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02-09



 黙って聞いていたヒカリが大声を上げて立ち上がる。

 かなり興奮した様子だ。


「や、やっぱりミレイちゃんってノアボックスの社長令嬢だったんだね! 名字がそうだからそうなのかなって思ったんだけど、変に噂になるのも良くないと思って誰も話題に出来なかったんだよ!」


 あまりの大きな声に、身体をビクッと震わせたミレイだったが、すぐに直りヒカリに答える。


「えぇ、そうよ。気を遣わせてしまっていたようね、ごめんなさい。そしてありがとう。大っぴらにすると萎縮されてしまったり、妙に敵対視されたりとあまり良い思いをしないから……。私個人を見てほしくて、名字や私の家系については極力触れないようにしていたの」


 そうだったのか。

 だからか。部室に最初に来たときの名乗りが名前だけだったのは。

 名前だけの名乗りに少し違和感を覚えていた。おそらく、いつものクセで名前だけ言ってしまったのだろう。


「いや、そんな、気を遣ったなんて。きっと皆が、ミレイちゃんが嫌な思いをしたらやだなって思ってただけだよ!」


「そう……ありがとう。できれば、今後も今まで通り、ノアボックスの関係者としてではなく、私個人だけを見て、ミレイとして接してもらえると嬉しいわ」


「もちろんだよ! ミレイちゃん!」


 ヒカリとミレイはガッチリと握手を交わしている。

 なんて熱い青春ドラマなんだ。

 俺も握手したい。できないけど。


「サトルくんの家業のことも、実はじいやから聞いて知っていたの。……勝手にシンパシーを感じて、同じ思いかもしれないと思って、敢えて触れないようにしていたけれど」


 ミレイがこちらに――カメラに視線を移して話しかけてくる。


 ああ、やはり知っていたか。そりゃあそうだろうな。家族の中に知っている人がいてもおかしくないだろう。親と子の関係だから。

 ……というか、ちょくちょくじいやって出てくるけど、じいやってあのじいや? アニメとかでコテコテのお金持ちっぽいキャラがよく言うじいや? 本当にあるんだね、なんか感動。


「私の正体が知られたのなら、挨拶しないわけにはいかないわ。……いつもお世話になっております。弊社ノアボックスのサーバ保守管理を請負っていただいている、ノアボックスメンテナンスのノナカさん」


 ミレイが少しこなれたビジネスライクな挨拶をして見せる。むず痒くてしょうがない。


「……よしてくれよ、俺はまだ継いでないんだから。いま現在、俺はそこの社員じゃない」


「あら、私だってそうよ。けどいずれはお世話になる関係じゃない。……貴方達がいないと、私達は生きて行けないのだから。本当に感謝しているの」


「…………親父に伝えておくよ」



 ウチの会社名はノアボックスメンテナンス。

 ミレイの言う通り、電脳空間「ボックス」を構築しているサーバの保守管理をしている。

 ノアボックスが親会社で、ノアボックスメンテナンスが子会社だ。


 ノアボックスが電脳空間「ボックス」を立ち上げて以来、人類は続々と電脳空間に移住したが、全ての人間が移住したわけでは無い。

 移住できない人もいる。仕事の都合で。


 電脳空間の構築には、当たり前だがサーバが必要だ。

 サーバはどう足掻いても物理空間に置くしかないので、物理空間に残って保守管理する人員が必要になる。 

 サーバの寿命は永遠じゃないから。多くの人が電脳空間に移住したその世界において、サーバの死は人の死を意味するから。


 電脳空間「ボックス」のリリース以来、俺の家系は代々、そのサーバ保守管理を請け負ってきた。

 どういう経緯でこの親会社・子会社の関係が始まったかは知らない。けど、あくまでビジネス上の関係なのだろう。家族ぐるみで付き合うようなウェットさは記憶に無い。証拠に、少なくとも俺はノアボックスの後継者たるミレイのことを知らなかった。 


「今日はお互い親父の会社のことは忘れて、同じ大学の同じ学年の学生同士ってことでやらせてくれ。会社のことが頭にあると、なんというか、すっごくやりにくい」


「同意するわ、サトルくん。会社のことが頭によぎるとどうしても……ね。同学年の学生同士ってことで……」


 ミレイも同じ気持ちのようだ。今後の当面の我々の関係性のあり方に同意が取れかけたところでヒカリが割って入る。いつものニコニコ顔だ。


「そこは()()同士、でいいんじゃないかなぁ!」


 あっけらかんと、シンプルなワードが飛び出した。

 会社同士の付き合いという、なんだか棘々したような、ザラザラしたような、兎にも角にも形容しがたいけれどもなんとも扱いにくい嫌ななにかが全て吹っ飛んでいくような感覚を覚えた。

 ……これを自然とやっちゃうんだから、やっぱりヒカリには敵わない。


「……ヒカリちゃん。私、貴方には勝てない気がするわ」


 思わぬところで完全に同じ思考を見て、思わず吹き出してしまった。





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