喧嘩
心臓の鼓動がはやくなるのを感じた。
だめだ、息ができない。汗が止まらない。
私はなんでここにいるの?
私はなんで生きてるの?
「シャルル!」
ジェシカが私の肩を掴む。
「大丈夫? 顔、真っ青だよ」
「ハァ、ハァ、ハァ」
「大丈夫ですか? 話はまた今度にしますか?」
「当たり前でしょ! こんな状態で話せるわけないじゃない!!」
「待ってジェシカ!
すいません。お話、聞かせてもらってもよろしいですか?」
ジェシカが驚く。
ギルドマスターはニヤリと笑い「ではこちらへ」と言って歩き出した。
私はギルドマスターについて行く。
「シャルル本当に大丈夫?」
「うん、ありがとう。ジェシカもついてきてもらっていい?」
「もちろん!」
ジェシカは戸惑っていたがすぐに笑顔で答えてくれた。
ああ、私は恵まれてる。こんな最高の仲間がいるのだから。
今まで両親のことについてずっと目を瞑ってきた。お婆ちゃんは許してあげてと言っていたけど、許せないと思ったことは何回もある。
私を1人にしたこと。今では仲間を死なせたことも許せない。
いつしか両親のことは考えないようにと心の奥底へと封じ込めていた。
でももうやめよう。今日で終わりにするんだ。
私は両親の話を聞く覚悟を決めた。
・・・・・・
私たちはギルドマスターについて行き、お店に入った。
席に着くとウェイトレスがきてメニューを聞いてきた。
「いつもので」ギルドマスターがそう言うとウェイトレスは「かしこまりました」と言って下がった。
5分ほど待っていると、料理がやってきた。
お肉が赤い。これって食べられるの?
ジェシカも驚いている。
ギルドマスターは平然と食べていた。
私たちも恐る恐るお肉を口に運ぶ。
おいしい!!
こんなに柔らかいお肉は初めて食べた。口に入れた途端、お肉が溶けていく。噛めば噛むほど旨味が広がっていく。
なんだろう、この幸福感。
「気に入ってくれたみたいだね」
ギルドマスターは私たちを見て微笑んでいた。
恥ずかしいところを見られてしまった。でも頬が緩んで戻らない。
「いいよ、そのままで。
早速だけど君のお父さんとお母さんの話をしてもいいかな?」
覚悟はできてる。
私は緩んだ頬を戻し頷く。
「僕がドラゴンの角や鱗を採取してきた功績でギルドマスターになったのは知っているかい?
この時のドラゴン討伐のチームリーダーが君のお父さんとお母さんだったんだ。
チームメンバーは50人ほどいたんだが、半数以上がドラゴン討伐で亡くなってしまったんだよ。その中に君のお父さんとお母さんも含まれている。
でも君のお父さんとお母さんはとても立派だった。自ら前線で戦い、角を切り落としたんだ。彼らは死ぬ間際に私に1つの頼み事をした。
いつかドラゴンの討伐を達成してくれ、と。
そう言って私に角と鱗を託して亡くなった。
私はその約束を遂げるためにギルドを建てたんだ。そしていつかドラゴン討伐を達成しようと思っている。
そこでだがシャルルさん、私のギルドに入らないかい?
私と一緒にドラゴンを討伐してお父さんとお母さんの悲願を果たさないかい?」
そう言ってギルドマスターは私に手を差し出した。
そうだったんだ。私のパパとママは無駄死になんかじゃなかったんだ。
私は今まで胸に引っかかっていた重りがとれた気がした。
その瞬間、涙が溢れ出てきた。
その涙は止まらなかった。
ジェシカが何も言わずに背中をさすってくれる。
ギルドマスターは立ち上がり、
「いい返事を待っているよ」
そう言って店を出た。
私が泣いているとウェイトレスがやってきた。
「大丈夫ですか?」
そう言ってハンカチを渡してくれた。
「ありがとうございます」
ウェイトレスが私に優しく微笑みながら言う。
「あの人はいい人ですよ。
私たちもいつも助けてもらっています。
何より言ったことをやり遂げる力が彼にはあるような気がします。
部外者が口を出すことではありませんが信じてみる価値は充分あると思いますよ」
ウェイトレスはそう言った後「会計はあの人が済ませていますので」と言って去って行った。
・・・・・・
私たちは店を出た後、朝に予約していた宿屋に向かった。
「シャルル、もしよかったらでいいんだけど、私にシャルルのお父さんとお母さんのこと教えてくれないかな?」
宿屋でジェシカが聞いてきた。
私はパパとママについてジェシカに話した。
パパとママが私の小さい頃にドラゴンの討伐に行ったこと、その後お婆ちゃんが死んで村の人から虐められるようになったこと、だから1人で冒険者として活動をしていたこと。
そしてジェシカとガルムに助けられたこと。
ジェシカは静かに聴いてくれた。
私が話し終わった後、ジェシカが口を開いた。
「私はあのギルドに入らない方がいいと思う」
一瞬の静寂が生まれる。
「どうして? なんで止めるの?」
「今シャルルから話を聞いて、あいつが話すシャルルのお父さんとお母さんの話がおかしいと思ったの。
シャルルのお父さんとお母さんを悪く言うつもりはないんだけど。
ただ・・・」
「もういい!!」
「違うの、シャルル。話を聞いて!」
パチンッ!
私はジェシカの頬を叩いた。
ジェシカは呆然としている。
「出て行って」
「ごめん、シャルル。でも・・・」
「出て行って!」
数秒の沈黙の後、ジェシカは俯き「分かった」と言って部屋を出て行った。
枯れたはずの涙が頬を伝った。




