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暴君王太子は淡白婚約者がお好き  作者: 鴻上るみ
暴君と傾国の婚約者
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1-3 暴君と傾国の婚約者

レスティアが王宮で定期的に行っているこのお茶会は、王妃の許可を得て開催している格式ある、言わば泊のついたお茶会である。しかし招かれる令嬢は爵位関係なく、レスティアの交友関係とその人柄にて彼女の選別で決められている。より幅広く、様々な人と交流するのが目的としているのだ。これはいずれ国を支えていくであろうレスティアの意向だった。


そして大体の茶会のメインの題材になるのは――恋愛小説。内容は淑女も嗜むそれだ。完結に言ってしまえば所謂TL小説。少々過激な内容も含まれる。貴族のご令嬢が読むものとしては少々公言するのは憚れるが、近頃のご令嬢達にはとても人気で、流行っている。そしてそれをこよなく愛するのは――レスティアも実は変わらなかった。誰よりも恋愛小説を好む彼女は、どこよりも早い新作の話や貴重な本なども持っており、令嬢達からも憧憬や敬意を示されている。

お茶会ではこの話でかなり盛り上がるのだが、かと言ってレスティアは、積極的に話したり語ったりするタイプではないので、淑女らしく毅然と穏やかに彼女たちの話を聞いて楽しんでいる。



「――ワンコ系の可愛らしい男子はたまりませんわ! ワンコ系騎士様とか!」

「待って、渋くてちょっとコワモテで、ダンディーな殿方も素敵よ。謎めいた男とかもミステリアスで惹かれるわ」

「いいえ、やはり麗しさよ! みんなが憧れる王子様系で、クライヴ殿下のような美しくも凛々しさが大事よ」

「レスティア様はいかがです?」


今回のお茶会でも小説のヒーローや男性の好みでやんや盛り上がり始めた令嬢たちは、レスティアにも話を振る。静かにティーカップを傾けていたレスティアはすっとソーサーにカップを戻す。その姿さえ優雅で気品あるように見える。美しく完璧な淑女であるレスティアの理想のタイプに、興味津々で皆一心に耳を傾ける。


「見た目ももちろん大事ですが……一番は誠実さと、男気、男らしさ……かしら。中身が伴っていないと、どれだけの容姿があったって惹かれるものはないものね」

「……流石レスティア様!」

「やっぱりレスティア様は違うわ。私たちの様にまず先に容姿にはいかないのよ!」

「残念なイケメン、っていますものね。どんなにかっこよくとも荒れくれ者や手を上げたりするクズ男は御免ですしね」

「ああ、浅はかだったわ!」


静かに語るレスティアに、令嬢たち嘆いたり賛辞したり、更に盛り上がる。

その中で折を見て、レスティアがこう会話を切り出した。


「ああ、皆さん。アイラモルト帝国のディアス皇子の事だけれど」


そう、と思いついたように口を開いたレスティアに、思わず令嬢たちは止まった。この求婚についての話はタブーかと思い、気になるもののレスティアのために誰も口に出せなかった話題だ。それでも皆ずっと気になっていた事だった。


「皇子もお戯れでしょう。帝国から直接何かあったわけじゃないの。今回もライハンにお招きしているし、今後も両国いい関係を築けると思うわ」


そう優雅に微笑むレスティアに、ホッと安心しながらも見惚れてしまう令嬢達。


「そうですわよ。それにこれまでレスティア嬢へ求婚されるような猛者が現れなかっただけですし」


そう言ったのは幼い頃からの知り合いでレスティアと一番仲が良い、侯爵家の令嬢カシア・ローレンツだ。柔らかく微笑みながら答えたその言葉で、またお茶会の空気が戻ってくる。レスティアはカシアに目配せして頷き、ありがとうと伝える。


「――そうですわよね! これまでいらっしゃらなかっただけで、レスティア様に言い寄ってくる男性方がいるのはおかしくないわ」

「むしろ今までいなかった方がおかしいのよ」

「私が男性でも是非お近づきになりたいもの」

「でもむしろ逆に恐れ多くて声がかけられないんじゃなくて?」

「それはあるわ。女の私だって最初お声がけを躊躇ったもの。でもレスティア様は本当にお優しくて素敵な方ですわ。身分に関わらず私達にこんなに良くしてくださって」

「婚約者の王太子殿下もすごい人気ですしね。本当にお似合いのお二人ですわ」


王子の話題が上がり、そう言えば、と一人の令嬢が口にする。


「殿下はご令嬢たちとの交流も率先していて広いですが、レスティア様はその件について口を挟んではいらっしゃらないのですよね?」

「ええ」

「流石、レスティア様は寛大な心をお持ちだわ」

「レスティア様は器量が違うのよ。余裕を持っていらっしゃるの」

「見習わなくては」


もはや崇拝にも近く、令嬢たちはまたキラキラとした尊敬と羨望の眼差しでレスティアを見つめ賛辞する。レスティアはそう涼しい顔して答えているが、ただ単に興味がないだけ、と言っても過言ではない。王太子(あのおとこ)がどこでどうしてようが知った事ではない。ただ王太子として国の評判だけを落とさなければいい話だ。かなりの大反れた問題事さえ起こさずにいてくれて、王家の品位だけは保ってくれていればそれでいい。

と言うよりやはり令嬢の中でも王子の女ったらし(令嬢たちとの交流)具合を思っている者がいるのだと思うと、やはりもう少し彼は自重した方がいいのではと思うレスティアだった。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇


クソったれ、とクライヴは王城に戻って早々吐き出す。

今日は王子たちと朝から東部の地方の視察だった。しかし無事にその視察を終えて帰る道中、大雨に見舞われぬかるんだ道に馬車がはまり、暫く立ち往生してしまった。王子たちはひとりひとり馬車が用意されていたのだが、先頭を走っていたディアスの馬車は無事で先に予定通り帰路についたが、その後のクライヴ、セドリックと続く馬車が泥に車輪を取られ、その後ろ全員が遅れての帰宅となってしまったのだ。

早急にあそこの道を整備し直さなければと腹立たせながら歩くクライヴ。


「――では、お前は婚約についてどう思ってる?」


その時、胸糞の悪い男の声が聞こえる。やけに通って聞こえてきたその言葉にざわりと胸が騒ぐ。


「ライハンの王子との婚約を取りやめて、アイラモルトにくるのはどうだ」


憤りを抑え早足で向かい、曲がり角を曲がるとそこにはディアスとレスティアが二人向かい合っているのが見えた。レスティアがクライヴの姿を見つける。目があって、クライブはすぐさま近づいていった。


「お前、なんでここに」


ずんずんと進んでレスティアの元にやってくるクライヴに、彼女は表情変えずにこう説明する。


「片付けを終えて帰ろうとしたときにこの天候に見舞われてしまって。夕立だろうからと、弱まるのを待っていたんです」


今日はレスティアのお茶会の日だった。だからわざわざ合わせて地方の視察を入れていたというのに。結局顔を合わせるとは。クライヴはレスティアに凄む。


「雨はもう上がった。屋敷に戻れ」

「おい王太子、婚約者に向かってそんな言葉はないんじゃないか」

「大丈夫ですわ。そのつもりでございます」


変わらずゆったりとした笑みのままレスティアを庇うディアスだが、レスティアは構わずきっぱりと遮る。その姿もクライヴはじっと見ていた。


「――ぁっ! あれって」

「クライヴ王子とディアス皇子と……」


するとクライヴの後から他の王子たちも到着したようでやって来た。レスティアもその姿に気づいたようで、優雅に礼をして彼らに挨拶をする。


「隣国の王子様方々、ご挨拶申し上げます。私ライハン王国王太子、クライヴ殿下の婚約者、レスティア・ロスアンドと申します。この度は我が国へ御足労いただきありがとうございます。是非ライハンにて楽しい素敵な時間を過ごされていってくださいませ」


見事な礼と彼女の高貴な美しい笑みに、王子たちは笑みを浮かべる。


「ありがとうレスティア嬢。楽しませて頂くよ」

「それでは私は失礼いたします」


挨拶のみをしてさっと去って行ってしまったレスティアに、王子たちはクライヴ達の元へと集まってくる。


「ずるいなぁ。ディアス皇子だけ先に帰ってレスティア嬢と話してたなんて」

「顔は合わせられただろう」


残念がるメルヴィンに、ふっとディアスは鼻で笑う。グレアムもレスティアの姿を見たことでつぶやいた。


「まあ、噂されるくらいなのはわかったな」

「綺麗だけどちょっと怖そうじゃなかったか?」

「『綺麗すぎて』じゃないか。それも黙っている時だろう。それにレスティア嬢が微笑んだときリオンも顔を赤くしてただろ」

「そ、そんなこと……」


セドリックにそう揶揄われ、頬を染めてたじろぐリオンにグレアムはこうも言う。


「腹の中が見えなくて厄介そうな女だと思ったけどな」

「元々表情を出すようなタイプじゃないからな。愛想はそこまでない」

「でもああやってツンとしてるのもいいよな」


クライヴの言葉にほう、と笑みを浮かべて何やら思い返しているのか、顎に手を当てながら口を開くメルヴィンは、じろりと彼に視線を向けられる。ともあれ――とクライヴはディアスに向き返った。


「隣国の王太子の女に二度も手を出すとは何事だ」

「手を出すだなんて。まだ何もしていない」

「まだ、だと? あいつに近づくだけで十分だ」


心底憎々しく顔を顰めるクライヴは、ディアスを睨み付ける。しかし彼は何にも臆せずまた飄々と言う。


「それにこの前も言ったが――『まだ』婚約状態なんだろう? そんなのいくらだって覆せる。略奪なんてうちの国じゃよくある話だ」

「ふざけるな。これは外交問題だ」

「そもそも、レスティアはお前に気が向いてないんじゃないか?」


そう知ったように嗤うディアスの姿に、クライヴがカッと目を開く。


「――っお前……! 何を知ってる……っ!」

「わー! ちょっと待ったストップ!! ストーップ!!」

「おい待てクライヴ王子!」


今にも取っ組み合いの喧嘩になりそうな二人をなんとか王子たちが止めに入る。それからラエルも事態に気づき飛んできてどうにか収まったのだがしかし一触即発の雰囲気に、残り数日無事に乗り切れるのか不安になる一同だった。

次回で一話(一章)終了になります!最後までお付合い頂けたら嬉しいです♡

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