都市国家カーリエ
闇夜に浮かぶ宮殿は大量の松明に照らされ幻惑的で美しかった。
中心にある巨大な半球形の屋根を持つ宮殿、その四方には塔が聳え更に周囲へと中小の半球形の屋根を持つ建物が連なる。
砂漠にあるとは信じられないほど巨大で妖美な宮殿、それはこの都市の豊かさと特色を表した象徴、であるはずなのだが―
宮殿から離れたこの都市の末端、例えば2人が歩く都市入口付近は廃墟のような街並で、家屋の灯は見当たらない。
その上、どこからか鼻が曲がりそうなほどの酷い臭いが幾度となく2人を襲う。空気が乾燥しているのか埃っぽく時折息苦しささえも感じる。
灯りに導かれるようにこの地に辿り着いた2人だが、予想外に荒んだ街並みと、今だ見つけることが出来ない宿に半ば気が沈みながら、注意深く周囲の様子を見て歩いていた。
「……夜だけが理由とは思えない暗い街だな。今から宿を見つけるのは難しいかもしれない」
トファは外套で鼻を抑えながら頭を左右に向けて宿の看板を探した。
レミアも周囲を見回していたが、月が雲間から姿を現した途端、通りの端々で転がるように横になっている何かの方が気になった。
動く気配の無いそれらは、その生死が明らかではないが、おおよそ予想に反しないものと想像できた。
どこか不審感に包まれながら、ようやく古びた宿の看板を見つけた2人は戸を叩いて人が出てくるのを待った。
中から出てきた痩せ細った年老いた主人は、2人をじろじろと見た後、金はあるのかと聞いてきた。
2人は、持ち歩いていた小さな光石を見せると、主人は黙って中へ招き入れた。
そうして、その夜、2人は苦労の甲斐あって、ようやく屋根のある場所で寝泊まりすることが出来た。