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俺に恋愛なんてあり得ない  作者: 詩野聡一郎
第二巻
35/67

天秤

 その日の雰囲気はおよそ最悪だった。

 七瀬は表面上明るく振る舞っているし、俺や瀬戸とも普通に挨拶をしていたが、明らかに発言の回数は減っていた。

 瀬戸も想定以上すぎる成果に上手くフォローができないのか、俺たち三人はほとんど会話をすることなく、登校した。

 あまりにも息が詰まるものだから、七瀬が途中で他の友達に囲まれはじめたあたりで心底ホッとしてしまったぐらいだ。

 その後も、七瀬は一人で教室に行ってしまうし、俺が席についてからもいつものようないじめをしてくることはなかった。

 俺と七瀬が今日交わしたやり取りは、朝の挨拶と弁当箱の返却ぐらいなもんだ。

 そして、いくつかの授業と休み時間を経ても一切会話のないまま、時刻はすっかり昼休みを示してしまっていた。


「――よし」


 全てを観念して、俺は席から立ち上がる。

 もはや天秤は傾いた。賽の目は投げられたということ。

 そんなに劇的な場面を想定していたわけではないけど、きっと「今」が七瀬から再び離れるべき時ということなんだろう。

 色々と陰口を言われたりするかもしれないけど、まあそれは大したことじゃない。

 母さんに言われた言葉に含まれた悪意に比べれば、そよ風みたいなもんだ。

 これからは中庭が駄目、屋上は危険、教室も論外。なので、学園の外で良い場所を見つけないとな。

 昼食をとる場所の候補を考えながら、俺はそそくさと教室を後にしようとする。


「――おい。待てよ、桜井」


 やはりというか、俺なんかの身体は運動部の鍛え抜かれたフィジカルの前には無力だった。

 両肩に感じた強烈な圧力に抗うこともできず、そのまま廊下の壁まで押し付けられてしまう。

 さっきの声からして、間違いなく滝川の仕業だ。


「どこ行くんだよ」

「…………どこか」

「なんで」

「昼飯を食べなきゃいけないからな」


 両肩の圧力が増す。滝川の手に力がこもったようだ。

 どうやら、滝川は俺が逃げるのをお望みじゃないらしい。


「七瀬さんのフォローは」

「なんで俺が七瀬に気を遣わなきゃいけないんだよ」

「おい。彼氏だろ?」

「前から違うって言ってるだろ」


 ため息が出る。今日のあの様子を見てもまだ、俺と七瀬が付き合ってるとでも思ってるのか?

 これが本来の俺たちで、これまで見えてた俺たちがおかしかっただけなんだよ。

 俺と七瀬の関係なんてこんなもんだ。


「――まさか」


 滝川の手が緩んだので、身をよじって両肩の圧力を振り切る。

 そのままの慣性で振り返ると、滝川が驚きの表情で俺を見ていた。


「桜井と七瀬さん、別れたのか?」

「いや、そもそも付き合ってないんだって」


 どこまでもズレた解釈をして、ちっとも話を聞いてくれない滝川の態度に、さすがにうんざりしてくる。

 一生懸命教えてるのに空欄問題をひたすら誤答されるような気分だ。つまり、うんざり。

 いつも同じことを言って、いつまでも同じように驚かれるのにもうんざり。


「まあ、なんでもいいけどさ」

「……はあ?」


 散々誤解されて散々問い詰められたのに、なんでもいいとバッサリ切られたらさすがにちょっとはムカついてくる。

 まあ、さすがにこの場面で口に出したりはしないけど。

 できることならさっさとこの場を去りたいもんだ。


「桜井」


 俺の気持ちを知ってか知らずか、たぶん知らずに、滝川は自分の後ろを親指のジェスチャーで示して見せる。

 なんだよ。何があるっていうんだ。


「あっ――」


 そこには教室の入り口があった。

 そして最悪なことに、開いた口から声をもらしたまま唖然としたような表情の七瀬と、俺は目を合わせてしまった。

 おかげさまで、俺の中の感情ネットワークにスイッチが入ってしまう。

 つまり、罪悪感と共感が幾何級数的に増加していくということ。


「七瀬さんにフォロー、しろよ」


 滝川の言葉はギロチンとなって俺に振り下ろされ、俺の首を強引に頷かせていた。

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