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2人で


「この子は人前に出さないこと!」


 シャルルは森の中で、俺にしつこく念を押してきた。どうやらあの街では、魔物を飼うことは禁じられていて、もしバレてしまったら、締罰隊に捕らえられてしまうらしい。

 もう一度捕まったらどうなるのだろうか?

 また剣闘士にされてしまうのか?

 それは絶対に嫌だな。



 無事に森を抜け、街に差し掛かった時だった。

 急にシャルルは、抱えていたオオカミの子どもを俺に渡してきた。


「食べ物と薬を買ってくるから、先に宿屋へ行っといて」


 そう言うと、俺の返事も聞かずに駆け足で街の中へ入っていった。


 俺は困惑した。

 おかしい。シャルルがこんなに協力的だなんて。

 一体どういう風の吹き回しなんだ?

 ホワイトウルフに思い入れでもあるのか?

 思い当たる節は思い浮かばない。

 

 まあ、そんなことはどうでもいいや。シャルルが協力的であることは悪いことではない。それどころかメリットばかりである。この世界について何も知らない俺よりはよっぽど頼りになるのだから。

 とりあえず、今はこのオオカミの子どもが最優先だ。


 俺は自分の手の中で眠っているオオカミの子どもを見た。

 初めに出会った時よりも息は落ち着いていて、心なしか傷も少し塞がっているように感じた。それでも、裂傷は激しく、赤い身が外にむき出しになっている。


 待ってろよ。すぐに治してやるからな!

 俺は宿屋にいち早く着けるように、オオカミを服の中に隠して、街に入った。

 

・・・・・・

 

 どうしてこうなったんだ???

 

 今、俺は大勢の人に囲まれている。

 別にオオカミを隠している事がバレたわけではない。

 街に入った瞬間、誰かが「ノザキヒロトがいるぞ!」と叫んだことで、近くにいた人々が俺の周りにあつまってきてしまったのだ。聞き覚えのある声だったが、誰かは分からなかった。


 集まった人たちは俺に握手やサインを求めてきた。

 みんなどうしたんだ? 

 なんで俺にそんなことをお願いするんだ?

 俺にそんな価値はないだろ?


 様々な疑問が頭の中で飛び交った。

 やばい。頭がパンクしそうだ。

 早く宿屋へ行かなければならないのに。


「よお! 兄ちゃん。今までどこにいってたんだよ?」


 突然、人混みの中から、昨日出会った自称闘技場マニアのおっさんが飛び出してきた。その声は、先ほど俺の名前を大声で叫んだ声と同じ声だった。

 

「みんなお前に会いたがってたんだぜ?

 剣闘士から冒険者になったやつなんて初めてだ。

 みんなお前のファンになっちまったんだよ」


 そう言うと、おっさんは「そうだろ、みんな!」と周りに同意を求めた。周りの人々は歓声を上げてそれに応える。

 だが、俺は苦笑いをすることしかできなかった。

 

「あんまり嬉しくねぇか?」


 おっさんは、俺の表情を見て少し戸惑う。


「いや、嬉しいよ!」

 

 俺は慌てて否定した。

 そんなことを言われて、嬉しくないわけがない。

 ただ、今はこんなところで立ち止まっている場合ではないのだ。なんとかしてこの囲みから抜け出さなければならない。

 しかし、俺はここで、嘘でも嬉しくないと言うべきだった。

 俺の言葉を聞いたおっさんは笑顔になり、


「そうか、よかった!

 じゃあ、今からみんなで飲もうぜ!!」


 そう言って、左手に持っていたジャッキを俺に渡してきたのだ。

 ジョッキの中には黄金色をした液体が限界まで注がれており、その上に真っ白な泡が、危なげに乗っていた。

 俺は両手で、服の中に隠したオオカミを支えているので、ジョッキを受け取れない。

 俺が何かを持っているのを察したおっさんは、


「その服の中のもの、俺が持っといてやるよ」


 と、右手を俺のほうに差し出してきた。

 このままではオオカミの存在がバレてしまう。

 俺は逃げ場を探して周りを見渡したが、そんなものはどこにもなかった。周りの人達は俺が乾杯の音頭をとるのを心待ちにしている。

 いっそ、オオカミのことをバラすか?

 いや、だめだ。きっとオオカミは殺されてしまう。

 俺が嫌われてもいい。ここはみんなに邪魔だからどけろと言うしかない。

 覚悟を決めて、息を吸い込んだその時、

 

「そこをどかぬか!!」


 奥の方から突如、叫び声が聞こえてきた。

 声が聞こえてきた方の人垣が割れていく。


「余はアブドヘルムの王子である! そこをどけるのだ!」


 いつの間にか、人混みの中に一本の大きな道ができた。

 その道の真ん中を王子は堂々と歩いてくる。付き添いのガルムさんも一緒だ。


「冒険者になったのだな。良いことだ。

 少し話がしたいのだが、来てくれるか?」


 反射的に頷く俺。

 王子は優しくにっこりと微笑むと、人混みにできた道を引き返した。

 俺は王子が輝いて見えた。


・・・・・・


 俺は闘技場から歩いて5分ほどの距離にある高級レストランに案内された。

 俺たちが借りている宿屋にも近かったので、少し安堵する。

 ガルムさんは「俺は外で待っています」と言って、レストランには入らなかった。王子はあまり気にすることなくレストランに入っていった。

 付き添いなのにいいのか?

 そう思ったが、俺は王子の後をついていった。


 レストランに入ると、いきなり受付の人は、俺に嫌悪の目を向けてきた。「おい!」という王子の一言で、受付の人は俺を見るのをやめたが、何が気に食わなかったのか分からなかった。

 何か無礼なことでもしただろうか?

 席に案内された時、その答えはすぐに分かった。

 このお店の客は、みな王子のような服装をしていたのだ。

 修行のせいでボロボロになった服を着ている俺は、周りからかなり浮いている。

 これなら受付の人が、俺に嫌悪の目を向けたのも無理はないな。

 

 席に着くと、王子が口を開いた。


「率直に言おう。君を雇いたい」


 王子の顔は真剣だった。

 冗談で言っているわけではなさそうだ。

 俺はあまり驚かなかった。

 それ以外に俺を呼び出す理由が思い浮かばなかったからだ。ただ、1つだけ疑問がある。


「どうしてそんなに俺にこだわるんですか?」


 その言葉を聞いた瞬間、王子は急に固まった。そして俺から目を背けて、下を見る。何かを喋ろうとしていたが、もごもごと言葉にならない。


「誰に許可をとってヒロトを口説いているのかしら?」


 いつの間に来たのか、俺の後ろにシャルルがいた。

 怒りで血管が膨れ上がっている。


「出たな、小娘! お主には関係ないことだ!!」


 急に饒舌になる王子。


「関係おおありよ! 私がヒロトを買ったのよ!!」


 バンッと机を叩くシャルル。

 この2人は本当に仲が悪いな。

 まるで犬と猿みたいだ。


「今は冒険者なのだろう!

 ならば余にもヒロトを所有する権利があるはずだ!!」


「駄目! 絶対にヒロトは渡さない!!」


 シャルルの殺気が漏れる。

 その瞬間、場が凍りついた。

 背筋に悪寒が走り、冷や汗が額から溢れ出る。

 王子の顔色も、一瞬で悪くなった。

 どんどん青ざめていく。

 手は小刻みに震えていた。


「おい、殺気が漏れてるぞ」


 そう言ってシャルルを止めたのは、意外にもガルムさんだった。

 いや、王子の付き添いなら止めるのは当然か。

 シャルルは一呼吸した後、ゆっくりと殺気を収めた。

 だが、王子の震えは治らない。

 当たり前だ。殺気を向けられていない俺でさえ背筋が凍りついたのだ。

 王子にとってはトラウマものだろう。


「とにかく、ヒロトは渡さない」


 シャルルはもう一度、はっきりと言った。

 殺気はこもっていなかったが、引くつもりはないみたいだ。

 シャルルの冷ややかな表情がそう物語っている。

 3人の視線が王子に集まった。

 顔は青く、震えはまだ治まっていない。

 それを見て、誰もがこの話は終わったと思った。

 次に王子から発せられる言葉を聞くまでは。


「いや、これだけは、譲れない」


「えぇっ!!」


 俺とガルムさんは驚きの声を上げた。

 信じられなかった。

 あの殺気を向けられてもなお、まだ立ち向かうのか。

 凛とした目には覚悟が見える。

 なんだか王子がかっこよく見えてきた。

 

「ノザキヒロト、お主の意見を聞きたい」


 視線が俺に集まる。

 王子はもう震えていなかった。

 ガルムさんは開いた口が塞がっていない。それほど王子の行動に驚いたのだろう。

 シャルルは・・・めっちゃ怖い!

 すごい睨んでくるんだけど!!


「俺は・・・」


 3人が息をのむ。


「俺はシャルルについていきます。

 王子のお誘いはとても嬉しかったのですが、俺は自由にこの世界を見て回りたいんです。誰かの力ではなく、自分の力で。

 なので、王子には申し訳ありませんが、お誘いは断らせていただきます」


 俺は頭を下げた。

 静寂が場を包み込んだ。

 

「そうか・・・

 分かった! 余は手を引くとしよう」


 王子はそう言うと、立ち上がってガルムに合図をした。

 顔を上げると、王子の優しい笑顔が見えた。

 これが、昨日、癇癪を起こしていた王子なのか?

 とても信じられない。


 王子は「貴重な時間をありがとう」と俺の手を握ると、そのままレストランからガルムを連れて出て行った。

 受付から、「王子、成長しましたね」と言うガルムの涙声が聞こえてくる。王子も何か言っていたが、距離が離れてしまって、聞き取れなかった。


「それなに?」


 いつの間にか、俺は一枚の白い紙を手に持っていた。

 シャルルが俺の持っていた紙を強引に奪いとり、二つ折りを開いた。そして、中に書かれていた文章を読み上げた。

 

「なになに?

 あの女に酷いことをされた時は、いつでも余を頼ってくれ。アブドヘルム 第一王子 グラン・・・」

 

 シャルルの顔がみるみる赤くなっていく。

 俺の体からは冷や汗が流れ出た。

 闘技場でロックベアーと向き合った時よりも怖い!

 ロックベアーなんか、今のシャルルと比べればちんけなものだ。

 やばい、泣きそう・・・

 

 俺の涙腺が崩壊しそうになったその時、突然、もぞもぞと俺の服が動いた。


「あっはっは!」


 俺は涙を流して笑った。

 そう、笑ったのだ。決して泣いたわけではない。

 当然、シャルルは俺に侮蔑の視線を向ける。

 はあ、めっちゃ怖い。


 だが、俺は笑い続けた。

 俺だって好きで笑っているんじゃない。

 

 俺は上の服を脱ぎ捨てた。

 

「な、なにしてるのよ!?」


 俺の奇怪な行動に驚くシャルル。

 顔は真っ赤なままだった。

 

 違う! そんなことはどうでもいい!!

 俺は腹の上で動く、オオカミのこどもを持ち上げた。

 今まで、俺を支配していたむず痒さが消える。


 完全に忘れていた。

 俺はこの子を助けようとしていたんだ。

 

 俺は急いで、オオカミのこどもの側腹を見る。

 えぐれて、赤い身が出ていた傷は、ほとんど塞がっていた。信じられない回復力だ。

 これが伝説級の魔物か・・・


 俺がホワイトウルフに感心していると、


「お、きゃ、く、さ、ま〜〜〜!!!」


 シャルルよりも顔を真っ赤にした受付の人が、俺の背後から現れた。

 その瞬間、再度、冷や汗が流れ出る。


「いや、これは違うんです!

 これは魔物なんかじゃなくて・・・

 そう! ぬいぐるみ!! ぬいぐるみなんですよ!!」


 急いで苦し紛れの言い訳を並べたが、オオカミは俺の腕から逃れようと、がっつり動き回った。

 俺は助けを求めてシャルルに視線を送る。

 だが、シャルルも両手を上げて、お手上げよ、と返す。


 はぁ、また剣闘士か・・・

 急に俺の目の前は真っ暗になった。


「出ていけ」


 えっ? なんだって??


「今すぐこの店から出ていけ!!!」


 俺とシャルルは顔を見合わせた。

 もちろん笑顔で。

 それが受付の怒りをさらに煽った。


「お前ら2人は出禁だ!!!!!」


 俺たちは一目散に店を出た。


・・・・・・


「傷の治りが早いのね」


 シャルルは持っていた回復薬をホワイトウルフの子どもに塗りながら言った。

 

「シロ、大丈夫か?」


「名前をつけたの?

 やめときなさい、情が芽生えちゃうわよ」


「いいんだよ」


 シャルルは「はぁ」とため息をつく。


「ちなみに、王子に向かって「自分の力で世界を見て回りたい」とか言ってたけど、今のあなたがあるのは私のおかげよね。

 特にお金とか」


 ぐはっ! 確かに。

 なんか急に恥ずかしくなってきた。さっきはお主が欲しいとか言われて調子に乗っちゃったんだよな。

 

 穴があったら入りたい。

 

・・・・・・


 次の日、俺とシロは森へ向かった。シロの傷は完璧に治っていた。シロは俺に抵抗することなく、森に着くまで服の中で大人しくしていた。


「シロはなんで昨日、傷だらけだったんだ?」


 返事はない。もしかしたら喋れたりするのかなと思ったが、そんなことはないようだ。

 シロは黙って俺について来た。


 昨日の場所に着いた。そこには誰も居なかった。

 俺が座るとシロも座る。

 賢いんだな、そう思っているとシロが急に俺に向かって飛び込んできた。「うわっ!」俺は咄嗟に手でガードする。しかしシロは俺の頭上を飛び越えた。

 振り向くと、シロは真っ黒な鳥を口に加えていた。鳥の爪は通常よりも長く、鋭く尖っていた。


「俺を助けてくれたのか?」


 シロは鳥を置くと上を見た。俺もつられて上を見る。空には真っ黒な鳥が30匹ほど飛んでいる。

 俺は油断していた。ここは森の中だ。常に集中しておかないと。


「やるか! シロ!」


 俺がそう言うとシロが


「あん!」


 と返した。

 俺は空に向かって風魔法を放った。


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