


「『ボックス』は物理空間のコピーだから――少なくとも『ボックス』リリース当初は――電脳空間側のシノノメだって農地であって然るべきだ。しかし何故か今は国有の自然公園になっている。……見世物もないのに、なぜそんな貴重な農地を国有の自然公園なんかにするんだ、と思わないか?」


「農地として利用を続けた方がよっぽど国益になるだろう。それかいっそ振り切って、農家から土地を買い取って大規模商業施設でも作って経済を潤す方がよっぽど合理的だ。その判断をできる人間が全くいなかったとは考えにくい」


「つまり、電脳空間側のシノノメが国有の自然公園だという情報はあまりに不自然――物理空間側のシノノメに注意を向けるための方便としか思えない」


 サイカワの論説を聞くにつれ、自分の中の疑いの気持ちが強くなっていく。

 かつての依頼人のことを信じたい気持ちも同時にあって、それは、論理で同意する部分と感情的に否定したい部分とがないまぜになった黒く暗い感覚だった。


「……仮にそうだとしても、電脳空間側のシノノメについては、ミレイも騙されて自然公園だと思いこんでいて、調査するべきと思えなかった可能性を否定できないんじゃないのか」


「あくまで何も知らない社長令嬢だった、と信じたいんだね? ……では、実の母とミレイが言い張るミソノのことはどう説明するんだい?」


 ぐうの音も出ない反論だった。

 ミソノがミレイの実の母なら、10年前に実の母が亡くなっていることを知らないはずがない。しかしながらミレイは、母が行方不明になった、と言った。ミレイが嘘をついたことは否定のしようがない。


「……仮にお前の言うとおり、ミレイがミソノさんの死のことを隠していたとして――嘘をついてまで俺達をシノノメまで連れだす理由は一体何だ?」


 のっぴきならない理由があったのかもしれない。

 実の母の死を隠してまで確認したいことがあったのかもしれない。

 そう言える理由を探しながら、サイカワに投げかけた問は、予想もしない回答によって砕け散る。


「……ミレイが物理空間に進出するための下準備、かな。その一つがシノノメの工場の視察。ミレイの物理空間上の身体を作っている工場のね」


 ミレイが初めて部室に来たときのことを思い出す。

 彼女は最初、物理空間に行くことが自身の望みと言った。

 ――――あれは「見に行きたい」の言い間違いではなく本心――?


「……まさにあの童謡のとおりにコトは進んでいるのさ。自律型監視AI『目』のプロトタイプ初号、ミレイの野望によって」



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