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俺に恋愛なんてあり得ない  作者: 詩野聡一郎
第二巻
38/67

街中


 日々は平和に過ぎていき、瀬戸と約束した週末になった。

 直前になって土曜日か日曜日かがわからないという事実には困り果てたが、瀬戸に聞けばすぐに日曜日であることが判明して、安堵した。

 まあ、土曜日も日曜日も家にこもってるだけだから、どちらでもいいんだけれども。


「……ふぅ」


 懸念通りに、週末の街中は人でいっぱいで、段々と人間がビリヤードの玉みたいに見えてくる始末だった。

 そんな性悪な神々御用達のビリヤード台からは脱出を決め込んで、俺はベンチに座り込む。

 約束の時間までまだ十分ぐらいは余裕があるので、このまま目を閉じて少し休むぐらいはできるだろう。


「――あ、桜井やっと来たの?」


 瞼を閉じるか閉じないかという刹那に、聞き慣れた声を上から被せられる。

 顔を上げて見ると、そこには見慣れた顔があった。


「おはよう。早いな、瀬戸は」

「えー、待ち合わせって一時間前には着いておくもんでしょ?」


 完璧すぎる瀬戸の返しに、心の中で独り笑ってしまう。

 俺と七瀬では到底この瀬戸の境地には達せそうにない。

 俺はどちらかといえば時間にルーズな方だろうし、おそらく七瀬は俺以上にルーズだ。

 気配り大会か人間力大会があるとするなら、俺は予選落ちで七瀬は本選落ちってところかな。

 たぶん、瀬戸は優勝してると思う。三連覇ぐらいしてそうだ。


「まあいいや。おはよう、桜井」


 瀬戸からの挨拶を聞きながら、休み損ねた俺は観念して立ち上がる。

 寝ぼけ眼になっている俺が面白いのか、瀬戸がジロジロ見てくるもんだから、なんだか気まずい。


「……なに?」


 服やら身だしなみやらの講評会をするならさっさとして欲しい。

 参考にするつもりはサラサラないけれど。


「何か私に言うことない?」

「え?」

「ほらほら」

「はあ」


 そんなことを言われても、特に思い当たらない。

 皆目見当がつかないので、アメリカンスクールのスチューデントになったフィーリングで肩をすくめてアンサーする。


「だからさ。服装」

「は? 俺の?」

「私のだって」

「そうですか」


 そんなこと言われても、自分の服装にすら興味がない人間が、他人の服装に興味を持てるわけでもない。

 何より講評するだけの知識も知恵もないし、経験もない。

 およそファッションなんてものを気にしたことがない。大体はジーンズとシャツ、そこに上着で事足りてしまう。


「何か感想ないの?」

「はあ」


 どうして女子はこう感想を求めたがるのかイマイチわからないが、今日は俺のリソースを瀬戸に使うことになっている。

 だから、あまり気は進まないが、瀬戸の服装をジロジロと眺めてみる。


「そうだな……」


 といっても、そんなに眺めるところはない。別に奇抜な服装でもない。

 ただの、足首ぐらいまで伸びてる白いワンピ―スだ。


「自分に自信があるんだなと思った」

「え、何言ってんの?」

「素直な感想なんだけど」


 白いワンピースを着ている人間なんて、今この瞬間はじめて遭遇したぐらいだ。

 だから、記憶や経験則を引き出すことだってできやしない。

 だけどまあ、いわゆる白いワンピースにまつわるイメージなら、少しはわかる。

 清楚。清潔感。美の象徴扱いされたり。ラノベだとメインヒロインの鉄板服装の一つだったり。

 まあさすがに後半は男子の妄想と偶像が入ってると思うけど、清楚というのは変わらないだろう。

 白という色がそもそも、純真とかそんな感じのイメージがあるからな。

 そんな服をわざわざ着ようというのだから、ある程度は自分に自信がないとできないんじゃないかと素朴に思ったまでだった。


「桜井さぁ」

「なに?」

「こういう時は可愛いとか、似合ってるとか言っておくもんだよ?」

「そうなのか」


 先日の七瀬のスタンプのように、解釈の多様性がある中でも答えるべき言葉は一様らしい。

 なんだか典型的なナンパ男の口調みたいで抵抗があるのに変わりはない。

 とはいえ、ここまで誘導されたらさすがに答えはわかってるわけで。


「似合ってると思う」

「よし」


 放送事故を起こしたクイズ番組のようなやり取りだった気もするが、瀬戸が合格を出してくれたのでそれで良しとする。

 ただ、今日一日こんなやり取りを繰り返すのだとすれば、気が滅入ってくるのでこれっきりにして欲しい。

 満足したらしい瀬戸が歩き出すので、目的地もわからないまま俺はついていくことになる。


「ちょっとびっくりしたけどな」

「なんで?」

「普段の瀬戸のイメージと違ってたから」

「なにそれ。ファッションは自分のためにするもんだから、イメージとか関係ないよ」

「まあ、そうかもな」


 もしかしたら、少し怒らせてしまったかもしれない。

 よくよく考えれば、俺も他人からのイメージを気にせず服を着ているのだから、女子に関しても、瀬戸の言う通りなのかもしれない。

 確かに、別に誰が何の服装したっていいよな。そもそも色んな人がいるのに、最初にイメージがどうのこうのと考えていた俺が馬鹿だったのだと思う。

 なんだか、すごく申し訳ないことを言った気になってきた。


「すまん」

「よし」


 素直に謝罪をすると、すぐに瀬戸は許して合格を出してくれた。

 そのおかげで、心の中で固まりはじめていた罪悪感が解けて、霧散した。


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