手がかり
「ジェシカ、ジェシカ!」
私はジェシカの体を何度も揺すった。
もちろん反応はない。
分かっていた。すでにジェシカが死んでいることは。
目の前に立ちはだかる事実を私は必死に否定する。
それが無意味だと分かっていても。
・・・・・・
「ちょっとだけ待っててね」
私は安らかに眠るジェシカを置いて宿屋を出た。
この街は闘技場の影響か、夜でも道には多くの人が行き交っていた。誰もが今、人が1人亡くなったとはつゆ知らず、この街の夜を盛大に楽しんでいた。
私は人混みを掻き分けて締罰隊に向かう。
「何かありましたか?」
中に入ると、50代くらいだろうか、がっしりとした体型に人当たりの良さそうな顔の男性が声をかけてきた。
「テンザキユウヤって人を知りませんか?」
「テンザキユウヤ? 聞いたことないですね。
特徴は分かりますか?」
「体は細くて、身長は私より少し大きいぐらいです。
記憶喪失で、今日、森で出会ったんですがはぐれてしまって。早急に見つけたいんです!」
男性は、私がまくし立てるように話したので少し驚いたようだったが、思い立ったように私に向かって言った。
「もしかしてその人、異世界から来た、などと言ってはいませんでしたか?」
「はい! 言っていました!!」
「やっぱりそうですか。
この街には1年ごとにそういう人が現れるんですよね。
私も長いことここで勤めていますが、2回ほどそういう人に会ったことがあります」
男性は当時のことを思い出したのか、馬鹿馬鹿しい話だというように言った。
「もしテンザキユウヤという人が訪ねてきたら連絡しますよ。お名前を教えてもらってもいいですか?」
「シャルルと言います」
「分かりました。シャルルさん。他のメンバーにもテンザキユウヤという人がいたら教えるように伝えておきますね」
「はい。よろしくお願いします」
私は力なく締罰隊を出た。
ここ以外でテンザキユウヤが向かうところのあてはもうない。唯一の手がかりは1年後、この街にテンザキユウヤの仲間が現れるかもしれないということだ。
1年も待たなくてはいけないのか?
今すぐあいつを捕らえたいというのに??
いや、何年だろうが待ってやる。
絶対にテンザキユウヤを捕まえてジェシカの仇を討つ!
・・・・・・
ジェシカの葬儀はアブドヘルムでひっそりと行われた。
私はガルムにテンザキユウヤの事を全て話した。
ガルムは黙って私の話を聞いた。その間、ガルムの握った手からは血が滴り落ちていた。
・・・・・・
アブドヘルムでテンザキユウヤを探してもらうことになってから1ヶ月が過ぎた。
しかし、目撃情報さえも届かない状況だった。
どうやら姿をくらましているようだ。
また、ジェシカの死因が分からず、大々的に指名手配ができないことも一つの原因だった。
何も進展がないまま半年が過ぎた。
「私、闘技場の街で仲間が現れるのを待つわ」
「待て待て! 1人で待つつもりか?
そいつがどんな能力を持ってるか分からないだろ?」
「分かってる。それでも、これが唯一の手がかりなのよ!
これを逃せばあいつを捕まえるチャンスは訪れないかもしれない」
ガルムは大きなため息を吐いた後、私の肩を掴んだ。
「分かった。だが無茶だけはするんじゃねぇぞ。
俺も何かと都合をつけて今から半年後ぐらいにその街に行く」
「そんなことできるの?」
「今の王様は俺にびびってるからな。
助言のような形でお願いすれば何とかなるはずだ」
「分かった。ただし1つだけお願いがあるの。
これから闘技場の街でお互いに会っても他人のふりをしてくれる?
私に仲間がいないと思わせたいの」
ガルムは相当悩んでいるようだ。
当たり前だ。自分で言うのもなんだがこの作戦はリスクが大きすぎる。だが、これぐらいしないとあいつには辿り着けない。
ガルムもそれが分かっているのか渋々ながらも了承してくれた。
私はガルムに「ありがとう」と言ってアブドヘルムを出た。それからは闘技場の街で、ただひたすらに待ち続けた。




