観察
場所は俺の住むマンションの自室。
そこで一つのボトル容器を用意して魔石を入れる。
魔石とともにスライムの粘液とポーション、そして魔力精製水を注ぎ込んでいき、容器に蓋をする。
これでグリーンスライムがダンジョン外である俺の部屋でも生まれるのかどうかを確認することとした。
「……よく考えたら、スライム素材を入れた容器の中をまじまじと見るなんて初めてだな」
大きな容器に入れられた各種液体と一つの魔石。
それを見ながら思ってしまった。
今までは真っ暗闇のダンジョンの中でしかこの作業をしていなかった。
容器の中に魔石を入れたときには自分の目で見ていたとしても、スライムの粘液や魔力精製水などは【収集】の力を使って視認せずに容器内に収まるようにしていたからな。
あとは、スライムが復活して動き始めるまで放置だ。
その間は歩き回ってほかのスライムを倒したりするだけで、異変があるまでに容器内部を確認することもなかった。
それが今、こうしていくつかの素材が入った容器の中を目で見て観察までしていた。
……動画でも取っておこうかな?
なんとなく記念にでもなるかと思い、俺は荷物の中からドローンを取り出してセットする。
飛行させずに録画機能だけを使って容器の中を映すように記録する。
そうして、しばらくは俺も容器を観察し続けた。
最初は緊張していたというのもある。
もし、急にスライムが復活したときのことを考えてだ。
当たり前だが、ここはなんの変哲もない市街地で、モンスターに対しての守りなども考慮されているはずもないごく普通のマンションだ。
万が一にもスライムが俺の部屋から抜け出して、ほかの住人に発見されたらどうなるか分かったものではないからな。
そうして、緊張しながら観察を続け、一時間以上が経過したころには俺は飽きていた。
今日は少し早めに仕事を終えて、そこから琴葉と合流しダンジョンに潜っていたのだ。
数時間に及ぶ探索で琴葉のレベルを上げてから帰宅し、そのあとにこうして新たな実験に着手した。
が、その実験があまりにも動きがなさ過ぎた。
容器に入れた内容物に変化が出ないか見守るだけで、実質ほとんどなにも変わらない時間が長く続くというのは、想像以上に退屈な時間だった。
「……アラートをセットしとくか。えっと、撮影の対象物が動いた際に音が鳴るようにする設定は、っと」
というわけで、あまりにも動きのない時間に飽きた俺は見張りを機械に手伝ってもらうこととした。
ドローンの設定を変更し、容器に動きがあるまではその場を離れることとする。
もちろん、完全に放置し続けるわけではないけれど、このままだと風呂にもトイレにも行けないからな。
何かあればすぐにわかるようにセッティングした俺は、その後、キッチンに向かっていった。
「これは、実験失敗かな? やっぱり、ダンジョンの外でモンスターを生み出すのはできないのかも」
そうして、その後も容器を置いた部屋に出たり入ったりを繰り返したが、スライムが生まれることはなかった。
何時間待っても生まれてこないので、俺は苦無を片手に握りながら居眠りまでしてしまったくらいだ。
けれど、なにも変化がなかった。
実験は失敗のようだ。
といっても、完全に失敗というわけでもないかもしれない。
というのは、全く変化がないというわけではなかったからだ。
実はボトルの中の液体の容量が少しずつ減っていた。
おそらくは、魔力精製水が減少しているのではないかと思う。
なので、ときおりボトルの蓋を開けては容器内に魔力精製水を補充したりしていたのだ。
ダンジョン内でもスライムの復活には魔力精製水が必要であるとは考えていた。
が、それがどのくらいの量なのかは分かっていない。
一定量は必要であろうとは思う。
だが、もしかすると、スライムの核と粘液は魔力精製水を吸収することで復活するが、それには大量の魔力精製水が必須なのかもしれない。
あるいは、どれだけ魔力精製水があろうともダンジョン外ではスライムとして動き出すことはないかだ。
これを確認するにはどうすればいいだろうか?
もしも、いくら時間がたっても、あるいはいくら魔力精製水を補充してもスライムが動き出さないのだと仮定して、その動き出さなかった各素材入りのボトル容器をダンジョンに持ちこんだときにどういうことが起こるかを確認するというのはどうだろうか。
スライム再生に必須の条件を整えているのにダンジョン外では復活しないというのであれば、それをダンジョンの中に持ち込めば復活する可能性もあるかもしれない。
とりあえず、一応今日は徹夜して容器の観察を続けてみようか。
で、一晩たってもスライムが復活しなかった場合には朝早くにダンジョンに持って行ってみよう。
仕事の前にダンジョンに容器を持って入り、そこでスライムが復活するかを確認してから出社だな。
そう方針を決めた俺は、アラームが鳴ればいつでも戦闘態勢に移れるように気を配りながらも、ときどき居眠りしつつ夜を過ごしたのだった。
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