2 謁見
「聖女様、余の元へよく来てくださった。歓迎するぞ。
――…んで、聖女様の名はなんと申す」
ここは王宮の謁見の場。
私は学園の中庭で叫んでしまった後、ここに連れてこられた。
周囲を見回すと豪華な内装、口髭を蓄え貫禄のある男性が玉座から私を見下ろしてくる。
隣には美しく年を重ねた女性が座り、微笑んでいる。
「ありがとうございます。私の名前は真理と申します」
「聖女様の名はマリーと申すか」
国王がゆっくりと言葉を発する。
「――…マリー!美しい君にぴったりの響きだ!」
すると、隣からは喜びを秘めたハリーの声が聞こえてきた。私の名前の響きが気に入ってもらえたみたい。
私は戸惑うが、気にせず国王を見据えたまま短く答える。
「はい」
(――…私の名前は真理だけど、マリーの方が発音しやすいのかも知れない。もうマリーでいっか!マリーでいこう!)
「ほっほっほっ。マリーよ。混乱して学園の中庭で、大声で叫んだと聞いたぞ。なにか、疑問に思うことがあるのなら質問を許可する」
国王が口髭を揺らしながら、私に質問を許可したが、私はよくわからない世界に来て混乱している。
――…この世界が何なのか―…知りたい。
「ありがとうございます。私は今とても混乱しています。いったいどういう状況か――…ここはどこなんでしょうか」
国王が小さく頷き、しっかりした声で告げる。
「ここは大陸の東側、ペンシルという国である。そして、余は国王エドワードだ」
私は考える。もうすこし詳しい情報がほしいけど…。
国王を見据えたまま固まっていると、隣の美しい女性が助け舟のように語り出だした。
「陛下、聖女様はこの状況に戸惑ってらっしゃるんじゃないでしょうか」
女性は、私に視線を戻しゆっくりと話す。
「はじめまして、聖女様。私はフランセスといいます。この国の王妃ですわ」
私は小さく頷き、微笑みを浮かべている王妃に言葉を返す。
「はじめまして、王妃様。私はマリーと申します」
「―……もうお聞きになったかもしれないけれど
この国には、300年おきに黒眼、黒髪の聖女様が現れると言い伝えがあるの。そして、〝祝福〟で災いから救ってくださると言い伝えられているの」
それは先程ハリーから聞いた。
「かつて…この世界には魔法があったの。今は使える人はもういないのだけど。前回、聖女様が来られた時にはまだ数人使える人がいたみたいよ」
(―……魔法なんて初耳だ。私は魔法なんて使えない
王妃が言うには、聖女は魔法を使って祝福とやらができるらしいけど……)
私は聖女だとは認めたくない!
「私の世界には魔法なんてありませんでした。魔法を使ったこともありません。私は本当に聖女なのでしょうか。
もし聖女だとしても〝祝福〟というのは、それはどうやったらよいのでしょうか」
「マリー、あなたの世界では魔法はなかったのね。
――…でもね…マリー。あなたは間違いなく聖女様よ。
だって黒眼、黒髪ですもの。魔法については、遠い昔のことだから、王家の人間にも詳しくわからないの」
またもや黒眼、黒髪というだけで、聖女だと認定されてしまった。これはもう諦めて認めるしかないのだろうか。
(――……しかし……祝福ってなんだ?なんでこの世界の人間がわからないことを、私が成し遂げなければならないんだ……魔法で祝福をどうやるかは自分で考えろってことか。
無理だ!私は聖女じゃない!ちゃんと伝えよう!)
私は心の中で大いに自問自答し、結論を出した。
「――…っあの」
「まぁ、そういうことじゃ。
これまで余は、聖女様のことを待ち望んでおった。
祝福が出来るまで、この国での生活はすべて余が保証しよう。息子のハリーにもなんでもいってくれ。
聖女様!そなたの活躍に期待しておるぞ!」
国王が、私の言葉を遮るように話し出し、勝手に期待してきた。
さっきまでの朗らかな雰囲気が一変し、力強いまなざしで玉座から見降ろされると、私は本能的に口を閉ざしてしまう。
もはや私に拒否権はない…。
「はい。ご期待に応えられるよう精進いたします」
私は長いものには巻かれるタイプ。
今日から聖女様、はじめました!