都市国家カーリエ④
トファは、通行証を受け取り、礼を言って踵を返した。
レミアは去り際に首を傾け、振り返って役人の顔をちらりと見た。
眉を顰め諦めているような表情にレミアは何か腑に落ちないものを感じる。
宿へ向かう帰り際、レミアはトファに尋ねた。
「親切な役人だった。でも、何か引っかかるものを感じたんだけど、トファはどう思った?」
問われたトファは少し驚いたようにしてレミアを見た。レミアがトファに意見を聞いたのは初めてだった。
「あ、うん、人当たりのいい人だったと思うよ。でも、何かを隠しているようにも思った。役人だから宮殿の秘密をそう語るはずはないから当然といえば当然だけど、何か事情があるような気もする。宮殿からのお呼びがあっても、この都市の身分格差を見ると行かない方がいいかもしれない。お呼びがあればの話だけどね」
果たして自分達の意思が通用するのか、レミアは不安を感じる。貴族や王族が絡るとなると私情など無いも同然になるのは良くある話だ。
何か言おうとしてトファを見ると何故か彼は笑みを浮かべている。レミアは訝しがって尋ねる。
「何がおかしい?」
「別に、大したことじゃない。レミアが弟らしくなったなあ、と思っただけだ。あ、妹の方がいい?」
レミアは思い切りトファを睨む。トファはまずいと思ったのか視線を遠くに飛ばし、店を探すふりをした。
からかわれているのが分かり腹が立つのと同時に、トファの態度が以前と比べて柔らかくなったような気がして不思議と安堵する。
自分の素性をほぼ話したのに、それでも受け入れてくれる者がいる。それだけで自分はこんなに安心できるのだと、レミアは生まれて初めてそれに気づいた。