お礼!!
この世界に来て3日目。今日も俺は変わらず学校へ向かい、授業を受ける。
朝から何にも巻き込まれることなく、3時間目の授業終了のチャイムが鳴る。
ああ。素晴らしい1日だ。あとは宮殿に帰ってぐうたらするだけである。
と、鞄を持って席を立ち、教室を出ようとしたその時、聞き覚えのある声に俺は呼び止められた。
「レベカ様!!」
その声の主はニーナだった。ニーナが小走りでこちらへ駆け寄ってくる。
ふげ!面倒な奴に呼び止められた。
「足は大丈夫、ですの?」
小走りでこちらまで来たのでまあ、もう問題はないんだろうと思ったが一応確認を取っておく。
「はい。おかげさまで。昨日は本当にありがとうございました」
静かに礼をすると、その後、ニーナが瞬時にバッと身を乗り出し慌てたような口調で話し出した。
「ええと、それで!そのことなのですが!!」
あまりにも一瞬の内に頭を下げて下を向いていたニーナの顔が俺の顔に近づいたので、俺は驚く。
「レべカ様は昨日、お礼は考えておく、とおっしゃいましたが……、私、やはり何かすぐにでもお礼がしたくて……。ああ!レべカ様のご要望にはもちろん、応えるつもりです。なのでこれは、あくまで私の気持ちとして、です。」
そう言ってニーナは一歩身を引くと、俺の目を見つめる。
ニーナのウルルンとした輝く瞳に吸い込まれそうだ。
そして彼女はまた、切り出した。首をちょこんと傾げ、
「レべカ様にお渡ししたいものがあります。この後、お時間ありますか?」
と。
「ええと、渡したいものがあるなら今ここで渡してもらえるとありがたいのですが」
ニーナが礼の物を渡したがるというのは、俺が昨日、ニーナを助けた意味と同様に、こいつにとっての自己満足みたいなものなのだろう。なので、物を受け取ることに抵抗はない。それにこいつがわざわざ用意してくれたものなのでな。
………だが。モノを渡すだけなら今ここで済ませることが可能だろう。俺は早く宮殿に帰ってぐうたらしたいのだが。
「無理に、とは言いません。でも、私はそうしたいんです!」
ニーナはまたバッと身を乗り出し、俺に勢いよく近づく。
こいつは興奮すると身を乗り出す癖でもあるのだろうか。
それと、俺の問いに対する解答がむちゃくちゃなのだが。
「そうしたい、とはどうしたいのですか」
俺の言葉に、ニーナがハッと身を引く。
そして恥ずかしそうに、ゆっくりと彼女は話した。
「すみません、言葉足らずでした。私は料理を作ってきたのです、レべカ様に。なので、レべカ様にその、食べて……もらいたくて……」
ニーナの小さな耳がたちまち紅色に染まる。
手作り料理、ねえ。俺はそういうものとは無縁の生活を送ってきたので、この手のものには疎い。しかし、昨日まともに話しただけの女子の手作り料理を頂くというのは、なんだろう、こう、痒い。むず痒い。
同じ女といっても、姉貴のクソまずい料理を食べるときの心意気とは訳が違うだろう。
「お気持ちは嬉しいですわ。しかし、遠慮……」
断ろうとするが、ああ。
ニーナのエメラルドの瞳が俺の目ををじーっと見つめている。ピクリとも動かず。
昨日と同じ現象。頑なに彼女は譲ろうとしない。
俺が曲がらなかったら、1時間、2時間、学校が閉まるまで、ずっとこうしているのではないかというくらいに。
……はあ。
「……わかりました。あなたの料理を頂きますわ」
俺は折れた。折れてしまった。
まあ、今は丁度お昼時で腹は減っているし、何かを食うだけなら労力もそんなに欠かない。
「ありがとうございます!レベカ様!!私、嬉しいです!」
ニーナは、嬉しそうに、とても嬉しそうに微笑んだ。
「それではこちらへ!」
「お、おい」
ニーナにいきなりグイッと手を引かれ、その反動で思わずマコトモードが出てしまう。
でも、ニーナの耳には入っていないようだ。人の言葉など耳に入らないくらい、彼女は嬉しいのだろうか。
俺がニーナに腕を引っ張られ、どこかに連れていかれている最中、
俺は校舎出口に向かって歩いていた青瞳の美青年、マルク・リュカスと目が合った。
マルク(カズト)は、俺にウインクして見せるのだった。
なんだか、嬉しそうに。
「到着しました!」
ニーナに連れてこられたのは、中庭にあるベンチだった。
下校中の人もいて、その人達から見られているというのは、なんだかばつが悪い。
ニーナは鞄から、包を取り出した。
一体何を作ってきたというのだろう。
お菓子、そして弁当箱に詰められ、手作り卵焼きが入ったTHE弁当。が妥当だろうか。
でもそれにしては大きい。
ニーナは大きな包のまま、俺に礼の料理を手渡した。
「改めて昨日はありがとうございました。お気に召すと、いいのですが」
一体何が入っているのだろう。
俺は膝にそれを置いて、包みを開く。
「……え?」
その大きな包みの中の正体を知った瞬間、背筋がピキンと凍った。
円形の箱の中には、オイスターソースがたっぷりなみなみと入っており、
もう1つの箱には、生の千切りされたにんじんや大根などの野菜、そしてさすがにこっちには熱が通っているが、鶏肉。箱には綺麗にこれらの素材が並べられ、非常に彩りも美しいのであるが。う、うむ。
戸惑う俺にお構いなしで、というか戸惑う俺に気付いていないニーナが、
両手を合わせ、キラキラと瞳を輝かせる。そして、
「名付けて、オイスターソースビュッフェです!」
本日もお付き合い頂きありがとうございましゅましゅまろーーーー!!!!!!




