03-03
「――ははぁ、つまり、彼女へのプレゼントを選ぶのを手伝ってほしいってことなんだね」
そう相槌をうつヒカリ。
向かい合うように座った男は、照れくさそうに頭をかく。
「そう。さすが、話が早くて助かるよ。……恥ずかしながら彼女ができたのは初めてでね。何を選んだらいいのか判断に困っているのさ」
気取ったような口調は少しばかり鼻につくが、どうやら内面はそこそこに初心なようだ。纏う雰囲気だけを見て、相当な女殺しと思い込んでいたが、人は見かけにはよらない。
……べ、別にモテそうでいけ好かないとか、そんなんじゃないんだからね!
男の名前はサイカワ チヒロ。
少し長めの茶髪には緩やかにパーマがかかっていて、その甘いマスクに合うようにキレイめのセットが施してある。ダボつきすぎない適切なゆとりを持ったスラックス、白のシャツにくすんだ色調のジャケット。やや大人びた服装もあいまって、とても二十代になりたての青年とは思えない色香を放っている。それでいて粘り付く脂ぎったような下品さは微塵もなく、若さゆえか――初めて抱いた印象のように――柑橘類のような爽やかさがその身を包んでいる。
そう、ルックスは並外れて秀でている。だが、見た目に中身が伴うとは限らない。先に述べたように、見た目とは裏腹に中身は初心な少年だった。
1週間前に人生で初めての彼女が出来たのも束の間、彼女の誕生日が思いの外近く、急いでプレゼントを準備しなければならない状況とのことだ。しかしながら彼女ができたのが初めてであるうえに、付き合って大して時間が経っていないので、プレゼントを選ぶに選べず、困り果ててウチを訪ねてきたそうだ。
助けてあげたいとは思うのだけど……俺だって彼女できたことないからそんなのどうしたらいいかわかんないんだよなぁ…………。けどきっと、藁にも縋る思いで来てくれたのだろうから、たとえ微力でも何かの力になれるよう努めなきゃな。
「たしか、サトルくん……だったよね、あまりそういうの得意そうに見えないけど……とにかく、よろしく頼む」
……いや、やっぱり無理って言っても良いかもしれない。ひと言多いタイプの人間だなこいつは。たぶん悪気はないと思うけど。所謂、残念なイケメンってやつか?
思わず、はぁと溜息が出た。
相当面倒くさそうな顔をしていたのだろう、なんて答えていいものかと思いながら携帯端末の画面を見たら、少し苦笑いをしているヒカリと目があった。
「私もあまり得意じゃないけれど……三人寄れば文殊の知恵って言うしね!」
……お人好しだなぁ。
「……あぁ、手伝いならしてやるさ。しかし、何を探すか、大枠とか方向性だけでもお前が考えるべきだ。お前の彼女なんだから」
そこすら俺たちが決めてしまったら、いよいよもって誰からのプレゼントかわからなくなってしまう。そんなもの貰っても彼女だって嬉しくないだろう。
サイカワは頭を抱えながら俯いている。
「あぁ、そのとおりさ。君が言うことにはまったくの同意さ。けどなかなかどうして難しいんだよそれが」
「そんなに難しいの? 彼女の好きなものを買ってあげたらいいんじゃないのかなぁ。アクセサリーとか」
ヒカリが助け舟を出す。その言葉を聞いて何かしらのインスピレーションでも浮かんでくれればと思ったけれど、そう簡単であればそもそもここには来ないだろう。
サイカワはどんよりとした顔をあげて答える。
「彼女、アクセとか化粧とかに興味ないんだ。あんまり服とかにも興味がない。最初にあったときだってかなりラフな格好で……その……下着すらまともにつけてなかったんだ」
そ、それは年頃の女性にしてはかなり珍しい方ではないだろうか。
偏見かもしれないが、同じ年頃の女性はその多くがおしゃれな服飾品に非常に高い関心を持っていると認識している。だからこそ、不安そうな表情を少しだけにじませながらも、一生懸命にパートナーのお眼鏡にかないそうな商品を探している男性を女性用服飾品のお店で見かけるのであろう。ヒカリの買い物に付き合わされるたびに目にした光景だ。
その大多数の男性が――それが成功裏に済んでいるかは別にして――多数の実績を積んできた方法を使うことができないというのは、女性と付き合うのが初めての青年としては確かに困ってしまう状況だろう。
そういう時は。相場は決まっている。というかこれしかもう思いつかない。
「それは確かにプレゼント選びに困るな。だが、他にも選択肢はあると思うぞ。おいしいものを食べに連れていくとか」
「あっ、たしかにそれもいいかもね。変に高いものもらっても重く感じちゃうかもしれないし。付き合って1週間なんでしょ?」
サンプル数1なので、これを多くの人間の意見として捉えてよいかは兎も角、女性(幼馴染)からも賛同を得られた。
というか、重いとかそういうのも考えないといけないの? 難しくない?
「……彼女、食にも興味が薄いんだ。効率が良いからと言って、いつもゼリーとかそういう類の完全栄養食とかしか食べないんだ」
……仙人か何かなの?
思わず絶句してしまう。サイカワの彼女は、結構珍しいタイプの人間のようだ。
ヒカリを見ると、あんぐりと口をあけて同じく言葉を失ってしまっていた。信じられない、みたいな顔だ。
「……お前がここに来た理由がわかったよ。たしかにスーパーハードモードだそいつは」
「だろう? これでも寝る間を惜しんで考えたのさ。けどこれ以上自分だけで考えるのはもう無理だ。誰かの力を借りないと何も準備できないまま誕生日を迎えてしまう」
「彼女さんの誕生日っていつなの?」
「……明後日」
「明後日ェ!?」
「明後日ェ!?」
ヒカリと声が重なった。まったく同じタイミングで同じリアクションだった。いや誰でもこういう反応になるよ。
明後日ってことはもう実質明日しか準備できる時間が無いじゃないか。今日はもうこんな時間なんだから。……だからどうしても今日相談したかったんだなこいつは。
バツの悪そうな表情を浮かばせながらサイカワは項垂れている。
「ま、まだ時間は……ぎりぎりアウトっぽいけど……ないわけじゃないから何とか頑張って考えよう! ね、サトル!」
ちょっと。本音が漏れてますよ、ヒカリさん。けど気持ちはわかります。
画面越しに、自分が依頼人と似たような格好で頭を抱えていることに気付いた。




