誘拐
「そんなにおかしい? この村」
シャルルの言う通り、目に見えて変わったところはこの村になかった。どのお店も品不足になっているわけでもない。逆に人が少ないのに品揃えが充実している方だ。
俺の勘違いなのか?
そう思った時、
ドンッ!
小さな女の子が俺にぶつかってきた。
「すいません! ちゃんと前を見てなくて」
「大丈夫だよ、怪我はない?」
「はい、お兄さん達は冒険者なんですか?」
「ああ、そうだよ」
「冒険者にはランクがあるって聞いたことがあります。お兄さん達のランクは何なんですか?」
「俺は5で、このお姉ちゃんは3だよ」
「うわぁ、凄いんですね! かっこいいです!!」
いい子だな。このまま素直に育ってほしいものだ。
「ヒロト、気持ち悪い顔してるわよ」
う、うるせぇ!
・・・気をつけよ。
「ちゃんと前を見て歩くんだよ」
「はい!」
女の子はそう言うと去って行った。
・・・・・・
俺とシャルルは、宿屋ではもちろん別々の部屋をとっている。
「シャルルなら大丈夫だと思うけど、充分気を付けてくれよ」
「誰に言ってるの?
あ、分かった。私と一緒に寝たいんでしょ? それならそうと言ってくれたらいいのに」
「バ、バカやろう! 心配して言ったんだよ!!」
「本当かなぁ?」
くっそー! こいつ俺をからかって楽しんでやがる。
「分かったわ、充分気をつける。
それじゃあおやすみ」
そう言ってシャルルは自分の部屋に入っていった。
俺はなぜかとても損をした気分になった。
・・・・・・
目を覚ます。
こんなに静かな朝は久しぶりだ。いつもはシャルルが起こしに来てくれるのだが、今日は起こしに来ないな。
珍しく寝坊でもしているのか?
俺はシャルルの部屋へ向かった。
ドアをノックする。
返事がない。
おかしい。いつもはすぐに返事を返してくれるのに。何かあったのか?
その瞬間、俺は恐ろしい考えが頭に浮かんだ。
「シャルル!」
俺は勢いよくドアを開ける。
シャルルはいなかった。シャルルの持ち物も全てなくなっていた。
嘘だろ・・・
俺は急いで宿屋を出た。
・・・・・・
いた! 昨日、俺にぶつかってきた女の子だ。
「君、ちょっと待って」
女の子の顔は真っ青だった。
「ど、どうしたの。お兄さん」
「昨日、何で俺たちのランクを聞いたんだ?」
「それは・・・
気になったから!」
「そんなわけないだろ!!!
ごめん、大声なんか出して。
単刀直入に言う。昨日、俺と一緒にいたお姉さんが拐われたんだ。君は拐った奴らの居場所を知っているんだろ? 俺に教えてくれないか?」
女の子は涙を浮かべながら首を振る。
「俺にとってとても大切な人なんだ。君から聞いた事は絶対に言わないから」
女の子は黙ったまま動かない。
「頼む! この通りだ」
俺は地面に頭をつける。
「お兄さん、本当に強いの?」
「アンナ!! 言っては駄目!!!」
女の子のお母さんらしき人が叫ぶ。
どういうことだ? この女の子が告げ口したんじゃないのか?? まさか・・・
「この村の人、全員が共犯者なのか・・・」
俺は絶望した。この村は腐ってる、腐り切っている。
こんな小さな女の子に犯罪の協力をさせているなんて。
アンナと呼ばれた子は震えながら言った。
「お兄さん、悪い人達を倒してくれる?」
「アンナ!! やめなさい!!!」
「もう嫌なの!! ずっと悪い人達の言いなりなんて耐えられない。
お兄さんは大切な人を助けにいくって言った。
私もお父さんやお母さん、村のみんなを助けたい!!
でも私には力がないからこのお兄さんにお願いするの!!!」
「アンナ、もう分かったよ」
いつの間にか、アンナの側には男の人がいた。村人達も外に出てきている。
男の人はアンナの頭を撫でる。
「お父さん・・・」
「アンナの気持ちは充分伝わった。もう俺たちは悪い人達の言いなりにはならない。
みんな! 今のアンナの言葉は聞こえていただろう!!
俺たちは今まで耐えてきた。だが、解放してくれる気配は全くない。もう我慢の限界だ!!
何より、子どもにここまで言わせて置いて黙ってられるか!!
みんな反撃の時だ!!!」
「オオォォーーー!!!」
村人達が一斉に腕を突き上げ、声を上げた。
早くシャルルを助けに行きたいんだけど・・・




