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暴君王太子は淡白婚約者がお好き  作者: 鴻上るみ
暴君の色恋沙汰と婚約者
8/8

2-4 暴君の色恋沙汰と婚約者

色恋沙汰編最終話です!よろしくお願いします(*´ω`*)

しばらく、レスティアにとって平穏な日々が訪れた。極力社交会には顔を出さず、邸宅でのんびりと趣味の読書を楽しみ、これ以上なく充実した日々を過ごしていた。そしてこの平和な生活にすっかり慣れてしまって、騒動のことは忘れかけていた。



しかしここでどうしても避けられない事態が出てきてしまった。ライハン滞在中であったノエル王子が帰国前最後となる晩餐会に出席する事となったのだ。そしてその来賓であるノエルにエスコートを受ける事になるのが、未来のライハンの王太子妃となるレスティアであった。生憎その日クライヴは遠方での公務で会に遅れるため、彼が戻るまで最初はレスティアが代わりにもてなす形となっている。


今回も王子の名前でドレスや小物類が贈られてきていた。その箱を開け、レスティアが中身を確認する。タイトめのラベンダーカラーのドレスに、青い宝石が散りばめられている。蝶の形をした髪飾りにもブルーの宝石が埋め込まれていて、キラキラと輝いていた。


今回も靴ないし

相変わらず靴だけ用意されていないプレゼントを見て、レスティアが小さく息を吐く。

それからドレスに見合う靴を侍女に出してきてもらい、トータルコーディネートを完成させ、部屋を出た。



先に準備し、ノエルの元へと向かおうと思っていたレスティアだったが、彼も先に出てきたようで部屋の前の廊下で鉢合う事になる。その姿を見つけてレスティアは丁寧にカーテシーを行う。


「ノエル王子、ごきげんよう。本日はよろしくお願いいたします」

「ああ。レスティア嬢」


相変わらず愛想はない姿だ。だがそれもいい。彼の魅力なのだろう。無骨でクールでスパダリとは、本当に小説内のヒーローのようだ。


「滞在は如何でしたか? 何かご不便等はございませんでした?」

「ああ、良くしてもらっていた。快適に過ごしていたよ」


ならよかったとレスティアが答える。ノエルはさらに口を開いた。


「対談でも、王子とも有意義な討論ができた」

「うちの王太子の相手をするのは大変ではないですか?」

「……と言うと?」

「知っての通りあの性格で。ご迷惑をおかけしているでしょう。あれでも悪気があるわけではないんです。申し訳ございません」

「レスティア嬢が謝ることはない」


婚約者の粗相を詫びる姿に、珍しくノエルは笑った。


「レスティア嬢はクライヴ王子の事をよくわかってるんだな」

「腐れ縁ですから」


品の良い苦笑いでレスティアはふっと笑う。否定はしないところから、ノエルもクライヴについては思うところがあって察しているのだろう。


「羨ましいよ。そんな自分のことをわかってくれる婚約者がいて」

「あら、ノエル王子には素敵な婚約者がいらっしゃるのではないですか?」

「いいや、俺にはまだ婚約者はいない」


これはまたグラストルは大変ね、とレスティアは思う。今も婚約者の座をかけて、令嬢達が火花を散らしているに違いない。


「愛だけで結婚出来るわけでもないしな。だからといって互いを思いやれなくても国政は上手くいかない。難しいものだ」


そう言って王子はどこか目を細め馳せるように遠くを見る。彼は理的にシビアに自身の将来を考えているようだ。流石知的で聡明なグラストルの王子。こういう所はレスティアも同意できる。

話の合う王子だ。婚約さえしていなければ自分が婚約者に立候補したいと思うくらいだ。レスティアはそう思う。


「グラストルは産業大国だとお聞きしました。今回の高速鉄道計画についてもグラストルの技術力があってからこそだとか。いつか訪れてみたいものですわ」

「ああ、是非。グラストル(うち)は資源がない分、高度な技術力で大きくなった国だからな」


そう淡々と事実だけを話すようなノエルだが、愛国者でそれに誇りを持っているように感じた。グラストルは国民性も誠実で、勤勉だと聞く。レスティアの言葉は本心からのものだった。


「それではこちらで大丈夫ですわ。ありがとうございました。ノエル王子」

「そうか」


そう話しているうちに会場に到着し、レスティアはノエルから離れる。エスコートしてくれた礼をして、二人はそれぞれ別行動を取った。すると、あの話がすぐ耳に入って来る。


「ここのところ、確かにレスティア様と殿下がいらっしゃるところを見てないわ」

「最近、レスティア様が夜会にいらっしゃらないのって……」


そういえばまだこっちの問題は残ってたなと思い出す。貴族は噂好きだ。特にゴシップは大好物。王太子とその婚約者の話なんて、その格好の餌食だ。ノエルと早々に別れて良かったと思う。また余計な噂が立つところだった。

レスティアは噂話など気にも留めないように堂々と過ごし、ボーイからグラスを貰って傾ける。


すると入り口の方からきゃあという声がする。目を向けると、クライヴが公務から戻ってきたようで、晩餐会へ到着したところだった。

面倒なので別に挨拶に向かわなくてもいいかと思っていると、丁度ダンスが始まったようでホールに音楽が流れ出した。

さて、どうしよう。レスティアが扇子を顎に当て周りの様子も見て考えあぐねていると、周囲からざわ、という音が聞こえる。見ると、クライヴがこちらに歩いてくるようだった。

何故こちらに来るのか。そう思うも、レスティアは定例に挨拶をと、頭を下げようとした時だった。レスティアが口を開く前にクライヴが彼女の手を取った。疑問を浮かべる前に、レスティアはクライヴに言葉を失った。

ちゅ……と手の甲にキスを落とす。その姿に見ていたご婦人ご令嬢からは黄色い声が上がった。一方当の本人のレスティアはあまりの驚きに一瞬固まる。


「レスティア。一曲、俺と踊ってくれないか?」


最初の曲はいつもレスティアとは踊らない。踊るとしても、王太子と婚約者としての姿を披露するために一番目立つ最後の方のダンスだけだ。わざわざ開始時にレスティアの元へやってきたことに驚いた。


「ぇえ……ですが殿下、他にも踊りたい方が沢山いらっしゃるんじゃなくて?」

「俺と完璧なステップを踏めるのはお前しかいないだろう?」


そう自信げに笑う姿はどうにも腹が立つが、顔だけはいい。その言葉も似合ってしまうのも確かだ。周りから、きゃあという黄色い声が上がる。素敵ね、なんて彼らは目を輝かせているのだ。


「……それでは、僭越ながら」


彼の手を握り返して、礼をする。クライヴはレスティアの姿を見て口を開いた。


「今日のドレスも、似合っている」


柄にもないことを。レスティアはそう思いながらどうも、と礼を言う。


「殿下が贈ってくださったドレスのセンスがよろしいのですわ」

「まあな。だがお前は何でも似合う」


ありきたりな世辞に、……どうもと答える。ギャラリーの憧憬の視線を受けながら、レスティアはふと丁度ここで長らく疑問に思っていた事を迷いながらも口にした。


「……一つ聞いてもよろしいですか?」

「ああ、なんだ」

「何故、ドレスも小物もくださるのに、靴だけは贈ってくださらないのかしら」


その問いに、クライヴは少しだけ動揺したように目を見開いたが、すぐに王太子の顔に戻った。一瞬間を開けて、クライヴが答える。


「……恋人に靴を贈ると逃げられる、と言うだろう?」


クライヴのその言葉に、レスティアは聞き違いじゃないかと耳を疑う。こんなジンクスを信じるロマンチストだったか? 視線を逸した彼を見る。一方、それを聞いていた令嬢たちが声を上げ、うっとりとした目で二人を見る。


「なんて素敵なのかしら」

「クライヴ様はレスティア様の事を本当に大切になさっているのね」

「敵わないわ。お似合いのお二人よ」


周りからの声も変わってきた。クライヴが口を開く。


「……これくらいしておけば、噂もすぐ吹き飛ぶだろう」

「――そうですね」


ダンスを踊るふりをして密着し二人でそう頷く。どうやら印象づけは上手くいったようだ。やはり言葉より見せることが一番早いらしい。


見る者が目を奪われるほど見事美しく踊り切った二人に、ちらほらと拍手が湧いた。


「やっぱりクライヴ様の相手にはレスティア様しかいないわ」

「絵画の中のようなお話の二人よね。靴のお話、本当に素敵ね」

「美しいわ……お二人はまるで奇跡のよう」


ダンスを終えると賛辞の声が聞こえる。しかし神格化されているようで若干居心地も悪い。憧憬を受けるほどの関係性では実際なかろうに。呆れながら、聞こえないふりをしてレスティアは過ごす。


「それにやはり、ドレスは殿下が贈ってらしたのね」

「道理で黄色や青など、どこか必ず一点にはいつも殿下のカラーが入っているはずだわ。愛されてらっしゃるわ」


しかしその話を耳にし、レスティアは驚いた。ちょっと待て、これは本当にクライヴが用意していたものだったのか。それにその話は本当か。やけに黄色や青のものが多いとも思っていたが、王子のカラーを意図的に入れていたというのは。クライヴを見ると、彼は目を逸らす。


「本当ですの?」

「……ぁあ。……勿論、この間の七国集まった会談の時のパーティーも、俺が頼んだやつだ。オーダーメイドだぞ? 色々指定して満足いくものを作らせるのは大変だったんだからな」


あの予約が先の方まで埋まっているという有名ブティックのオーダーメイドも彼が頼んだというのか。確かに、王太子の名前を使えば彼もできない事ではない。しかしそれを自分のためにわざわざやってくれるとは思わなかった。それに、随分と時間をかけたようじゃないか。レスティアは固まって言葉が出なくなった。


「……ありがとうございました」

「……まさかお前、俺が贈ってないと思ってたのか?」


疑いの目で食って掛かるクライヴに、レスティアは否定も肯定もせず素知らぬ顔で静かに顔を逸らす。クライヴはムッと顔を顰めて怒った。


「あんなセンスのいいドレスコーデを俺以外の他の奴が選んだわけ無いだろう!」


いや、それはどうかと思う。ただ確かにセンスはよかった。それは認めよう。


「……そうですわね。殿下にもきちんと婚約者を思いやる心があったようで」

「まるで俺に思いやりがないような言い方だなぁ? おい、レスティア」

「それは受け取り方次第です」

「お前……」


顔をヒクヒクと引き攣らせるクライヴに、レスティアは扇子を開いてにこやかに口元に当てる。


「お前、かわいくないな」

「それは美しいという褒め言葉として受け取っておきますね」


ふふふとたおやかな笑みを浮かべて躱すレスティアにクライヴはゲェと顔を歪める。しかし彼女の損ねた機嫌は戻せたようだ。まあいいか、とクライヴは鼻で息を吐く。


リゼ嬢には直接釘を差しておいた。しかし中々話が通じず、レスティアとの婚姻の意思を伝えても実際の姿を見ないからにはと信じなくて、最初は焦って頭を抱えたくなったが、今日ので最後に完全なダメ押しになっただろう。大事にもしたくなかったため水面下であくまで穏便に済ませてきた。フォルス男爵も呼び出していたのだが、リゼ嬢だけが盛り上がって暴走していたけであり、今回の噂周りに狼狽しているようだった。男爵としてはきちんと身の程をわきまえており、娘の愚行についてはしっかりと把握しており反省させ言い聞かせると話していた。その点としてはよかっただろう。


「――よし、レスティアもう一回踊るぞ」

「え?」


同じ相手と二回以上連続で踊れるのは、婚約者の特権。レスティアは聞き返すように目を見開く。クライヴは彼女の腰に手を回してガシっと掴み、再びホール中央へ向かう。それに困惑するレスティアを見て、少し楽しい気分になる。久しく見ないような、珍しく戸惑うような彼女の瞳を見て、クライヴは笑みを浮かべる。してやった、というような気持ちだろうか。


「……やはり、似合うな」

「――」


贈った青い宝石の付いた蝶の髪飾りを見ながら、顔にかかった横髪をかけてやる。そんなどこか甘く満足げな王太子に、なんだか胸がくすぐられたようにざわついて、妙に分が悪くなったレスティアは視線を逸らした。


今夜の晩餐会では王太子とその婚約者のダンスが何度も見られたと、その後の夜会やティーパーティーで噂されたという。

これにて色恋沙汰編終了です!お付き合い頂きブクマ、評価、いいね等々ありがとうございました(*^^*) 次話ではレスティアの従兄妹が登場し、またクライヴに更なる波乱が待ち構えることに?!

次回更新再開までまたお楽しみにお待ちください!

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