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02-06




 久々の客人が帰った後の部室。


 カーテンが風に吹かれてそよいでいる。

 夕方にさしかかり少しばかり傾いた日によって、窓のサッシの影は伸びていて、思いの外長い時間が経っていたことを物語っていた。


 ――ミレイの名字はオニヅカなんだな。

 恐ろしいほどの美人がいるという噂しか聞いたことがなかったから、知らなかった。いや、名前すらついさっき知ったしな。

 電脳空間についても他の人と比べて妙に詳しいし……まさか本当に同じ業界の、あの一族の人間なのだろうか?


 ……いや、考えすぎか。世にはオニヅカさんはたくさんいるし、電脳空間に詳しい人もたくさんいるか。

 うん、我ながら妄想が過ぎる。


 ミレイを連れて行くのは今度の日曜日。

 車の整備だったり、地図の用意とかしとかないとな。

 カーナビの地図の更新が道路の老朽化に追いつかないから、結局地図が必要になるんだよな。世知辛い。


 部屋の掃除は……そういえばヒカリが厭に静かだな。


「ヒカリ?」


「ん?」


 もぐもぐと口を動かしている。

 まだ残ってたのね、弁当。


 ヒカリはサンドイッチの最後の一切れを口に放り込むと、ふっと息を吐いてつぶやく。


「まさかシノノメなんてね。随分と久しぶりだなぁ。10年ぶりだ」


 ヒカリは柔らかな笑顔をこちらに見せた。


 私は大丈夫、そう言っているように感じた笑顔を。

 けどそれは俺がそう感じただけであって、ヒカリの真の思いはわからない。

 真実はヒカリだけが持っている。

 本当にそう思っていたのか。強がっていただけか。


「久しぶりに海が見られるね」


「あぁ」


「また探検してみようか」


「どうせ何もなさそうだけどな。でもアレか、ミレイが色々なところを見たいなら、それなりにぐるっと回ったりしてあげた方がよさそうだな」


「そうだね。……お花、持ってこうか」


「……あぁ」


「……お部屋の掃除は土曜日にしよう」


「……出発の前日にしとかないと、掃除したあとまた汚しそうだもんな」


「む。失礼な。さすがにお客さんを招くのがわかっているのにそんなことはしないよ、たぶん。きっと」


「そこは言いきって欲しかったよ……」


 2人でクスクスと笑った。


 その後は会話らしい会話がないまま、その日のサークル活動は終わった。


 それが答えであるような気がしたが、何も言い出せなかった。




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