表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/36

9 図書館

 

 今日は汚い言葉が湯水の如く溢れ出てくる。私は疲れてるのかもしれない。図書室の椅子に座り、机に頭を預ける。


(図書館への希望が粉々に散った。文字が読めないんじゃ、どうしようもない。これからどうするか考えないと)


「ねぇ、マリー、聞いてる?」

 隣からウィルが何か話しかけてくる。


「はい?なんでっしゃろ?」

「君、言葉遣い変わっちゃってるよ」

「むむむ。いいんです。楽○カードマーン」

「頭、大丈夫?」

「大丈夫しゃないです」

 本当に…大丈夫じゃない。泣き出したい気分だ。


「――…だから、僕が文字を教えてあげようか?って言ってるじゃない」


 私はガバッと勢いよく起き上がる。


「今!なんと!」

「だ・か・ら!僕が文字を教えてあげるって」


 頭の上からパーっと光がさして、両手を広げ、天に登る光景が目に浮かぶ。私の脳内昇天だ。


(神様、仏様、ウィル様!)


「ありがとうございます!よろしくお願いします!」


「いいよ。そのかわり。―――……取引だ」


 ウィルの優しい笑顔が口の片側だけあがり、歪な笑顔になっていく。


「取引?」


「タダで教えるわけないでしょ?」


(そ…そんな、さっきまでの優しいウィル様はどこへ)


「一体…何を差し出せば‥」

 私は両手で自分の身体を抱え込む。

「いや、そんな貧相なものはいらないから」

(失礼しちゃうわね、なんてやつだ)

 じとっとした目で見つめてやる。


 すると、突然真剣な表情になったウィルがこちらを見つめ、ゆっくりと言葉を続ける。



「―――……ねぇ、マリー、僕に君の世界のことを教えてよ」


 

「―――……えっ?なんだそんなことでいいの?」

 ウィルの真剣な表情に緊張していた身体の力が一気に抜ける。


「そんなことって――…時に情報は剣より鋭い武器になるんだよ」


 ウィルが呆れた表情で私を見てくるが、いまいちピンとこない。なんだ。もっと大それたことを要求されるのかと思った。


「私の世界のことで知ってることは全てお答えするので、なんでも聞いてください」


 私は笑顔でウィルに言葉を返す。

(お喋りするだけで文字を教えてもらえるなんて!ラッキーだ!)


「君が早死にしないことを願うよ」


「――…えっなんて?」

 ウィルが何か呟いたが声が小さくて聞き取れなかった。


「なんでもないよ。じゃ、僕が君に文字を教えて、君は僕に異世界の情報を教える。取引成立だね」

「あっ!あと、私の知りたいマナーや歴史魔術の本とかあったら訳してほしいです」


「――…歴史魔術?土壇場で取引の条件を追加してきたね」


「文字を教えてもらってるうちに卒業しちゃいそうなので。私の気になる本を読んでくれたら日本語で書き留めて覚えるので、お願いします」


 文字は読めないけど言葉はわかる。


 今、最も必要なマナーや歴史魔術について記された本を音読してもらって、日本語に書き留めたらいいじゃない。

 私って天才かも。


「日本語って…。

 まぁ、取り敢えず、僕は君に文字を教えて、プラス、君が読めない本を読んで君に教えたらいいんだね。

 そのかわり、君は僕に、君の世界の全てを教える。それでいいね」


「はいっ!よろしくお願いします」

 ウィルが右手を差し出してくる。私も右手を差し出し、ガッチリ握手する。


「取引成立だ」


 ウィルが意地悪く笑った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ