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修行

 

 俺たちは買取手続きを済ませて闘技場を出た。


「結構したんじゃないのか?」


「あんなものはした金よ!」


 シャルルはそう言ったが、俺の価値は先の試合で相当上がっていたらしく、闘技場の責任者はシャルルが手を引くように高額な値段を吹っかけたらしい。だが、シャルルは顔色ひとつ変えずお金を出したようだ。


 近くにいた闘技場マニアのおっさんが教えてくれた。

 俺とシャルルが買取の為に闘技場に向かっていた時、俺を最初に見つけたおっさんだ。


「兄ちゃん、今日の試合はカッコ良かったぜ!

 あの嬢ちゃんも相当兄ちゃんに惚れたみたいだな。

 羨ましいぜ!!」


 彼女が惚れているのは、俺じゃなくてエビフライなんですけどね。



 その後、俺たちはギルドへ向かった。


「ギルドに入っておけばいろんな事が出来るようになるわ! 食材調達もスムーズになるから入っておきなさい」


 そう言うとシャルルは俺のギルド登録料も払ってくれた。


 なんていい奴なんだ、とは思わない。

 俺はシャルルの口からこぼれるよだれを見逃さなかった。


 冒険者ランクは10から始まると思っていたが


「この人、闘技場でロックベアーを倒してます」


 とシャルルが言うと受け付けの人が「少々お待ちください」といい奥に消えていった。

 数分後、戻ってくると


「確かに、ロックベアーを倒していますね。

 それでは冒険者ランクは7で登録しておきます」


 ということで、俺はランク7になった。

 周りにいた冒険者たちは「始めからランク7かよ⁉︎」「やべぇ新入りだな」と驚いていた。

 

 ランク7は結構高いのか?

 俺は改めてシャルルの凄さを実感した。

 できるだけ怒らせないようにしよう。

 俺は密かにそう決意した。


 その後、俺たちはやっと宿屋の部屋に戻ってきた。

 シャルルは席につきナイフとフォークを持つと


「エビフライ! エビフライ! エビフライ!」


 とまるで子どものようにはしゃいだ。

 彼女の目はキラキラと輝いていた。ついでによだれも。


「おい、今はエビフライ作れないぞ」


「えっ! なんでよ??」


「エビがないじゃないか!!」


「忘れてた!」


 こいつ、馬鹿だな。


「じゃあ港のある街に行かないとね」


「ここでも売ってたりしないのか?」


「何言ってるの!? ここのじゃ質も鮮度も下の下よ!」


 やっぱりグルメ馬鹿だ。


「1番近いところだとコーラルかしらね。

 それでも結構距離があるわ。 


 よし、今から修行も兼ねて森に狩りに行くわよ!」


 ついに異世界らしい事ができるのか!

 俺はテンションが上がったが、シャルルに言った。


「日も暮れてきたし明日にしないか?

 何より今日はいろいろありすぎて、もう休憩したい」


「そうね。今のあなたなら森で瞬殺されてしまうわ」


 嫌味を言わないと俺の意見は聞いてくれないのか?

 事実なのだろうけど。


 俺たちはその後、夕食に熊鍋を食べた。


「ノザキヒロトって変な名前ね」


「ヒロトでいいよ。シャルルはいい名前だな」


「う、うるさい!」


 顔を真っ赤にしてシャルルは言った。

 褒められ慣れてないのか? そんなに恥ずかしがられると、こっちも恥ずかしくなってくる。


 夕食後、シャルルは俺の部屋を新しく借りてくれた。

 うん、別に一緒の部屋で寝るかもなんて期待はしてなかったよ。ほんとに。

 俺が部屋を出ようとしたその時、シャルルが俺を引き止めた。


「ちょっと待って」


 えっ? やっぱりそういう展開がきちゃうの??

 さすが異世界だな!!!


「どうした?」


 できるだけ声が裏返らないように気をつけて答える。


()()()()()()()って人、知ってる?」


 テンザキユウヤ? 

 どこかでその名前を聞いたことがある気がするが・・・

 いや、知らないな。


「いや、知らない」


「そう。分かった。もういいわよ」


 そう言ってシャルルはベッドに横になった。

 あ、それだけですか。

 ドキドキしたのは俺だけなのね。

 俺は静かにドアを閉めた。


 俺はシャルルが新たに借りてくれた部屋に入って、すぐにベッドに飛び込んだ。

 なんとか今日を生き延びた。その実感が湧いてくる。

 明日からまた過酷な日々が続きそうだが、死ぬことはないだろう。心が一気に軽くなっていく気がした。

 そういえば、シャルルが今まで俺の為に払ってくれた分のお金、返さないとな・・・


 そんなことを考えていると、俺は知らぬ間に眠ってしまっていた。



・・・・・・



「それじゃあ修行を始めるわよ!!」


 次の日の朝、俺たちは森に来ていた。

 シャルルは俺に剣を買ってくれた。


「エビフライ、不味かったら許さないから」


 修行は魔力還元の習得から始まった。

 案外これは簡単に習得できた。

 放った魔法の中の自分の魔力を意識していれば、近づくだけで吸収する事ができた。ただし意識を外すともう戻せなくなった。


「これでやっと子どもレベルね!」


 シャルルの嫌味が炸裂する。

 俺はそれを無視して修行を続けた。構っていたらキリがないからだ。

 一通り魔力還元ができるようになると、シャルルが「次に進みましょう」と言った。


 次の修行は魔法だった。

 魔法? 俺は不思議に思った。

 だって、俺は既に魔法を使っている。今だって、魔力還元の練習に魔法を使っていたんだ。

 今更、修行する意味があるのか?

 そう思ったが、そんな甘い考えは一瞬で崩れ去った。

 

「ロックベアーに風魔法を使う発想はよかったわよ。

 でも、あの風でものは切れないわ。

 イメージするのは1つの鋭い風よ」


 そう言ってシャルルは片手で風魔法を放った。


 ヒュン


 という音がして、目の前の木が斜めに切れた。上の部分が滑り落ちて、大きな音を立てた。

 それは俺の魔法とは比べものにならない魔法だった。

 こんな魔法を使われたらひとたまりもない。


「やってみて」


 シャルルがそう言って、違う木を指差した。

 その木はシャルルが切った木よりも太く、長かった。

 いや、絶対に切れないだろ!

 俺は少し戸惑ってしまった。


「ちなみに、切れないと思ったら一生切れないから」


 まるで俺の心を見透かしたように言うシャルル。

 うぐっ! やられた。絶対にこの言葉を言いたいが為にあの木を指定したんだ。

 俺を見下した表情がそれを物語っていた。

 

 意地でもあの木を切ってやる。

 俺は闘志を燃やした。


 目を閉じて1つの鋭い風をイメージする。

 より鋭く、より強固に!

 俺は片手から風魔法を放った。

 それはヒューという音を立てて木に当たった。

 木に10センチほど切り込みが入った。


「まあ、いいんじゃない。魔力操作のセンスはあるみたいね」


 珍しく、シャルルが褒めてくれた。

 急に褒めるなよ。照れちゃうじゃないか。

 満足のいく結果だったのだろうか。シャルルは頷くと、


「よし、後は実践あるのみ!」


 と言って、俺を連れて森の奥へと歩みを進めた。


 それから俺たちは様々な魔物を狩った。

 火を吐くトカゲや背中のトゲを飛ばすハリネズミ、つのがしなる鹿など、面白い魔物がたくさんいた。 


 俺たちは長いこと森で狩りを続けた。

 そんな中、鹿の魔物の解体をしている時だった。

 シャルルが信じられないことを言いだしたのは。


「狩りをするときは一種一殺よ。

 同じ種類を狩りすぎると生態系が崩れてしまうから」


 なに!? シャルルがまともなことを言っただと?

 俺が驚いていると、シャルルが呆れたように言った。


「なに? そんなに魔物の肉が欲しいの?

 ダメなものはダメなんだからね」


 ほんとにバカね、と言いながらシャルルは魔物の解体を続けた。

 いや、それはお前だろ!!

 俺はそんなにがめつくねぇよ!!

 と言いたかったが、シャルルの機嫌が悪くなって、暗くなってきたこの森に俺を置いていくと言われたら絶望なので、俺は口をつぐんだ。

 

 俺の予想はばっちり当たっていた。


「そろそろ引き上げるわよ。日が暮れてしまうわ。

 日が暮れたら、強い魔物がたくさん現れるからね」


 そう言って、シャルルは鹿の魔物の解体を終えた。

 あの時、反抗しなくて良かった。心の底からそう思った。

 俺は相当疲れていたのだ。魔力還元は戦いながらだと相当難しい。なので、森では火の魔法は基本的に使わないらしい。

 そしてなにより、魔力還元は体力を使う。魔力量は元に戻るが、魔法を自分の魔力に変換するたびに疲労が溜まっていく感じがした。


「魔法は練習すればするほど質も精度も上がるわ。

 魔力還元もそのうち楽になるわよ」


 シャルルはそういうが、これは大変だと思った。


 街に戻る帰り道。森の中を、茂みをかき分けながら進んでいると、どこからか生き物の鳴き声がしてきた。

 とても衰弱している。そんな鳴き声だった。

 恐らく魔物だろう。だが、この鳴き声を聞いて、放っておくことなんてできない。

 俺は鳴き声がした方向に進み、茂みをかき分けた。


 そこには真っ白な小犬が傷だらけで倒れていた。

 側腹に大きな傷があった。周りを見渡すと、近くの木の枝が真っ赤に染まっていた。おそらくあの枝が原因だろう。

 真っ赤な枝は、この子犬には到底届かないような高いところにあったが、俺は気にならなかった。

 この子犬を助ける方が先だ。


「シャルル、来てくれ!」


 俺は叫んだ。


「何よ? もう狩りはおしまい。帰るわよ」


 シャルルは面倒くさがりながらも、茂みをかき分けてこっちにきてくれた。

 しかし、真っ白な子犬を見た瞬間、シャルルの顔は真っ青になった。


「ヒロト行くわよ。ここにいたら危ない」


 シャルルの手は少し震えていた。


「この子犬をそのままにしてはいけないだろ?」


「それは子犬じゃない。ホワイトウルフの子どもよ」


「ホワイトウルフ??」


「ホワイトウルフは伝説級の魔物よ。私でも10秒もつか分からない」


 そんなにすごい魔物なのか!

 シャルルで10秒も保たないのならば、俺は何秒だろう?

 1秒とか? 

 

 俺はもう一度傷だらけの子犬、いや、オオカミを見た。

 息は絶え絶えで、今にも死にそうだ。

 こんな状態で放ってはおけない。

 俺はオオカミに向かって手を伸ばした。

 だが、シャルルは俺の手を掴み、首を振った。

 涙を堪えながら。

 

 そんな顔をして止められて、はい分かりましたなんて言えない!

 俺は掴まれていない手で、オオカミを抱きかかえた。


「やっぱり、連れ帰って看病するよ。

 明日、俺がこのオオカミを責任もってここに連れて来て、この子の親に返すから。だからシャルルは気にしないでくれ」


 シャルルは強引にオオカミを抱きかかえる俺を見て、諦めたのか、手を離した。

 俺はホワイトウルフの子どもを、両手で抱きかかえる。


「最後の忠告よ。やめときなさい」


 シャルルの目から涙がこぼれ落ちる。

 

「シャルルは気にしなくていい。

 俺1人でするから」


 俺は立ち上がり、街に帰る為に歩いた。

 シャルルが後ろからついてくる。


「本当に連れ帰るつもり?」


「ああ」


「なんで今なのよ」


 シャルルは独り言のように、かすかに呟いた。

 俺には、その意味が分からなかったが、聞こうとは思わなかった。

 俺はただただ足を動かした。

 シャルルが大きなため息を吐く。

 そして俺が抱きかかえていたオオカミを取り上げた。


「何するんだよ!?」


「そんな抱っこの仕方じゃ、このオオカミも苦しいだけよ」


 シャルルはそう言うと、優しくオオカミを抱きかかえた。

 目から涙は消えている。

 どうやら、気持ちを切り替えたみたいだ。


 シャルルはあまり揺れないように、しかし素早く走り始めた。俺はその後をついていった。


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