ダンジョン境界線
「意外と寝ないでも大丈夫だったな。【体力強化】のおかげかな?」
スライムの素材を詰め込んだ危険物である容器を見張ること一晩。
時計の針はすでに早朝であると指し示していた。
結局、一晩が経過してもスライムとして動き出すことはなかった。
時々ボトル内の魔力精製水が減ったのを補充していたが、それ以外は特に変化なく退屈な時間が続いただけで終わってしまった。
これは、おそらくダンジョンの外ではモンスターを生み出すことはできないということなのだろうと思う。
というか、多分だけどこういうのは俺以外にも今まで世界中で研究されているだろうな。
誰かしらが成功していれば、それがニュースにもなっていそうだし、やっぱり無理なのだろう。
ということで、朝も早くからダンジョンへと行くことにする。
俺がレベルを上げるにはダンジョンしかないということだ。
【体力強化】のおかげか、時々仮眠する程度で一晩を過ごしたが、体に疲れはない。
適当に朝ごはんを食べ、出発の用意を整える。
仕事の用意とともに、一晩見張っていたボトルを持ち、いつも通りにF-108ダンジョンへと向かっていった。
ほぼ始発の電車に乗ってダンジョンの最寄り駅で降りてからギルド建物へと向かう。
今更だが、こんな朝早い時間でもギルド建物はしまっていたりしないようだ。
役所的な手続きを行う窓口はしまっているが、施設自体はライセンスカードで管理されているため、ロッカールームで装備を整え、地下のダンジョン入口も問題なく入ることができた。
ということは、やろうと思えば夜通しダンジョン探索もできるということか。
今のところ、やるつもりはないけれど。
F-108ダンジョンはギルド建物の地下階の一室に入口がある。
洞窟型で入ると暗く視界不良だ。
そのため、いつものように頭や腰につけたライトを点灯させ、ドローンも起動する。
そして、手に持ったボトル容器を観察する。
出入口である通路に入っただけだが、今のところ変化はなにもない。
もう少し奥に行く必要があるだろうか?
今日のこの朝のダンジョン探索は奥まで行ってレベル上げにスライムを探して倒すことではなく、このボトル容器からスライムが生まれるかの検証だ。
地上でおぜん立てした状態で容器を持ち込んだら、スライムが生まれるかどうかを調べるため、ダンジョン内の空気中から【収集】で魔力精製水を集めて容器に入れるようなことはせずに様子を見ながら少しずつ歩いていく。
少し気になったので、スマホも取り出して、地図機能を表示する。
ダンジョンの出入り口は厳密に言えばダンジョンではない。
通路を進んでしばらく行った先が正式なダンジョンになっているとのことで、その境目当たりまで歩いて行った。
そして、ダンジョン境界線を越えてすぐのことだった。
ボトルに反応があった。
手に持っていたボトルを前方に投げ出すようにして距離を取る。
反対の手に持っていたスマホは鞄側面にあるポケットに差し込み、代わりに両手に武器を取る。
ドローンを使って進んだ距離を計測していたこともあり、地図上における俺の位置はギルドから購入した地図のダンジョンの境目に到達したあたりで間違いないはずだ。
ということは、やはりスライムの再生は地上ではできないのだろう。
けれど、その準備は地上でも行うことができ、スライムが復活する条件を整えたものが再びダンジョン内に入ると動き出す。
多分、これに間違いないはないはずだ。
ボトル内部から液体モンスターであるスライムが容器を破壊しながら外へと出てくる。
こいつは実験用に低レベルの魔石を使用していたので雑魚だ。
が、ポーションを入れていたので通常種とは違うスライム亜種のグリーンスライムだ。
そいつに向かって苦無を投擲し、一撃のもとに機能停止させた。
「やっぱ、国もこういう実験しているのかもな。ダンジョン境界線がはっきりわかっているってことなんだし」
倒したスライムから素材を【収集】した俺はそう呟く。
ダンジョン内にはモンスターが出現し、そのほとんどは攻撃性を持つアクティブモンスターだ。
であるのに、地上にはモンスターがあふれ出るスタンピードなどはなく、ダンジョンは国により管理されている。
しかも、地図も公開できるくらいだ。
はっきりと「ここから先がダンジョンですよ」と分かる何らかの方法を国は認識しているのだろう。
それがどういうものかは知らない。
が、ダンジョン境界線は利用できそうだ。
昨日一晩で見守った結果、スライムを一体生み出すのに必要な魔力精製水の量もおおよそだが把握できた。
ということは、これからはダンジョン外でもレベルアップ用のボトル容器を中身入りで用意しておいてダンジョンに持ちこみ、生まれた瞬間に倒すという方法でレベルを上げることもできそうだ。
もっとも、その方法は人に見つかる可能性も高いので実際にやるかどうかは微妙だが、もっと正確に魔力精製水の必要量を把握しておけば、あと少し追加すれば復活するという状態のボトルも用意できるだろう。
それができれば、ダンジョン内に入り、人目が付かないところまで移動してからモンスターを生み出すことができるかな。
今後の効率的なレベル上げの方法についてある程度考えがまとまった俺は、出社までの時間が余っていることに気が付き、そのままダンジョン内を進んで地図の空白埋めをして時間つぶしをすることにしたのだった。
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