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05-01



――――――


「明日、用事あるか? 無ければついてこい、仕事教えてやる」


「ごめん、父さん。明日はヒカリと、ヒカリのお父さん、お母さんと出かけるんだ」


「ヤナギさんと? そうか、どこか連れていってもらえるのか。どこに行くんだ?」


「シノノメだよ! 海水浴に行くんだ」


「結構遠出だな。そんなところまで連れて行ってくれるのか。……いつもありがたいなぁ。立場もあるだろうにこんなに仲良くしてくれて」


「……立場? なにそれ?」


「ん? あー、うーん……まぁ、大人の事情ってやつだ。お前はまだ気にしなくて良い。とにかく明日は思う存分遊んで来い。俺からもヤナギさんにお礼しておかなきゃな」


「……うん」



「ところで」


「サトルはヒカリちゃんのこと、好きか?」


「な、なに? 急に」


「照れるな照れるな。別に誰にも言いふらしたりしないから。ほら、どうなんだ」


「…………好きか嫌いかで言えば、す、好きな方かな」


「はははっ、素直じゃねぇなぁ。……そうか、好きか」


「なっ、なんだよ、悪い?」


「悪いことはないさ」


「じゃあ、なんなの」


「いや、聞いてみただけさ。…………その気持ち、大事にしろよ。いつか、いつの日か、選択の時が来る。その時に後悔しないように、じっくり向き合っておくんだ」


「…………えっ? どういうこと?」


「ま、そのうち分かるさ。……ほら、明日朝早いんじゃないのか? さっさと寝ろ」


「ねぇ! 父さん、どういうことなの? ねぇ!」



――――――



 左頬に焼けるような熱さを覚え、目を覚ました。

 家に着いたとき東の空を微かに照らしていた太陽は、すっかり天高く昇っていて、少し西寄りから地表を照らしている。

 

 ヒリヒリとする頬を撫でながらベッドから身体を起こす。

 冷蔵庫から水を取り出して飲むと、身体の中を冷たいものが流れていく感覚を覚えた。


 

 随分と懐かしい夢を見た。

 いや、夢というより記憶の一部を思い出したという表現の方が正しいか。


 10年前のあの日の前夜、親父との会話。

 翌日の出来事があまりにショッキングで、記憶に蓋がされていたみたいだ。

 今の今まで忘れていたが、そういえばそんなこと話したなぁ。


 ……大事に思う気持ちに変わりはないけれど。



 今にして思うと、"立場"とはなんのことだったんだろう。

 未だに親父からは教えてもらえていない。


 ヒカリに関して親父が触れる話題は一つだけ。

 時折、未だに仲良くしているかを聞いてくるくらいだ。



 仲良くしている、と答えると決まって微笑んで、そして少し寂しそうな顔をする。


 なぜそんなことを聞くのか、と尋ねても答えてくれない。

 もやもやとしつつも、何かを咎められたりするわけでもないので、気に留めないようにしていた。



 だが、今ふと、思う。

 きっと不意に思い出した記憶の一部がそうさせたのだろう。

 


 親父の質問は――"立場"とやらに関係があるのだろうか。

 


 窓の外を見ながら、口から出た独り言は誰にも届かない。


 虫の音すら聞こえない初夏の昼過ぎ。

 緑々と茂る雑草に照らし返されて届く日差しは、起き抜けの目には眩しすぎて、顔を背けた。



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