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暴君王太子は淡白婚約者がお好き  作者: 鴻上るみ
暴君の色恋沙汰と婚約者
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2-2 暴君の色恋沙汰と婚約者

いつもブクマ、評価等々ありがとうございます!励みになります(*^^*)

「――クライヴ様を諦めてください!」


はて、これは一体今どういう状況なのだろうか。

突如公爵邸に押しかけてきたご令嬢にレスティアははて、と向かいのソファーに座り彼女を見つめる。これまでクライヴには散々様々な迷惑を被っては来たが、こういう本人から以外のものは初めてである。

丁寧に紅茶でもてなし、穏やかに、レスティアは彼女に問いかける。


「まずはお名前を聞いてもよろしいかしら?」

「私は男爵家のリゼ・フォルスと申します」


男爵家のご令嬢か。名前は申し訳ないが聞いたことがなかった。恐らく田舎の小さな家柄だろう。ハーフアップをリボンで止めた肩までの髪を揺らす可愛らしい容姿だ。彼女を見つめながら、レスティアは小さく首を傾ける。


「諦める……というのは?」

「そのままの意味です。クライヴ様の婚約者から外れてください」


そして次の瞬間、とんでもない発言が飛び出した。


「私とクライヴ様は愛し合っているんです!」


そう息を巻いて話す令嬢に、レスティアは一瞬呆気にとられる。そして、穏やかに問いかけた。


「ぇえと、ちなみにその根拠は?」

「王太子殿下は、あの時の夜会で私にダンスを申し込んでくださいましたし、その後の夜会もずっと二人で過ごされたじゃないですか!」


なるほど。あの王太子(バカ)のせいではないか。夜会で誰彼構わず可愛らしいご令嬢に声をかけているが、恐らく彼女も声をかけられたその中の一人なのだろう。


「事あるごとにクライヴ様は私に笑いかけ、お話しかけてダンスをしてくださいました。クライヴ様は私を大切に思ってくださっているのです」


恋愛小説の見過ぎか。確かに底辺貴族や平民と王子様なんていう身分違いの話というのは、人気ジャンルでもありレスティアも読むし、それこそ腐る程ある。しかしそれは物語(フィクション)での話。レスティアだってそんな話が現実にあったら素敵だとも思うが、それにしても夢を見すぎたのではないか。


「私、見ちゃったんです。レスティア様とノエル王子の密会の姿を!」


ああ、昨日の夜会か。レスティアは理解する。


「それにレスティア様は以前もディアス皇子と噂になっていたじゃないですか。レスティア様はクライヴ様の事を愛していらっしゃらないんでしょう? そんな貴女に、クライヴ様の婚約者は見合わないと思います!」


随分とまあ言ってくれる。たかだか男爵令嬢が気高い公爵家のご令嬢にこのようにたてをつくなど、下手をしたら処罰されてもおかしくはないのだが。


「クライヴ様の為にも、身を引いてください!」


ゆったりと優雅で余裕な姿のレスティアに、ますますムキになるように熱く抗議するご令嬢。一人でヒートアップし過ぎぬ前に、レスティアは口を開いた。


「婚約については、私から破棄する事はできませんわ。私も国の大事な責務を背負っていますもの」


そう言いつつも、レスティアは閉じられた扇子で口元を隠す。


「まあ私は王太子殿下がNO(いやだ)と言えば儚く消える危うい立場ですから何も言いませんが」


目線を落として彼女を見るレスティアに、カッとなった令嬢が立ち上がった。


「――っだったら、クライヴ様が婚約破棄を言い渡したら潔く受け入れてくださいね!」


そう言って、彼女は嵐のように去っていった。息を巻いてああ言い放つ、随分と威勢のいいご令嬢だ。

あれはどう転んでも、小説のヒロインにはなれなさそうだなとレスティアは去っていく彼女を見て片隅でそう思っていた。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇


「昨日、リゼ嬢が私の元にやって来て、殿下の元から離れてくださいと言われましたわ」

「は?」


口を開けたまま怪訝な顔をしてレスティアの言葉に彼女を見つめるクライヴは、意味がわからないと固まった。


「彼女が言うには自分は殿下と深く愛し合っているのだとか。しかし私が婚約者である事から、障害になっているのだと仰っていましたわ」

「待て待て、そもそもリゼ嬢とは誰だ?!」

「リフリー男爵家のご令嬢だそうですよ。大層殿下へ熱心で」


執務室の机の席で聞いてないとガタガタと音を立て慌てて取り繕うクライヴに、レスティアは向かい立って淡々と冷静に口にする。


「と言うことは、婚約破棄、ということになるのでしょうか?」

「違う! なんでそうなるんだ! 第一俺はリゼ嬢なんて知らない! どうしてこうもいきなり訳のわからないことを言い出したのか」

「彼女は夜会で殿下とずっと過ごされたと言っていますよ。どちらの夜会でかは知りませんが」


まあ、これまで行ってきた事の罰だろう。むしろ今までよくこういう輩が出てこなかったなと思うくらいだ。誰彼構わずご令嬢に手を出していればそれは勘違いする者だって出てくる。まして、王太子殿下なんて手も届かないような身分の男爵令嬢なんて、一度でも憧れの王太子に目かけられれば、あたかも自分が絵本のお姫様になったように特別に思えてくるはずだ。ただ、元凶である当の本人は覚えていない事のほうが多いだろうが。


「これも不特定多数のご令嬢と楽しくお戯れになっているから起きた事です。普段から気をつけていればこんなことは起きませんわ」


レスティアの厳しい言葉にクライヴはゔっと言葉を詰まらす。その様子にはぁ……と呆れるように小さく息を吐くレスティアは口を開く。


「まあ殿下が魅力的な女性を好むのも、私も素敵な男性に惹かれることはあるのでわかりますが……」

「――お前も男に惹かれることがあるのか?!」

「ぇえ、まあ……」


何故かそこに激しく食いつくクライヴに若干引いて困惑するレスティア。


「じゃ、じゃあどんな男がタイプだ!?」

「そんな事今はどうだっていいでしょう」

「王太子命令だ! 言え」

「こんな事で権力を振りかざさないでください」

「いいから」


圧が強めの一歩も引かぬ様子のクライヴに、仕方なくレスティアは答える。


「そうですね……頼りがいがあって男らしくてかっこよく、誠実で、優しくて思いやりがあって包容力のある人……かしら。ああ、グラストル王国のノエル王子は素敵でしたね」


そう彼を思い出すように口を開くレスティア。隣でそっと聞いていたラエルに正反対ですねとボソリと呟かれるクライヴは、確実にダメージを食らっている。


「お、お前ぇ! 婚約者の前でよくそんなこと言えるな!?」


ガバッと立ち上がって傷を追った心で虚勢を張るクライヴは彼女に向かって指を指すが、殿下が言えと仰ったんじゃないですかと顔色も変えず紅茶を飲むレスティア。


「まあ、誰しも理想の人と結婚するわけでも、できるわけでもないですしねぇ」

「そうねぇ」


そこに彼女側にまわるように間に入ったラエルにレスティアも相槌を打つ。その二人してしらばっくれるような姿にクライヴがイラッと顔を引き攣らせる。


「でもご令嬢が殿下の態度で勘違いだかなんだかをされたのは事実です。この件については私は一切非はなく無関係ですので」

「言っておくが本当に相手の勘違いだからな。愛し合っているなどとのたまってるのは虚偽の妄言だと言う事は理解しとけよ」

「どうでしょうね」

「おい、レティ――」


クライヴの弁明にもレスティアは聞き流すようにはいはいと受ける。


「とにかく、ご自身でどうにかなさってくださいね。殿下」


最後にそう冷たく釘を差し、さっと去って行ってしまったレスティア。残されたクライヴは一度放心したように固まって彼女の去っていった扉を見つめる。取り付く島もないレスティアの視線の冷たさにさすがのクライヴも言い返せずこたえる。そしてクライヴは彼の右腕に当たる。


「ラエル! そのリゼ嬢とか言う令嬢について調べろ、早急にだ!!」


自分がまいた種でしょうにと小さく悪態をついたラエルにぁあ゛? と睨み付けるクライヴ。いえ、なんでもと涼しい顔をして彼の指示へと従ったのだった。

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