表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/7

嵐の前の静けさ

ぜひ感想をお寄せください。

どんな感想でも励みになります。


最近流行りの俺TUEEEE系小説の中身が薄すぎて筆を執りました。

能力だけでなく、シナリオやちょっとしたラブコメ展開にも気を配って書いていきます。


長作になると思うので、応援してくれる方はブクマしていただければ嬉しいです。

随時更新していきます。

アングレカム聖王国


大陸内でも広大な面積を占めるこの大国の端に位置する、雪の都市シナノ


これは都市の外れにある修道院で育った子供たちの成長を追う物語。


幼馴染の中で唯一剣能が開花しない少年はこの日、生涯忘れられない絶望をその目に刻むのであった。


————————————————————


「——リ!ユリ!」

少年はふと我にかえり、辺りを見渡す。

なんだ、何か考えていたような...

首を傾げている少年に、不思議そうに見慣れた顔が覗き込む。


「ユリ?具合でも悪いの?」


「なんでもないよフリージア。まだ寝ぼけてるのかも」

ふふっと笑ったフリージアは、馬鹿にするように僕を見る。


「まーた昨日も特訓してたんでしょう?ダメだよ、稽古の後はちゃんと寝ないと」


「フリージアは最近母さんと同じことを言うよな....」


「え、メリアさんと?え、えへへ」

皮肉を込めて言ったつもりの僕は顔をしかめる。


「なんで嬉しそうなんだ??」


「当たり前でしょう!メリアさんは私達の憧れなんだから!」


僕の母さんは都市外れの修道院で働いており、身寄りのない子供たちの母親代わりとなっている。


確かに尊敬されている人だが、10代の女の子が30代の女性と比べられて喜ぶとは....女心は分からないなあ。


「さて、そろそろ帰ろうか、フリージアも買い出し手伝ってくれよ」


僕はしぶしぶ起き上がると、フリージアと露店街に向かう。


そそくさと露店で野菜を買い、面倒くさがるフリージアに荷物をもたせる。

そろそろ帰ろうとした瞬間、背後から聞き慣れた怒鳴り声が聞こえてくる。


「ユゥゥゥリィィィィ!」


ヴッ、この声は....


ドン!と後ろからどつかれる。


「ツバキ、スイセン。来てたのか」


「『来てたのか』じゃないです!なんでユリが手ぶらでフリージアが荷物持ってるんですか!」


ツバキの強烈な一撃が再び僕を襲う。


「ユリ...さすがにそろそろ気付いたらどうだ。僕らの周りはともかく、世間的には女子のほうが力が弱いらしい」


メガネ姿で毒を吐くこの少年はスイセン。真面目な見た目なのにめちゃくちゃ強いツバキと一緒に2年前に修道院に預けられた。


「ちょっとスイセン?目の前に非力な女の子が二人もいるんだけど??それは伊達メガネなのかしら?」


「自慢じゃないが、僕はメガネを取るとツバキとゴリラの区別ができなくなるよ」


「スイセン...僕はメガネなんてかけていないのにツバキがゴリラに見えるときが...」


言い終わらないうちに、僕達は綺麗な一撃を御見舞される。


グハッ


「もう!フリージア!帰りますよ!」


「はーい。2人とも〜、後でちゃんと謝るんだよ〜」

フリージアの声が遠ざかっていく。


全く、母さんに稽古をつけてもらっているのに、未だにツバキにはやられてばっかだ。


「我が家の家訓、男は女を殴らないって不憫だよなぁ。あれさえ無ければツバキにも勝てるのに。」

仰向けになったスイセンが呟く。


「いや、我が家もなにも、修道院にそんな家訓ないぞ。むしろ皆毎日喧嘩してないか?」


「喧嘩じゃなくて稽古じゃないっけ?メリアさんのせいでこの辺りでも修道院の保有戦闘力だけダントツな気がするんだが」


「ばか、母さんの『おかげ』だろ。この修道院はいずれこの大陸全土を支配するんだからさ」


「なんだその野望。メリアさんもユリもほんとに企んでそうだから怖いんだよ」


冗談めいた僕をよそに、少し曇りゆく空を眺めながら、つまらない雑談をする。


「ん?雲行きが怪しくなってきたな」


「そろそろ帰ろうか。アセビさんに怒られちまう。」


アセビさんは修道女で、孤児達のお世話をしてくれている。


僕には母さんがいるが、実の母のようにみんなに接しているのがアセビさんだ。

整った顔に似合わず、パワフルなシスターなのである。


「雨の中帰るとすっげえ心配されるもんな」


「風邪ひくから厚着にされるし」


「この前のスイセン、丸太みたいになってたじゃんか。どうだったよアセビさんに巻かれる気持ちは」


「変な言い方すんなっ!結局スイセンだってされてただろ?」


ケラケラと笑うスイセンと修道院まで歩く。

僕と母さんだけが親子関係の修道院だが、他の子達も僕にとっては家族のようなものである。


「おかえり、ユリ、スイセン。」


「ただいま母さん」

「ただいまー。アセビさんは?」


「アセビちゃん?さっきは庭にいたわよ。人手が必要かもしれないから後で手伝いに行ってあげなさい。それとユリ」


「ん?」


「少し大事な話があるの。今日の稽古のあと、自分で特訓するなら少し残りなさい。」


「ほいほーい」

珍しいな、話なんて。

修道院で生活する母さんは、他の子達のことを考えて、僕を特別扱いすることは一切ない。


僕はスイセンと修道院に上がり込み、先に着いていたフリージア、ツバキを見つける。

周りには子供たちが群がっている。

本格的な冬を前に、みんな普段よりお腹を空かせているようだ。

しばらく騒がしくなりそうだったので、スイセンと庭に出る。


「アセビさん!ダメだよそんな重いもの持っちゃ!」


スイセンが、重い箱を持とうとするアセビさんに駆け寄る。


「あら?スイセン?ということはもう買い出しからは終わったの?」


「ツバキとフリージアが先帰っちゃってね。僕はツバキにボコられたユリを励ましてたんだよ。」


....いやスイセン。君もだろう?そう言いたい気持ちをぐっとこらえ、男の意地とやらに付き合うことにする。


「いやはやツバキ様には敵わないようで」


「ダメよ、ユリ。ツバキももう立派な女の子なんだから。どうせ失礼なこと言ったんでしょう?」


ず、図星だ


「か、お、に、で、て、る、わ、よ」


「あ、アハハ」

乾いた笑いを浮かべながら、話をそらす。


「ところでその大量の箱は何?昨日は無かったよね。大量に積んであるようだけど」


「秘密よ。ま、私が用意したみんなを守る秘密兵器とだけ教えておくわ」


いたずらな笑顔を浮かべるアセビさんに見惚れながら、スイセンと顔を見合わせる。

やはり秘密と言われれば僕らの年代は気になるもので。

合図を出して二人で同時に走り出し、箱の中身をどちらかが無理やりこじ開けるという即席の計画を実行.....するはずだった。


ガシッと顔を掴まれる


「....えっ?」


何も見えなかった。横を見るとスイセンも同じように顔を掴まれている。


「やめとけ坊主たち」


「ぬぉもごむぐぉ」

何も言えない。当然だ。ゴツゴツした手で顔を覆われているのだから。


「大事な未来のスターに何するのよ!手を離してあげて」


アセビさんの声が聞こえる。

しかし声色から伺うに、どうやら怒っている訳ではないらしい。


「....分かった。お前達もいたずらは程々にしておけ」


手が離れて初めて彼らを目にする。

黒いローブに見を包む男女2人組のようだ。

男は手を震わせ、女の方は...泣いている?


フードで顔はわからないが、時折雫が滴り落ちているのが伺える。


「ごめんねぇ。やんちゃな子達で。まあ私が育てたから仕方ないんだけど」


アセビさん...その年でテヘペロって顔しても通じないでしょと思ったが、スイセンには思いの外効いたらしい。少し恥じらっているのが伝わってくる。


いや...通用するらしい。


「では、約束のものは確かに。」


「うん。わざわざ遠いところからありがとうね」


どうやらこの2人がこの大量の箱を待ってきていたらしい。 関係を推測するに、まるで旧知の仲のような話っぷりだった。


「アセビさんの知り合いなの?」


「えぇ。ずっと昔からよくしてもらってる、とても大切な人達よ。」


ん?その少しとろけた目はなんだろう...


「あの人たち、前にも来たことあるっけ?」


「いいえ。今日この箱を届けに来てくれただけよ。皆は初めて会うかもね」


会うも何も、いきなり顔を鷲掴みにされた上、フードとローブで何も見えないんだが。

そしてアセビさん。懐かしむあまり顔が緩んでますけど。


「アセビさんの初恋の人?」


「そうなのよ...ってんな訳ないでしょ!何を聞いてるのかしらこの子はぁぁぁ」


僕はアセビさんに頭をグリグリされつつ、横で呆然としているスイセンを見て思わず笑ってしまった。


「アセビ!」

ローブの男が声をかける。


「ん?どうしたの?」

アセビはローブの2人組に笑いかける。


「ありがとう。また会おう。」

二人は口を揃えてそう言った。


「何よ改まって。大丈夫よ。あなた達こそ。元気でね」

アセビさんは少し名残惜しそうに呟く。


そして消えるか消えないかの声で、いやもうほとんど誰にも聞こえない声で言った。


今でも空耳かと思うほどか弱く、らしくない声で彼女は言ったのだ。


「——————」


体験したことのない衝撃が脳をかけめぐる。混乱しつつも、とっさに聞こえなかったふりをする


「アセビさん?なんか言った?」


「いいえ。なんでも。さーて、今日はお勉強した後に稽古よ!今日の夕御飯は期待していいからね!」


修道院にそそくさと入っていくアセビさんは、僕らの知っている後ろ姿だった。


「だってよスイセン。ほら行くぞ」


「う、うん...」

ようやく正気を取り戻したスイセンを連れていく。


どうやら先程のアセビさんの独り言は僕にしか聞こえていないようだ。

いや、なんなら空耳だったのかもな。


僕は振り始めた雪を見上げながらアセビさんの後を追う。


「おいそこの坊主」

後ろから呼び止められる。


「僕?何か用ですか?」

僕はローブの男に問いかける。

スイセンは不貞腐れたまま修道院に入っていってしまった。


「救えるものを救え。倒すべき敵を倒せ。君の意思に剣は応える」


???

その言葉を理解しようと僕の脳は奮戦したものの、唐突に現れた物騒な単語に思考が遮られる。


意味がわからず問おうとした瞬間。


ふいに風が吹き、ローブの下が顕になる。



「え....」



文字通り、言葉を失う。


そのローブの下には、アングレカムの紋章が刻まれていた。

僕が見間違うはずがない。

この修道院で、いやきっと同年代の子供たちの中で一番この紋章が出てくる物語を読んだはずだ。

聖王国、いや現在大陸で最も名声高く、最強の名を欲しいがままにした騎士団。




『アングレカム聖騎士団....』




彼はやっとのことで呟いた僕にニッと笑いかける。


「強くなれよ。そんじゃ、あとは任せた。」

そう言い残すと、彼らは僕の言葉を待たずして消えていた。


憧れの存在に意図せず出会ってしまった。


しばらく余韻に浸った僕は、誰もいない静かな庭で、空に向かって呟く。


「騎士団...本当にいるんだ!僕もあの制服を着れる日が来るのかな」

雪の降り出した空に思いを馳せつつ、僕は修道院に駆けていった。


彼の言葉を、深く考えないまま————

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ