クラーケン
「君って、本当に冒険者ランク3?」
男が聞いてくる。
「いえ、あのチケットは知り合いのもので。
どうやら間違えて受け取っちゃったみたいです。
俺はランク5です」
俺がそう言った瞬間、誰かが言った。
「もう俺たちは助からないんだ」
それを聞いた周りの冒険者達も諦め始めた。
しかし、さっきまでいなかった責任者らしき人が、船にある部屋から出てきて大声で叫んだ。
「皆さん、今船についていた網を外し、ギルドに連絡しました!
このクラーケンの足を一瞬でも外すことが出来れば、港に引き返すことができます!
皆さん、協力してこのクラーケンから逃げ切りましょう!!」
その声はよく響いた。だが、冒険者達には届かない。
「何してるんですか、皆さん! 協力すればなんとかなりますよ!」
責任者らしき人は必死に叫ぶ。しかしそれに反応する者は現れなかった。
すると、海中からクラーケンの細い足が大量に出てきた。その足は、船に絡みついている太い足とは違って冒険者を狙ってくる。
みんな自分のところに来る足は撃退していたが、攻撃に覇気がなかった。悲鳴を上げながら魔法を放ったり、闇雲に剣を振り回すだけだった。
俺は巾着から木刀を取り出し、魔力を込めて光の剣にして、細い足を斬った。細い足は簡単に斬れた。
やっぱりそうか!
「エマ、大丈夫か?」
俺は近寄ってくる足を火魔法と剣で撃退しながら言った。
「大丈夫よ。想像通りあなた、ランク3じゃなかったのね」
エマは風魔法で撃退している。
「やっぱり気づいていたんだな。このままじゃジリ貧だ。誰か捕まるぞ」
「人のこと心配してる場合?」
エマは器用にクラーケンの足をかわす。
「うわーーー! 助けてくれーーーー!!」
ついに冒険者の1人がクラーケンの足に捕まってしまった。冒険者を捕まえた足は海に冒険者を引きずり込もうとする。冒険者は必死に抵抗する。
しかし、誰も助けようとする人はいなかった。
なんで誰も助けないんだ⁉︎
目の前で人が捕まってるんだぞ!
「何するつもり?」
エマは俺に向かって叫んだが、俺はそれを無視して、冒険者を捕らえている足を光の剣で斬った。
「ありがとう」
捕まっていた冒険者は俺にそう言った。
俺に細い足が向かってくる。
やばい、態勢が!
風魔法が俺に向かってきた足をなぎ払う。
俺はその隙に態勢を立て直し、足を斬った。
「ありがとう! エマ」
「お礼はいいから! 他の人を助けてないで自分を守りなさい!」
エマが叫ぶ。
「うわーーー!」
他の冒険者達がどんどん捕まっていく。
くそっ! 拉致があかない。
船の外を見るとクラーケンが水中から出ていた。どうやら小さい足はあまり長くないようだ。
俺は船から飛び降りようとした。
「何してるのよ!」
エマが俺を止める。
「クラーケンを斬ってくる」
「はぁ! 馬鹿じゃないの?
あんな怪物斬れるわけないじゃない!!」
「でも俺は人が死にそうなところを見て見ぬふりなんてできない。
どうせ誰かがあのクラーケンを撃退しなきゃならないんだ、やれるだけやってみるさ」
俺はそう言ってエマを振り解くと、クラーケンに向かってジャンプした。足に魔力を集中させたので、高く飛んだ。
俺は空中で木刀にさらに魔力を込めて、いつもの倍の長さがある光の剣にした。
いつもよりより鋭く、より強固に。
俺は長い滞空時間の間、クラーケンを斬れる剣をイメージし続けた。俺は落下していく。
全てをこの一刀に!!
俺はクラーケンに向かって剣を突き立てた。
剣はクラーケンを貫く。
よし! これならいける。
クラーケンは苦しいのか海の中に潜ろうとする。
俺は急いでジャンプして船に戻り、船に絡みついていた大きな足を斬ってまわった。
俺は責任者らしき人に向かって叫んだ。
「今だ! 引き返せ!!」
その人は一瞬呆気にとられていたが、すぐに部屋の中へ入っていった。船は方向を変え、港へ向かった。
・・・・・・
「本当にありがとうございます」
何回目だろう。
俺たちはクラーケンから逃げ切り、無事に港に着いた。
船を降りてから、俺は周りの冒険者からお礼を言われ続けた。責任者らしき人はずっと俺に頭を下げている。
報酬まで貰ってしまった。クラーケンの足を積んで帰ってきたので儲けがでたらしい。
エマはニヤニヤしながら俺に言う。
「人気者だね!」
「助けてくれよ。ここから動けない」
「それじゃあ、どこかのお店に入りましょ!」
エマは俺の手を握った。俺たちは人混みをかき分けて、港を出た。
・・・・・・
俺たちは街の外れにあるお店に入った。
「ここのコーヒー美味しいのよ」
エマが言った。
確かに美味しい。まあ、俺が飲んでるのはカフェオレだけど。
「あなた、よくクラーケンに向かって行ったわよね」
「まあな、斬れると思ったから」
「なんでそう思ったの?」
「初めにクラーケンの大きな足を斬った時、違和感を感じたんだ。その後、細い足を斬った時に分かった」
「何が?」
「クラーケンは大きな足に魔力を込めてたんだよ。だから斬れなかった。その分、素早い動きはしていなかっただろ。
逆に細い足は俺たちを捕らえるようだから、魔力を込めず細かく動かせることが出来ていたわけだ」
「へぇー、ヒロトって思っていたより賢いのね」
思っていたよりってなんだ! バカだと思ってたのか?
「じゃあなんで最後の方は大きい足を斬れたの?」
「魔力を込めるのは集中力がいるだろ。ただでさえ細い足も動かしているんだ。急に自分が攻撃されたらそれどころじゃないだろ?」
「だからクラーケンに斬りかかっていったのね!
ダメージを食らって大きい足への魔力の集中がなくなった後に、斬りにいったってことか。
凄いじゃない!!」
褒められると悪い気はしない。
「でもクラーケンもバカだよな。全体に魔力を漂わせていれば、俺の剣じゃダメージは与えられなかったのに」
ん? 全体に漂わせる?
「クラーケンの本体を斬りに行く奴なんて、あなた以外いないわよ」
エマが笑いながら言う。
「ヒロト? どうしたの?」
そうか、そういうことか!
「エマ、すまん! 用事を思い出した」
「えっ、急にどうしたの?」
俺はお金を机の上に置いて店を出た。




