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05-15



「……先生、私達にできることはないのかな? 目立つ行動を取るべきじゃないことはわかっているんだけど、私達も何か力になりたいよ!」


 ヒカリが隣にいるアオヤギ先生の方を向いて、力強く提案した。

 

 自分の身を案じるよりも、人のために行動することを選ぶんだな。

 わかっていることだけど……お人好しだよなぁ……。

 万が一のことを考えるとあまり目立つ行動を取らせるのは心配なんだけど、言っても聞かないだろうな。


 アオヤギ先生とミレイが例のメッセージの発信元について調査している間、我々「手助けクラブ」が手持ち無沙汰であることは事実だ。

 ヒカリの言うように、できることなら我々も何か調べたりして、ミソノさんの行方に見当をつけたり、もしくはノアボックスの情報を集めることで間接的にでもミソノさんを助けることに貢献したい。

 なにか、調べることのできるツテとかアテがあれば良いのだが……。


 そんなことを考えていたら、ヒカリを諭すようにミレイが声をかけた。


「ありがとう、ヒカリちゃん。その気持ちはすごく嬉しいわ。……けど、わかっているでしょう? サトル君と常に行動を共にしている貴女は、サトル君と同様、目をつけられている可能性が高いの。…………貴女にまで何か起こってしまったら……私は悔やんでも悔やみきれないわ」


 至極真っ当な指摘であった。

 しゅんとするヒカリ。でも……と口籠ってみるが、その先に続けられる反論はない。



 ……やはりここは大人しく待つしかないのか?

 そう思ったとき、意外な一言が聞こえてきた。


「……なくはない。ヒカリとサトルだからこそ調べられるものがある。それも比較的安全に。……いや、でも……」


 アオヤギ先生が小さく呟いた。

 ……珍しく歯切れが悪いな。

 それはそれとして、ヒカリと俺だからこそ、とはどういうことだろう?


「ホント? だとしたらぜひ力になりたいな! ……けど、私とサトルだからこそってどういうこと?」


 不意の沈黙。

 アオヤギ先生は少し答えにくそうだ。


 ……そんなに言いにくいことなのか?

 視線を下方に向けて数秒、逡巡したかに見えた先生は、意を決したように呟いた。


「……あまり、良い思いはしないかもしれないが……良いかな。ヒカリの親御さんに関係してるんだよ」


 ……ヒカリのお父さんとお母さんが?


「私のお父さんとお母さんが?」



――――――



「……突然のことだったから、ヒカリは聞いていなかったかもしれない。…………もしかしたら、あの事故が無かったとしても彼らは伝えるつもりがなかったかもしれない。……隠し事をしたいわけではない……ないのだけど、他所様の家庭でのことを私の口から伝えて良いものか……」


「…………いいよ、先生。教えて?」


 長い沈黙。

 時計の秒針の音だけが静かに響く。


 何回それが鳴ったか、わからなくなった頃、アオヤギ先生は、その口を開いた。


「……わかった」


「……私はゴメンマチ家の末裔の一人だと言っただろう? ……他にもいるんだ。ゴメンマチ家の末裔が」


「とは言っても、厳密にはゴメンマチという姓を持った人は現在いない。私の家のように他所に嫁いだり、または婿に入ったり、養子縁組などによって名を変えて生き延びているというのが事実だ」


「……主に四つの家に分かれたと聞いている。分かれていく過程で互いに疎遠になってしまったから、そのうち二つしか私も知らないけど。一つはうち、アオヤギ家。もう一つが」


「……ヤナギ家。君の家だ、ヒカリ」


 アオヤギ先生のこの言葉を聞いたとき、ふと、10年前のあの日の前日、親父がこぼした一言が頭によぎった。


 ――立場もあるだろうにこんなに仲良くしてくれて――


 そうか。

 そういうことだったんだ。

 親父の言っていた"立場"と言うのは、ノアボックスの関係者である俺達ノナカ家と、それと対立するゴメンマチ家の血筋のヤナギ家、という構造のことを言っていたのだ。


「ゴメンマチ家の末裔のうち、ヤナギ家は最後まで物理空間に残った家なんだ。物理空間側からノアボックスを監視するために。先程、10年前の物理空間側の情報をゴメンマチ家は得ている、と話しただろう。それは、ヤナギ家からの調査報告で得たものなんだ」


「……だから、ヒカリのお父さんとお母さんの遺品の中には、物理空間側からノアボックスを監視していた記録が残っているかもしれない」


 なるほど。

 それが、俺達のできること。俺達にしかできないこと、か。


 たしかに、その通りだ。

 ヒカリの家は老朽化に伴って潰してしまったが、遺されていた遺品はウチのガレージにいくつか移して保管してある。

 それを見ることができるのは、物理空間に住んでいる俺と、唯一の遺族たるヒカリだけだ。


 ……はは、思ったより冷静だな。

 衝撃的な事実が明かされたというのに。

 この世界の暗い歴史をしこたま聞かされたから感覚が麻痺しているのだろうか。

 現実味がない、というのが真実かもしれない。


 …………ヒカリのお父さんとお母さんがそのことを隠していた、とは思いたくない。いや、隠していたのは事実だが、そこに悪意があったとは思いたくない。


 ウチの親父は"立場"という言葉を使った。

 ということは、少なくとも親父はこのことを知っていたんだ。

 ならば、ヒカリと俺がこのことを知らされていなかったのは――。


「……先生、教えてくれてありがとう。……きっと、巻き込みたくなかったんだろうね」


 ――誰を? 

 わかっている。ヒカリと俺、だよな。


「私とサトルが仲良く遊んでいることが、とてもうれしそうだったから。お父さん、お母さん」


 いつも良くしてくれた。

 いつだって一緒だった。

 その裏には、葛藤があったんだな。


「……すまない。やはり言うべきじゃなかった」


「ううん、先生。教えてくれてありがとう。私、嬉しいよ。お父さんとお母さんが背負っていたものを知ることができて」


「それに」


「それを知ることで友達のことを救えるかもしれないのなら、私はそれを知るべきだったんだと思うから」


 芯の通った真っ直ぐな声。

 揺らぐことのない目線は目の前の恩師をしっかりと捉えている。

 

 その目線に応えたアオヤギ先生の目は、少し潤んでいるように見えた。 


「ありがとう、ヒカリ」


 アオヤギ先生は小さくお礼を述べた。


「よし! そうとわかればさっそく明日にでもガレージを漁ろう、サトル!」


「……おう」


 端末の画面に小さく映る幼馴染に、これまで以上に逞しさを覚えながら、その決心を悪戯に揺るがすことのないよう、努めて端的に返事をした。



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