道端の男②
「ひ、ひぃっ!」
男は慌てて、背を向けて逃げていこうとした。だが、足腰に力が入らないのか走るどころか膝がかくりと折れてしまい、まともに歩けもしない。
トファがゆっくりと男の前へと回り込むと、男は諦めたのか両手で頭を抱え込み、その場にしゃがみこんでしまった。
トファは剣を抜くことはなかったが、警戒を解かずに男に問いかけた。
「レミアが女ってどうして知っている? 誰に聞いた? お前もしかして刺客、なのか? レミアが女だなんて見た目には全く分からないはずだ。外套を着ているしフードも被っている。短剣だって腰にさしているし、凛々しい歩き方もしている。女のような柔らかい立ち居振る舞いもしていないし、体系も丸みがなくて細い。どうして分かったんだ、何故!」
「あ、トファ、もういいから」
レミアは自分の性別を気にしていなかった、とトファに言った覚えはあるが、目の前ではっきりと女らしくないと言われると余りいい気はしない。一応、性別は女だ。
だが、トファの気は収まらないようで、一気に話し続ける。
「俺でさえ、レミアと一緒に旅をしていて分からなかったんだぞ。たまたま会ったお前がレミアを女だって分かるはずないじゃないか。だとしたら、誰かに教えてもらったに決まっている。妖しい。絶対、女だってばれるはずないんだよ。顔だって見えてないんだぞ。一見で凹凸も分からないし、女らしいところなんて見当たらないのに!」
「あー、もう、いいからトファは下がれ。私が聞く」
隣で聞いていて、どうにも、むしゃくしゃしてきたレミアはトファを押しのけて、怯えている男の前にしゃがみこみ、目線の高さを同じにした。
「――お腹が空いているのだろう? 一緒に宿まで来れば食事をふるまえる。武器は持っていないようだしお前がおかしなことをしなければ私達も手荒なことはしない。そこで少しは話が聞けるだろう、共に来るか?」
男は怯えて揺れる瞳をじわじわとレミアの方に向けた。
「う……うん。行く……。もう、3日も何も口にしていない……。体を動かすのもやっとなんだ。……あ、貴方のことは、ただ、そう思っただけで、私は時々、感がいい時があって……それで」
どもりながら、おどおどと話す、髪から足の爪先まで砂で白くなっている男が不憫に思えてきた2人は男の歩調に合わせて宿への帰路についた。