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03-05



「童謡だから音源がないのかもしれないね。……とすると、自分で歌うしかないのかな。……この曲って最初の2フレーズくらいしか知らないけれど、それでフルなのかな」


「僕もそのくらいのフレーズまでしか歌えないけど……たしかに途中で終わっている感が拭えない。少なくとも僕は、その先を歌える人に出会ったことはない。だけど、僕は中途半端なものをプレゼントとして渡したくはない……曲の全貌を知るには楽譜を探すしかなさそうだ」


「けどインターネットには楽譜に関する情報が全く無いぞ? 作者と、いつ頃その曲が出たかくらいしか目ぼしい情報は書いてない」


「……音楽の教科書とか、本にしか載ってないのかもね」


 やはり、そのパターンか。古い童謡であるという点から紙媒体でしか楽譜情報が保存されていない可能性が頭をよぎっていた。より具体的には、その曲が世に出た年代と、有名になった年代から、さらに嫌な予感を覚えていた。


 この曲が世に出たのは2120年代で、電脳空間「ボックス」がリリースされた後の時期である。

 電脳空間「ボックス」は物理空間をコピーしていくところから始まった。今でこそノアボックスは世界の全てを握らんとする、いや世界を作っている大企業だが、「ボックス」をリリースした当初はいちベンチャー企業でしかなかった。そのため、電脳空間を構築できるサーバのリソースも限られ、物理空間の全てをコピーするには至らなかった。歴史的、経済的観点から最も重要なもの、必要とされているものからコピーを開始していったのだ。「ボックス」の売り上げが伸びていくにつれて、サーバのリソースを増やし、余裕が出てきたところから、重要度の低いもののコピーを始めていった。

 つまり、その過程においては、ちょうどその時期に世に出たばかりで、世間からみた認知度および重要度の低かったものは電脳空間にコピーされていない可能性がある。

 電脳空間「ボックス」はいまや人類の命運を預かる最重要インフラになっているが、その起こりはあくまで商売道具だ。ニーズの多いものから順に対応していくに決まっている。ユーザのコピーしてほしいというニーズが極端に少ないものは、対応が後回しになって、そのまま忘れられていてもおかしくない。


 この童謡の世間的認知度が高くなったのは、作者が亡くなってから約50年後。それまでは無名だったとすれば、少なくともその年代まではその楽譜情報の電脳空間へのコピーがなされていない可能性が高い。

 では有名になった作者没から約50年後にコピーされていたかというとそれも怪しい。「ボックス」のリリースからも50年近く経っている。そのころには人類の移住はほぼ現在と変わらない程度にまで進み、電脳空間の発展も目ざましかったはずだ。寂れきった物理空間から何かをコピーしたいという依頼も皆無だったろうし、というか物理空間に人もノウハウも失われかけていただろうから、コピーしたくてもできなかったと推測される。

 そう、サイカワの彼女が気に留めた童謡「あわれなおにのゆくすえ」の楽譜情報は――もしかしたら電脳空間にコピーされているかもしれないが――物理空間にしか残されていない可能性の方がよっぽど高いということだ。



「……物理空間にしかないかもしれないな」


「その可能性はあるね。……こっちも図書館に行って情報を探してみるけれど……」


「ここから明日行ける図書館はワカクサの図書館だけだ」


 ワカクサは隣町の名前だ。家からもそれほど遠くない。それ以外に図書館が残っている町はよく知らない。

 車で半日以上かかる遠くの大都市にはこの日本において最大級とカテゴライズされる図書館があるらしいが、あくまで()()()だ。行ったことの無い、安全性のわからない場所に半日以上の時間をかけて貴重なガソリンを消費してまで行く勇気はない。


「そこにあることを祈ろう! よし、サイカワくん、私たちは明日この周辺で一番大きな図書館に行くよ! サトルはワカクサね!」


「わかった、ヒカリくん。ありがとう。サトルくんも、協力ありがとう。そして、気を付けて。物理空間は荒廃が進んでいると聞く。怪我などしないように」


 サイカワはそう言うと深々と頭を下げた。

 初対面の印象は一言多いいけ好かないやつだったけど、こう話してみるとそこそこいい奴じゃないか。きっちりとお礼も言える律儀な男のようだし。


「怪我なんてしたら、そのしょぼくれた雰囲気がさらに暗くなってしまうよ。恩人がそうなってしまったら、僕は心苦しくて見ていられないよ。」


 ……こいつ…………。

 明日は風邪でもひこうかな。



 

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