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俺に恋愛なんてあり得ない  作者: 詩野聡一郎
最終巻
64/67

今話

「そろそろ喧嘩の話、しちゃう?」

「ははは、いいよ」

「桜井くんって、本当にいじわるだったよね」

「ごめんごめん」

「桜井くんに、肩を触ってもらえたの、嬉しかったよ」


「カーディガン、まだ持っててくれたのも嬉しかった」


「でも、受け取ったらもう終わっちゃうのかと思って」


「焦っちゃったなあ」

「そうだったんだ」

「桜井くん、どうして、自分のカーディガン持ってきたの?」

「え、そりゃ持ってくるだろ」

「持ってこなければ、一緒のカーディガンで温め合えたのに」

「カップルみたいだな」

「だって、したかったんだもん」


「桜井くんに触れたかったから、手を繋ごうとしたんだし」


「友達だと思ってるって言ったのに、友達じゃないって言われちゃうし」


「ストーカーが嘘だって正直に話したのに、友達になってくれないし」


「ひどいよね。桜井くんのためなら全部諦めちゃってもよかったのに」

「紗花って、重いんだな」

「やっと気づいた?」

「うん」

「結構自覚あったんだよ?」

「そうなんだ」


「桜井くんが怒ってくれて、嬉しかったな」

「おかしくない?」

「おかしくないよ」

「え、なんで?」

「だって、ようやく私の方を向いてくれたでしょ?」

「まあ、そうかも」

「目と目も、合ったしね」

「目と目が合うとさ」

「うん」

「気持ちって、伝わるものなのか?」

「うーん、わかんないなあ」

「そっか」

「でも、桜井くんの目を見てると」


「なんだか、この世界に二人だけしかいないみたいだった」



「だけど、最後のは効いたなぁ」

「あー」

「いじめられてた奴に優しくしてやってるな」

「モノマネしないでよ」

「あはは。だって、毎日思い出しちゃったもん」

「ごめん」

「これだけは、許してあーげない」

「わかった」



「桜井くんと喧嘩して、帰ってからさ」

「うん」

「なんだかぐわああぐわああって、頭がパニックになっちゃって」

「うん」

「髪の毛、自分でバッサリ切っちゃった」


「ごめんね」

「どうして、謝るんだ?」

「桜井くんのための、髪だったから」

「そういうの、よくわからないな」

「いいよ」


「わからないままで、いて欲しい」



「私、一週間、休んでたでしょ?」

「うん」

「心配、してくれた?」

「心配した」

「嬉しい」


「髪の毛切ったらね、やっぱり、お母さんとお父さんに心配されちゃって」


「念のため休みなさいって、言われちゃった」

「そっか」

「でも、休んで正解だったかも」


「なんにも手につかなかったし」


「毎日桜井くんのこと考えて」


「毎日、第二ボタンを眺めて」


「毎日、スマホをチェックしてたよ」

「どうして?」

「桜井くんに、またブロックされちゃうかなって」

「ああ」

「されなかったけどね」


「でも、一日に百回は確認しちゃったかな」



「夜になるたびに、なんだかすごく寂しくって」


「桜井くんのカーディガン、抱いて寝てたの」

「ははは」

「なーに?」

「いや、女の子もそんなことするんだなと思って」

「そりゃあするよー」

「そうなんだ」


「つい最近、俺もしてた」



「金曜日の夕方になったら、ちょっと落ち着いてさ」


「少し、外の空気を吸おうと思ったんだ」

「そうだったのか」


「それで、スマホを眺めながら」


「桜井くん、あの約束覚えてくれてるかなって、思ったの」

「覚えてたよ」

「嬉しかったな」


「用もないのに使ったら、やっぱり怒られちゃうかなと思って」


「送信ボタンが、どうしても押せなかったんだよね」


「そこに、たまたま村上くんが来て」


「桜井くん、やめたほうがいいんじゃないかって言うからさ」


「なんか、カチンときちゃった」

「なんでだよ」

「だって、憧れの人を馬鹿にされたら、悔しいでしょ?」

「そうなのか」

「そうなの」


「私にとっては、憧れの人だったの」



「それでね。わーわー怒ってたら、ボタン押しちゃってた」

「送信ボタンのこと?」

「そう」


「走って、すぐに駆けつけてくれたよね」

「まあな」

「びっくりして腰抜けちゃってたから、ちょっと恥ずかしかったかも」

「俺が引っ張りあげても、すぐに動かなかったしな」

「ああ、あれは」


「桜井くんの手の感触に、浸ってたんだ」



「桜井くん、警察に行ったでしょ?」

「うん」

「お話、聞かれたよね?」

「うん」

「私も聞かれたんだ」

「そりゃあな」

「でも、早く終わった」


「だけど、桜井くんにもう一度会いたくて」


「お父さんの車の中で、待ってたの」


「桜井くん、お腹空いてるかもなと思って」


「コンビニで、おにぎりとお茶を買ってきてね」

「そうだったんだ」

「でも、気づかず帰ろうとしちゃうんだもんなー」

「いや、気づかないって」

「ほんと、鈍感だよね」

「そうか?」

「そうだよ」


「だから、雪玉、投げてみた」


「桜井くん、怒らなかったね」

「まあ、怒るほどのことじゃないしな」

「そういう優しいところ、好きだったよ」



「一番安全な場所って、言ったでしょ?」

「言ってたね」

「桜井くんの隣が、私にとって一番安全な場所だったんだ」

「どうして?」

「だって、近くにいると安心できるから」


「困ったら、いつだって助けてくれるしね」



「公園でね。話しかける勇気がなくて」


「滑り台、何回も滑っちゃった」

「そうなんだ」

「桜井くん、私のお家に電話してたでしょ?」

「え、なんでわかったの?」

「話し方でわかるよ」

「そうなんだ」

「桜井くんなら、そうしてくれるかなって思ってたし」


「やっぱり、桜井くんは変わってなかったね」



「それで、ちょっと勇気出て、話しかけてみた」

「そのあとすぐに、無言でおにぎり食べてたけどな」

「あれ、どうしてツナマヨと緑茶を選んだと思う?」

「え、なんで?」

「半分ぐらい、桜井くんに嫌がらせしたかったから」

「ははは」


「俺がツナマヨとほうじ茶好きなの、知ってたんだ?」

「当たり前だよ」


「だから、買ったんだしね」



「本当はゆっくり話そうと思ってたんだけどね」


「桜井くん、食べるの早すぎだよ」

「紗花が遅いんだよ」

「えー、そうかなあ」


「早く食べたら、一緒にいる時間も減っちゃうでしょ?」

「そうなんだ」

「そうなの」


「だから、いつもゆっくり食べてたの」



「もう、私がカーディガン返そうとした理由、わかるよね?」

「うん」

「じゃあ、言って欲しいな」

「俺に、忘れて欲しくなかったから」

「ぴんぽーん」

「ははは」

「正解です。六十点」


「あとは、返してもらうのを口実にしてまた会えるかなって、思ってた」



「でも、桜井くんの背中がね」


「なんだか、すごく遠くに行っちゃうように、見えたんだ」


「だから、今しかないのかな、明日からじゃもう無理かもなって、思った」

「そっか」

「それで、告白したの」


「上手く、いかなかったけどね」

「ごめん」

「いいよ、もう」


「桜井くんのこと、誰よりも知ることができて、嬉しかったし」



「ストーカーになるって言葉の意味、わかってくれた?」

「俺の呪いを解くってこと?」

「うーん、ちょっと抽象的かなあ」

「そっか」

「桜井くんが、誰かに愛されるような素敵な人なんだって、わかって欲しかったんだ」

「ものわかり、悪かったけどな」

「ふふ。そうだね」


「やっぱり桜井くんは鈍感だったよね」


「あんなに私がアピールしてたのに、わかってくれないんだもん」



「学園に戻ったらさ」

「うん」

「なんか、思ったよりも大きな事件と思われちゃってたみたいで」

「そうだな」

「これは神様が与えてくれたチャンスなんだなって、思ったの」

「どうして?」

「だって、気にしてますってフリをしたら、配慮してもらえそうじゃない?」

「ひどいやつだな」

「そうなの。ひどいやつなの」


「それで、桜井くんのクラスに入れてもらったの」


「後ろの席になれたのは、ラッキーだったね」


「毎日、桜井くんのこと、好きなだけ見れたから」


「そのせいで、成績、落ちちゃったけど」

「そういうことだったのか」

「なにが?」

「いや、夏休みの宿題を聞いてきたからさ」

「ああ、あれはね」


「わざと、やらなかったの」


「桜井くんに、頼りたくて」



「なんとか桜井くんの呪いを解こうと思ったんだけどね」

「ありがとう」

「でも、やっぱり桜井くんと一緒にいられるのが嬉しくて、わがままばっかりしちゃったな」

「いいよ、別に」

「ありがとう」


「そういうところが、好きだったの」



「毎日、お弁当を食べてくれてありがとう」


「毎日、送り迎えをしてくれてありがとう」


「毎日、通話に付き合ってくれてありがとう」


「私、ちょっとウザかったでしょ?」

「まあ、否定はしないかな」

「ふふ。ひどいなー」

「でも、自覚あるだろ?」

「もちろん、あるよ」


「それでも、桜井くんといっぱいお話したかったんだ」



「桜井くんが、私の彼氏だって言われてた時、あったよね?」

「あったね」

「あれ、嬉しかったな」

「そっか」

「でも、桜井くんは迷惑だったでしょ?」

「まあ、少しはね」

「だから、あれを既成事実にしちゃうのは、抵抗あってね」


「それでも、やっぱり嬉しかったから、否定しなかったの」

「でも、告白された時に否定してたんじゃなかったのか?」

「ああ、あれはただの噂だよ?」

「え、そうだったんだ」

「そうだよ」


「すっごく嬉しいのに、わざわざ否定するわけないもんね」


「桜井くんに、彼女ができても困るしね」

「怖いなあ、紗花は」

「ふふ。手段は選んでられませんからね」


「だって、せっかくの初恋なんだし」



「愛美ちゃんと、お昼に一緒に食べてたこと、あったでしょ」

「あった」

「あの時ね、お弁当がいらないのはわかってたけどさ」


「まさか、一緒に食べられないなんて、思わなかったな」

「ごめん」

「愛美ちゃん、すぐに謝ってくれたけどね」


「でも、仲間外れにされたから嫌だったわけじゃないんだよ?」

「そういえば、そんなこと言ってたね」

「うん」


「一度でも一緒にいられなかったら、桜井くんが遠くに行っちゃいそうで」


「私なんかのこと、忘れちゃいそうで、怖かったんだ」

「そんなこと、ないんだけどな」

「よく言うよね」


「ずっとずっと、私の気持ちに気づいてくれなかったくせに」

「ごめん」

「いいよ、もう」


「こうして今、聞いてくれてるだけで、いいの」



「桜井くんが謝ってくれて」


「桜井くんは、まだ私のこと意識してくれてるんだって、嬉しくなったんだ」

「そっか」

「だからね、スタンプ送ったの」

「あのスタンプ、結局なんだったんだ?」

「あれはね」


「告白用のスタンプだったんだ」

「え、そんなのあるのか」

「反応してくれないから、恥ずかしくてすぐ誤魔化しちゃったけどね」

「そうだったんだ」

「ふふ。桜井くん、ほんとこういうの鈍いよね」


「可愛いなって送られてきた時、自分に言われたのかと思ってドキッとしちゃった」



「愛美ちゃんと、一緒にお出かけしてたこと、あったよね?」

「あった」

「それで、たまたま会っちゃってさ」


「愛美ちゃんはなんだか、私に気を遣ってくれてたみたいだけど」


「別にいいんだけどなって、思ってた」


「桜井くんが私のことを覚えててくれてるのは、もうわかってたしね」

「そっか」

「でも、ちょっとあったのは」


「桜井くんのことは私が一番よくわかってるもんなって、思ってたよ」



「あとで、みんなから聞いたんだけど」


「桜井くん、変な噂を気にしてたんだよね?」

「そうだね」

「ごめんね」

「どうして?」

「だって全部、私が桜井くんを好きなせいだったから」


「また桜井くんと友達になりたくて」


「また桜井くんと一緒に遊びたくて」


「また桜井くんとお話しをしたくて」


「桜井くんとお付き合いしたかった」


「そのせいで、色々とこじれちゃったよね」


「だから、悪いことしたなぁって、あとからすごく思ったんだ」

「気にしなくてもいいのに」

「どうして?」

「だって、元はと言えば俺が紗花の気持ちに気づけなかったせいだから」

「ふふ」


「そういうところ、ほんとにズルいと思うな」



「桜井くんが、愛美ちゃんと喧嘩してさ」


「学園、サボっちゃったでしょ?」

「そんなつもり、なかったんだけどな」

「ふふ」


「これはチャンスだなって思ったの」

「なんの?」

「合鍵で、桜井くんの家に行けるなって」

「ああ」

「そのまま同棲でもしちゃおっかなって思ってたんだけどね」


「でも、桜井くんは優しかったから、できなかったね」

「さすがにな」

「私は、よかったんだけどね」


「いっそ何か起こっちゃえばいいのにって、思ってた」


「着替えを持っていったのも、お風呂に入ったのも、狙ってたんだけどなあ」

「そうだったのか」

「ベッドで隣に座ったのもそうだよ?」

「まあ、ちょっと危なかった」

「え、本当に?」

「うん」

「そっか」


「なんか、すごく嬉しいかも」



「でも、やっぱり桜井くんは鈍感だったよね」

「そうらしい」

「カーディガンにも気づいてくれないし」


「第二ボタンも、気づいてくれなかったよね」

「宝物って、なんだったんだ?」

「ふふ。あれはね」


「桜井くんにフラれちゃっても、良い思い出にしたかったんだ」



「桜井くんが、やっと紗花って呼んでくれたの、すごく嬉しかったな」

「ごめん」

「ふふ。これも許してあーげない」

「そっか」

「あとね」


「名前で呼べば私が言うこと聞くって、やっぱり思ってたの?」

「いや、思ってなかった」

「そうなんだ」


「結構気にしてたのに、なんだかすごく損しちゃった気分だなぁ」

「ごめん」

「いいよ、もう」


「たくさん呼んでもらえて嬉しかったのには、変わりないしね」


「だから、私もちょっと調子に乗っちゃってね」


「桜井くんのこと、はじめて名前で呼んじゃった」

「友一って?」

「うん」


「桜井くん、やっぱり自分の名前、嫌いなの?」

「まあ、そうだな」

「どうして?」

「だって、友達を一番にって書くだろ?」

「うん」

「俺って、すぐ友達と喧嘩しちゃうからさ」


「なんだか、真逆の名前だなって」

「そんなことないよ」

「そうかな」

「うん」


「だって、いつも私のこと、優先してくれてたもんね」


「嬉しかったよ。いつも」


「いつも見てくれて」


「いつも助けてくれて」


「いつも気にかけてくれて」


「だから、桜井くんの、本当の一番になりたかったな」

「本当の一番って?」

「えー。わからないの?」


「恋人ってこと」


「あ、でもそしたら恋一になっちゃうかな」

「ははは」

「でも、意外と悪くないかもね」


「桜井くんは、桜井くんだしね」

「うん」

「私は、私だし」

「うん」

「何も変わらないよ。名前ぐらいじゃ」

「そっか」


「ありがとう」

「うん」



「さすがの桜井くんも、抱き着けばいけるかなって思ったんだけどなー」

「なにがだよ」

「桜井くん、全然反応してくれないんだもんね」


「ちょっと、自信なくなっちゃった」

「実はさ」

「うん」

「ちょっと、危なかった」

「え、本当に?」

「本当に」


「紗花からなんだか良い匂いがしてさ」


「でも、よくないことだから」


「頑張って、耐えてたんだ」

「そうだったんだ」


「惜しかったな~」

「なにがだよ」

「あと三分ぐらい粘ってればよかったかも」

「まあ、それは本当に危なかったかもしれない」

「私もね」


「桜井くん、なんか良い匂いするなって思ってたんだ」

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