勧誘
ガルムの修行はとても楽しかった。
ガルムは私たちに戦闘の技術を直接教えてくれることはなく、常に私たちが自分で導き出すようにしてくれていた。
「回りくどいことせずに教えてくれたらいいのに」
逆にジェシカはいつも文句を言っていた。
ジェシカとガルムとの冒険が1年ほど続いた頃、私たちはアブドヘルムにある一つのギルドへと向かっていた。そのギルドのマスターは昔、ドラゴンの角や鱗を採取してきた功績でランク2となりこのギルドを立ち上げたらしい。
そのこともあってか、このギルドには強い冒険者が多く集まっていた。
ガルムはこのギルドから専属の冒険者になって欲しいと前々から頼まれていたのだ。
「2人ともちょっと待っておいてくれ。ギルドマスターのやつしつこいから直接乗り込んでをぶん殴ってくるわ」
そう言ってガルムはギルドに入っていった。
え、殴るの? 冗談だよね??
「シャルル、ガルムについていくわよ」
ジェシカが私の肩を叩いて言った。
「あいつ本気で殴る気だから」
・・・・・・
「なんだ、お前らついてきたのか」
「当たり前でしょ。1人で行かせたら何しでかすか分からないじゃない」
ジェシカが呆れた顔で言う。
ガルムは頭をかきながら「ハハハ」と笑いながら言った。
「いやー、久しぶりに思いっきり殴れると思ったんだけどな。今回はちゃんと殴る理由もあるし」
「ないわよ!」 「ないよ!」
ジェシカと私の声が重なった。
・・・・・・
「おい、あの人ってガルムさんじゃないか?」
「すげぇ! 本物だ」
周りの冒険者はガルムを指さしてささやく。
ガルムは全て無視して受付に向かった。
受付の人にガルムが話しかけると、その人は奥の部屋に入って行った。数分後、その人は戻ってくるとガルムを受付の横にある大きな扉へと案内した。
ガルムは受付の人と何か話をして私たちに呼びかけた。
「お前らもついてきていいってさ」
私たちは立ち上がりガルムの元へ向かった。
大きな扉には金の装飾が満遍なく施されており、このギルドが儲かっていることは人目見て分かった。扉の奥には螺旋階段があり、この階段の手すりにも金が使われていた。
私はこんなに豪華な場所は初めてだったので少し緊張していた。横を見るとジェシカも珍しく緊張しているようだった。
「お前ら緊張しているのか? 珍しいな」
そう言ってガルムは笑う。
こんな場所に来たら緊張ぐらいする。ガルムって実は凄い人なのかな、そんな考えが一瞬だけ頭をよぎったがすぐに消えてなくなった。
ガルムが手すりの一部分を握り潰したのだ。
「あ、やべっ」
受付の人が悲鳴を上げる。
ガルムは「やっちまったぁ」と振り返りながら私たちに言った。私たちは笑いそうになるのを必死に堪える。
受付の人は怒ってその場にガルムを正座させた。
ガルムはその後、正座の状態で説教を受けた。
10分後、受付の人は説教をやめた。どうやら案内している途中だったことを思い出したらしい。時計を見た後ガルムに「もう握りつぶさないでくださいね!」と念を押して階段を登り始めた。
ガルムはもう一度振り返り「あの人思ったより怖いな」と私たちに呟いた。
私たち堪えきれなくなり大声で笑ってしまった。
「聞こえていますよ、ガルムさん」
受付の人は怒りで顔が真っ赤だった。
「いや、今のはジョークです。そうジョーク。
お姉さんがあまりにも可愛いから構って欲しかっただけなんですよ」
ガルムの言い訳も虚しく、説教が螺旋階段に響く。
私とジェシカは笑うことを抑えられなかった。
いつの間にか私たちの緊張は解けていた。
・・・・・・
螺旋階段を上りきると一つの扉があった。扉にはクリスタルが嵌め込まれており、扉の上には「ギルドマスター」と書かれた表札のようなものがあった。
扉を開けると、中には40歳ぐらいの男性が真ん中の大きな椅子に座っていた。
この人、どこかで見たことがあるような気がする。
「ここまでくるのに時間がかかったな。何かあったのか?」
「いろいろと」
受付の人がギルドマスターにここに着くまでに起こったことを話す。
「アッハッハッハ!」
ギルドマスターは笑った。受付の人は顔をしかめる。
「ガルムには借りがある。逆にそれぐらいで済んでよかったよ」
ギルドマスターはまだ笑っている。
するとガルムが切り出した。
「俺はこのギルドの専属の冒険者になるつもりはない」
ガルムは今まで見せたことのない真剣な表情でいった。
「そう言うと思っていた。分かった。
ここでお前に暴れられても困るしな」
あれ、思っていたよりすんなり分かってくれたみたいだ。
しつこいって聞いていたからもっと時間がかかると思っていた。
ガルムも驚いた様子だった。
しかしガルムはすぐに
「ジェシカ、シャルル、行くぞ!」
そう言って部屋から出ていった。
私とジェシカはガルムの後をついて行った。
「シャルル?」
ギルドマスターはニヤリと笑った。




