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8 図書館

 

(――…わわわわわわわっ!ここが図書館かー!)


 すごい!感動のあまり叫んでしまいそう!

 ぎっしりと本が詰まった本棚が天井近くまで伸びている。


 私は、昨日ハリーから教えてもらった図書館に来ている。

 今日は私の選択した歴史魔術の講義はない。


 ゆるい学校だ。


 まぁ、この学園のほとんどの生徒は、幼い頃から自宅でチューターに教わっていて、学園へは顔合わせや人脈作りのために来ているらしい。


 期間が一年間と短く、履修科目が一つなのも納得だ。


 しかし、この図書館は圧巻だ。転生前から大の本好きの私としてはワクワクが止まらない。


(こんだけあれば、〝聖女のこと〟や〝大人のマナーこれ一冊〟みたいな本もあるはず)


 ゆっくりと図書館の中を巡っていると奥の方に人がいるのが見えた。机の上で両腕を交差させ、本の上に顔を横にして寝てしまっているようだ。


 私は起こさないようにゆっくり近づいて行く。

 栗色の髪の毛が綺麗な男だ。


 思わず顔を覗き込んでいるとパチっと眼が開いた。

 至近距離で見つめ合ってしまう。


「――…誰?寝込みを襲うつもり?」


「いいいいえ、すみません。ちょっと、その、すみません」


 私は咄嗟(とっさ)に後ろに飛び退きながら声を出す。

(やばいっ。完全に不審者になってしまった)


 こちらを見据える薄い茶色の瞳がゆっくり細まっていったが、途中でパッと開く。


「あれ?君、黒眼、黒髪だね。もしかして噂の聖女様?」


(――…噂のって何?私…何噂されてるの?)


「あの…一応‥私は聖女と言われていますが‥その…」


 もごもごと言葉が続かない。


「あぁ、やっぱりそうだよね。この世界に黒眼、黒髪って聖女様しかいないもの。はじめまして、聖女様、僕の名前はウィリアム、ウィルって呼んでください」


 ウィルはさっきまでの不信感まるだしの顔が一変、爽やかな笑顔で私に挨拶してくる。


「は‥はじめまして。マリーです。よろしくお願いします」


 どんな時も挨拶されたら挨拶を返す。

 小学生の時から教育され続けた挨拶習慣がここで役に立った。


「マリーって呼んでもいいかな」

「はい。お好きにお呼びください」


 ウィルは優しい笑顔のまま言葉を続ける。


「ありがとう、マリー。ねぇ?君はなんで図書館にいるの?――…王子様は?」


(――…んん?王子様ってハリーのことかな?)


「王太子殿下は今授業中です」

「マリーは一緒じゃないんだね、意外」


(うん?意外ってなんだろう?)


「王太子殿下と私は履修してる科目が違いますので‥」


「そうなんだ。噂でずっと一緒にいて離れないって聞いてたから」


(――…えええええ!どんな噂!やめてくれ!ハリーにはイザベラっていう綺麗な婚約者がいるんだから)


「いやいやいや!王太子殿下にはイザベラ様という婚約者がいらっしゃいますので」


「知ってるよ。異世界から来た聖女様が婚約者を押しのけて、ずっと行動を共にしてるって。

 ――………しかも、愛称で呼んでるって。図書館の隅にいる僕のところまで噂が流れてきてる」


(オーマイガー、ワッザファッ ぴー)


「やめてください!誤解です!私は王太子殿下とは何の関係もない一般市民です」


「火のないところに煙は立たないっていうけどね」


「――…知らなかったんです!王族の方は愛称で呼んではいけないとか――…まだまだ私が知らないマナーがあると思うので、今日は図書館でマナーについて調べようと思いまして」


「へぇー。マリーは勉強熱心なんだね」


「いえ、この世界で生きて行くために最低限のマナーは身に着けておきたいだけです。

 ――…私の元いた世界でも国が違えば習慣やマナーが違ってましたし、私が良かれと思ってやったことがこの国のタブーだったら――…トラブルの元でしょう。郷に入っては郷に従えです」


 昨日、自分がイザベラした90度謝罪を思い出す。


 そういえば、謝罪の時ってどうすればいいんだろうか。ハリーに聞いとけば良かった。


「なるほどね。思ったより賢そうで良かったよ」


(なんだこいつ、突然の上から目線)


「そういえば…マリーって〝字〟読めるの?」


「………え‥?」


 私はゆっくり周りにある本の表紙を一つ一つ見ていく。


「――……ふふっ‥ふふふふふふふふっ」


 私の不吉な笑い声にウィルの顔がどんどん引き()っていくのが見える。

 ―…〝字〟が読めるか?そんなの答えは決まってる!



「―…もちろん!!!読めない!!」


(――…なんで読めへんねん!喋れたら読めるんとちゃうの?

 どうなっとんねん異世界!)


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