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暴君王太子は淡白婚約者がお好き  作者: 鴻上るみ
暴君の色恋沙汰と婚約者
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2-3 暴君の色恋沙汰と婚約者

レスティアが出席する今日の夜会は、エスコートの相手はラエル。クライヴがこの裏でノエル王子と対談をしているため、その右腕で伯爵家のご子息でレスティアの幼馴染でもあるラエルが代わりにエスコートをしてくれているというわけである。正直、なんならレスティアもラエルが相手の方が気が楽だ。また突拍子もない事も言い出さないし、気を張らなくていい。

しかし、そんな中でレスティアがホールへ足を踏み入れると、ある声が耳に入って来た。


「レスティア様、今日のエスコートはラエル様とだわ」

「王子といらっしゃらなかったのはやっぱり……」


こそこそと、令嬢達がレスティアの姿を見て不安げに、はたまた心配そうな表情で口を開いていた。その姿にレスティアは表情は変わらずも瞳をすっと冷えさせる。


「リフリー男爵令嬢が話していたことは本当なのかしら」

「やめましょう。事実かどうかはわからないもの」


それぞれでそう話している貴族達。


「――レスティア様」


エスコートするラエルの呼びかけに、レスティアが静かに頷く。

……リゼ嬢が言いふらしているな

無駄な噂が既に回っているようだ。まだ真偽を疑っている者が多いようだが、このままにしておくと話が大きくなっていきそうだ。


「クライヴ様とはいらっしゃらなかったのですね」


そうこうしていると、その元凶であろうリゼ嬢が、あろうことかレスティアの前へ現れた。こうもわかりやすく喧嘩を売ってくるものだろうか。これでは本当に小説の中のヒロインどころか、むしろ悪役である。まあいいと、レスティアは優雅に余裕の笑みで返した。


「本日はノエル王子との対談ですのよ。ご存知なかった?」

「しっ……知ってましたわ」


なっ、とリゼ嬢が慌てて取り繕う。一方貴族達はそうだったのねと納得し、安心したような表情を浮かべた。そこに輪をかけるように、レスティアは続けた。


「我がライハンとグラストル王国の技術を結集させ、高速鉄道を作り国を結ぶプロジェクトについて着々とお話が進んでいるようで」


そうにこやかに淑女たる笑みを浮かべる誰もが息を漏らす美しいレスティアに、リゼは顔を真っ赤にし、悔しそうな表情を見せた。そして彼女は散っていくようにそのまま背中を見せて去っていった。


「意外と味気なかったですね」


去っていくリゼの姿を見ながら、ラエルが淡々と呟く。一方レスティアははあと小さく息を吐いた。実に面倒くさい。こんな事でいちいち相手にしていたくはない。


「ラエル、適当に挨拶を回ったら帰りましょう」

「はい。承知しました」


うんざりと思う表情は顔には出さず、レスティアはホールを回り始める。それに応えて慎ましくついていくラエル。レスティアは言わずもがな、ラエルもなかなか端正な顔立ちであり、従順に仕え従えている姿はまるで女主人とその配偶者のような関係性に見え、その上美形二人のため、これはこれでまた視線を集める。その注目をものとも気にせず二人はホールを回る。


「それにしても、すごい度胸のご令嬢ですね。いっそ尊敬すらする」

「私もここまで大胆に出てくるとは驚きだったわ」

「殿下に早めに動いてもらわないといけないですね」

「ええ、ほんとね」


恐らく今後も噂を言いまき、彼女はまた夜会等でレスティアの元に懲りずにやって来るだろう。ラエルもよくわかっている。王子がどうにか対処するまでしばらく夜会は控えてうちに引きこもろう。面倒な付き合いもかわせるし、一石二鳥だ。そう決めてレスティアはこの件について無駄な神経を使わないようにすることにした。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇


「リゼ・リフリー。18歳。リフリー男爵家の一人娘です。上に一人兄がいて、現在騎士団に在籍中。領地はかなり田舎の方になりますね」


主君に言われ、その後調べた結果を報告するラエルが執務席にどっかりと座るクライヴの前へ立つ。


「バカヤロウ! そんな事はどうでもいい。問題はいつ俺と関わったかだ」


自分でところかしこでご令嬢を引っ掛けてるんだからそんな事自分で覚えてろよと思いながら、王太子周りの彼がダンスや声をかけた令嬢を漏れ無くチェックしている有能な右腕は報告する。


「殿下がリゼ嬢に初めて声をかけたのは一年前の殿下の誕生パーティーの時ですね。あの日も祝辞を述べるレスティア様をほっぽいて、さっさとご令嬢達の中へと入っていってましたね。それで最後までレスティア様の元には戻っていらっしゃらずご令嬢たちと楽しそうにパーティーを過ごされていらっしゃいました。丁重に彼女達を帰るとき会場外までエスコートして」

「……おい、待て。俺そんなに最低なやつだったか?」

「はい。そうですよ」


一ミリも否定なくばっさりとそう切って肯定するラエルはクライヴ相手にもやはり肝が座っている。正直に真正面から言われたクライヴはというと、言葉が胸に刺さった。


「なのに殿下は自信だけは過剰で。一体どこをどうしたらあんな自信が生まれてくるんでしょうかね。レスティア様が自分のものだとでも本当に思ってるんでしょうか」


グサグサとラエルの言葉がクライヴに刺さる。


「本当に、ほんっとーーーに、殿下の言動をどうにかしないとレスティア様に愛想を尽かされ、このままだと離縁されますよ。それを防ぐ為には行動から直していかなければ」


ああ、と頭を抱えるクライヴに、ラエルは冷たい視線を向ける。


「だが、どうすれば……」

「一番は、態度です」


ノエルはそう詰め寄る。クライヴは眉を寄せた。


「態度ォ?」

「ええ、一番大事なことです。殿下は心の奥ではレスティア様をお慕いして想っていらっしゃるのに、本人を前にするとそれとは反して反対な言葉や態度ばかり示す。とんだ天邪鬼でいらっしゃいますからね」


クールな表情のままそう言い放つ右腕にクライヴは軽く睨み付ける。


「殿下の想いは恐らくレスティア様には一ミリたりとも伝わってはいません。むしろ好意はマイナスに限りなく近い。興味がない、にも近いものがあるかもしれませんが」


そう一拍おいたラエルが口を開く。


「よく考えれば、これ以上下がることもないということです。と言うことは、ここから上げるのは容易い。既に底辺ですから」


この右腕は容赦ない。主君にもずけずけと言ってしまうこの精神は鋼か何かか。クライヴは頭が痛くなりながら、息を吐いた。


「……わかった。態度を見せればいいんだろう」


頭を抱え、疲れて観念したようなクライヴに、皆が納得するやつでお願いしますとラエルはクールな無表情ながらにも笑みを浮かべて言った。

次回で色恋沙汰編ラストになります!最後までよろしくお願いしますー!

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