表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/36

4 悪役令嬢

 

 柔らかい陽気に包まれた、学園の中庭。

 私は一人でベンチに座り小さく息が漏れる。

 周りには誰もいない。


(――…やっと一人の時間だ)


 風でさわさわと木々が揺れ、心地いい。


 昨日、ハリーが選んだという、侍女のリサとサラはとても私に良くしてくれた。

 部屋での食事の配膳から片付け。

 着替えや、入浴まで手伝おうとしてきたのは、さすがに遠慮したが………。


 ―……すべてにおいて優秀だった。


 しかし、18年間の人生で人様に世話を焼いてもらうような家庭に育ってないため、どこか落ち着かない時間を過ごした。


 ―……プライバシーって大切。


 今日はハリーと広い学園の中を見学し、疲労困憊。

 この学園は、もともとは王家の子を教育するために設立された機関で、主に貴族や上流階級のご子息、ご息女が通っている。


 期間は1年間。

 科目は領地経営に必要な数術や、外交に不可欠な語学、あとは共通マナー講座や歴史魔術がある。


(――…ほかにもなんかあったけど忘れた)


 あと、1年間の間に1科目履修すれば卒業となる。

 転生してきた私からすれば意外とゆるい学校だ。

 なんとかやっていけそうな気がしている。


 私は、歴史魔術を専攻しようと考えている。聖女について、なんか知ることが出来るかもしれない。


 もしも、ここが乙女ゲームの世界なら攻略方法があるのかもしれないけど―……プレイしたことないからあってもわからない。突然、力に目覚めたらいいのに。


 色々と考えながら草花の揺れを眺めていると、遠くから話し声が聞こえる。

 ふと、そちらの方を見ると女性の集団が近づいてくる。中心にいるのは赤毛の綺麗な女性。ついつい目で追ってしまう。


 こちらに近づいてきた集団がそのまま通り過ぎるかと思ったら、私の前で突然立ち止まった。


「はじめまして、聖女様」


「は、はじめまして」

 赤毛の女性に話しかけられ、私は言葉に詰まってしまう。


(わたくし)の名前はイザベラと申します。

 以後、お見知りおきを」


 イザベラは、私の前でピンと背筋を伸ばし片足を斜め後ろの内側に引き、もう片方の足の膝を軽く曲げる。

 とても優雅な所作。


「私の名前はマリーと申します。よろしくお願いします」


 私は突然のことで椅子に縫い止められたみたいに動けず、そのまま座って言葉を返すことになってしまう。


 すると、イザベラの後ろにいる女性たちが小鳥のようにペラペラと言葉を重ねてくる。


「まぁっ!イザベラ様が名乗っているのに、立ち上がって淑女礼をしないなんて」

「聖女様ってどんな方なのかと思ったら、挨拶もまともにできない方なの」

「座ったままだなんて偉そうなお方」


 (――…あわわわっ!やばいっ!私は礼を欠いてしまった!)


 私は慌てて立ち上がりピシッと背筋をのばすと、上半身を90度の角度まで倒し、言葉を発する。


「申し訳ございません」


 よくTVでやっている不祥事で記者会見している人になった気分。

 ―――…完璧な礼だっ!


「――…せ…聖女様。どうか頭を上げください」


 イザベラは両手を宙にあげ、慌てたような声で私に言い、取り巻きたちも口々に声を出す。


「まぁ、突然なんですの」

「なんてことなさるの」

「イザベラ様がお可哀そうよ」


 ――…私がゆっくり顔を上げると、戸惑った表情のイザベラと笑顔が引きつった取り巻き立ち。


(―――…あれ?私なんか間違えた…?)


「聖女様、いいのですわ、お気になさらず。この世界に来たところですもの」


「イザベラ様はお優しいですわ」

「そうよ。なんて寛大なのかしら」

「ほんと…聖女様も見習ってもらいたいわ」


 (イザベラが一言しゃべると取り巻き立ちも話すスタイルみたい)


 イザベラは赤い綺麗な瞳で私のことを見据えたまま言葉を続けていく。


「でも、聖女様にお伝えしたいことがございまして。

 聖女様がハリー殿下と仲良くされている姿を拝見して、複雑な気持ちになりましたの。

 もう、お聞きになっているかもしれませんが………

 ――………私とハリー殿下は婚約しておりまして。

 学園で聖女様が彼と親しくしている姿をほかの方が見るとどう思われるか、噂話の的になってしまいますわ」


「そうよ。婚約者がいる男性に対して親しげに話すなんて」

「今日の午前中もイザベラ様がいらっしゃる前でイチャイチャして」

「婚約者でもないのに王太子殿下のことを愛称で呼ぶなんて…マナー違反も甚だしい。考えられないわ」



(――…うううん?ハリーとイザベラ様が婚約している?

 初耳なんですけど!

 しかも!私とハリーがイチャイチャしているだと!

 そんなことしてない、風評被害だ!)


 ――……私は頭の中が混乱してうまく言葉が出てこない。


「えーと、イザベラ様は、ハリーの婚約者いうことでしょうか?」


「ええ、そうですわ。

 私はハリー殿下と10歳の時に婚約しましたの。

 それに王族の方を愛称で呼んでいいのは、家族か婚約者だけですわ」


(――…えっ?そんなルール初耳だよ!ハリーがハリーって呼べって言ったんだって)


 心の中で抗議するが、とても口に出せる雰囲気じゃない。

 知らなかったとはいえ明らかに私の方が悪い。


 再度、私は背筋を伸ばし上半身を90度の角度まで倒し、言葉を発する。


「誠に申し訳ありませんでしたっ。以後、気を付けます」


(――……異世界マナーは難しい)

※サブタイトル

イザベラ→悪役令嬢に変更しました。2022/04/17

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ