砂漠
何度も巻き起こる熱風に外套が勢いよく翻った。
地に足を踏み込れば砂に足を取られて進むのは容易じゃない。
2つ並んだ影は次第に長く伸びながら赤い砂漠に足跡を残していく。とはいえ、そう時間をかけずに砂風に跡形もなく搔き消されてしまう。。
「ふー、暑い。日は結構傾いたから、そろそろ涼しくなってもいいんだけどな」
砂漠を歩き始めて2日、昼と夜の気温差は夏と秋程の差があり夜更けは更に冷え込む。
暑さをぼやきながら赤い夕陽を目を細めて眺める新緑の瞳は、声音ほど弱まりがない。
「――」
レミアは、その瞳を呆れたように睨む。
「いつまで私と共に進むつもりだ? 旅は別々にするという話じゃなかったか?」
またか、というように崩した笑みを向けて、質問されることを想定していたかのようにトファは流暢に答える。
「目的地が同じだし、命を助けられたんだから相応のことを返すまでは一緒に旅しないとだろ? 俺にいつまでも後悔を残させるつもりか?」
無意識のうちに、窮地に貶められたトファの命を助けたレミアは、トファに恩を感じられ今だ共に旅を続けている。
砂漠は一人で渡り切るつもりだった。
それなのに、隣にはトファがいることがどうにも不思議で、何度も問いかけてしまう。
「トファは傷を負った私を充分に看てくれた。だから、もし恩を感じているんなら気にしなくていい。湖で襲われていた時は無意識に庇っただけで、特に助けようとは――」
「俺が納得いかないんだ。相応のことを返すまでは共に旅を続けても構わないだろ? 何しろ1人より2人の方が旅は安全だし同じ目的地なんだからさ。それよりも早く適当な寝床を探そう、腹が減ったよ」
「……」
トファは、早々に話題を切り替える。
こういった具合のやりとりは、何度も繰り返されている。
共に旅を続ける、それは難しいことではないはずだったが自分の素性を全てさらけ出してしまっているレミアの心境としては複雑だった。
自分が女で王族だということをトファは既に知っている。さらに言えば、命を狙われていて、共に旅をする者も危険な目に合う可能性は高いことも分かっているはずだ。それでも尚、トファはレミアと共に旅をすると言い張り離れない。
トファは義理堅いのだろう、レミアはそう思う。
共に旅することを強く拒絶する理由も無く、とはいえ彼が共に旅することの危険を本当に理解しているのか不安で何度も問いかけてしまう。
だが結局、彼が納得するまで、あと、もう少し、先へ進むまで並んで歩を進めよう、そう考え始めていた。
レミアは被っていたフードをずらし行く先を見遣る。
どこまでも続く砂丘に、目的地であるアンダス国はまだ遠い。