1 転生
(――………これはいったい…何が起きているの)
目の前にはきらきらと瞳を輝かせ、こちらを見つめてくる金髪、碧眼の男。
片膝をつき、右手を私に差し出した。
「初めまして、聖女様。私はペンシル国第一王子ハリー。どうかハリーとお呼びください」
(聖女様って誰のこと?このイケメンは私に言ってるの?)
周囲の人々は私達のことを遠巻きに見守り、
目の前の男、ハリーは私に向かって聖女と言っている。
「せ…聖女…?」
「はい。あなたは、紛れもなく我が国に伝わる聖女様です」
「あのっ!私は普通の女子高生で、聖女ではないです!
人違いです!」
「――……女子高生?いいえ、あなたは聖女様です。
わが国では300年周期で黒眼、黒髪の聖女様が現れ〝祝福〟で災いから救ってくださると言い伝えられております。
あなたは紛れもない、美しい黒眼、黒髪。眩しい光に包まれて私達の前に現れました。
愛の聖女様!お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
ハリーはスラスラと言葉を並べ、私は恥ずかしさのあまり頬が熱くなるのを感じる。
私は聖女じゃない!
しかも、愛しの聖女ってなんだ‥。
私はごくごく平凡な容姿の高校生。
むしろ目の前のハリーや集まってきた野次馬の方が、物語の中から飛び出したかのように美しく容姿が整っている。
(こんな中で晒されるなんて…――
――――――……地獄絵図だ!やめてくれ!)
私はハリーから目を逸らし、ゆっくりと周囲を見回すとあることに気づく。
――…全員……制服姿だ。
(制服姿の王子様って、まるで学園ものの乙女ゲームの世界みたい。色んなイケメンキャラクターを攻略していくやつ)
私は一度も乙女ゲームをプレイしたことがない。
いろんな人を攻略するのはめんどくさいし。
あまり好きじゃない。しかし、悪役令嬢が主人公をギャフンと言わせる物語は好きだ。うん、ちょっとひねくれている自覚はある。
(―――……うん?…ってことはこの状況って)
顔から血の気が引いていくのを感じる。
「聖女様?どうされましたか?」
目の前が真っ白になり、世界が遠のいていく。
「聖女様、お名前を伺っても…」
(――…まさか)
「聖女さ…」
「どういうことー!?」
(ここは乙女ゲームの世界!?私、転生しちゃったの!?)