ガーベラ村
ガタッ!
急にリュードが立ち上がった。
「料理減ってきたんで、貰ってきますね」
リュードは席を離れた。
「リュード・・・」
サナがリュードを追いかけようとした。俺はそれを引き止めた。サナは「でも・・・」と言ったが、俺は「大丈夫」と答えた。サナは頷いた。
シャルルの方を見ると「行ってあげなさい」と言われた。
俺は席を立ちリュードを追いかけた。
・・・・・・
「リュード」
俺はリュードに追いつき、肩を叩いた。
リュードは少し驚きこちらを見たが、すぐに下を向いた。
「アニキですか、俺1人で料理は持っていけますよ」
「いや、少し話をしたいなと思って」
リュードは相変わらず下を向いたままだったが頷いた。
・・・・・・
俺達は人のいない場所に移動して座った。
「アニキ、今日はサナを助けてくれてありがとうございました」
「いや、あれは俺の不注意が招いたものだから。
気にしないでくれ」
「俺もあの場所にいました! アニキのせいじゃないです。
アニキは2人も相手にしてたのに、俺は1人倒しただけで満足してたんですよ。あの時油断してたんです。
サナは俺のせいで捕まったんだ!」
リュードは自分に言い聞かせるように言っているようだった。
「俺と一緒だな」
「何がですか?」
「俺もよく油断してしまう。いや、油断というより選択を間違ってしまう。あの時ああすれば良かったなっていう選択を今まで沢山してきた。きっとこれからもするだろう。
でも俺達は過去には戻れないだろ。だから俺は今出来ることを必死にしようと思うんだ。昔と違ってここでは自分の力で何かを変えられるんだからな」
リュードは黙って聞いていた。
沈黙が続く。
なんか恥ずかしくなってきた。
俺、変なこと言ってないよな?
リュードお願い、なんか喋って!
「失礼かもしれませんが、アニキの昔ってどんな感じだったんですか?」
良かった。
アニキのセリフ臭すぎですよ、とか言われたら俺死んでた。
「そうだな・・・ずっと虐められてたな」
「えぇっ!!」
リュードは驚いた。
「だから俺は全然凄くないぞ!」
リュードは突然笑いだした。
「アニキも悪い人だな。俺を慰めるために、そんな嘘をついて。虐められてた人は、そんなに簡単に自分が虐められてたなんて言いませんよ」
リュードはまだ笑っている。
いや虐められてたのは本当なんだが。
まあいいか、リュードが元気になってくれれば。
「人生は間違いだらけだ。俺達はまだまだ弱い。
自分の弱さを自覚したなら、後は強くなるしかないだろ!」
俺は立ち上がり、リュードに手を差し伸べた。
リュードは手を掴み「はい!」と返事をしてくれた。
「決めました! 俺、アニキよりも強くなります。
そして、いつかアニキを倒してサナに告白します!!」
いい心がけだ。
・・・ん? サナに告白??
「恋愛でもアニキには負けませんからね!」
リュードはさっきとは見違えた表情で歩きだした。
俺はなぜかリュードに既に負けてる気がした。
精神的に・・・。
・・・・・・
次の日、俺達は昨日の修行の続きをしていた。俺とリュードは百本勝負の続きを、サナはシャルルと魔法の練習だ。
昨日まではほとんど勝てていたのに、2割ほど負けるようになった。俺がそれを褒めると、リュードに「アニキ、それ嫌味ですよ」と言われた。
最後の試合は俺の勝ちで終わった。もう日が暮れかかっていた。
「お疲れ様、2人とも」
俺達はボロボロな状態で座っていると、シャルルが声をかけてきた。
「警戒を解いてないわね、ヒロト。リュードも森の中なんだから警戒を解いちゃダメよ」
たまに褒めてくるんだよな、シャルルは。俺はにやけそうになる顔を隠す。
リュードはとても悔しそうにしていた。
俺達は森を出て、宿屋へと向かった。
・・・・・・
朝起きると、目の前にシャルルがいた。
「やっと起きた。何時だと思ってるの?」
まだ7時半だった。
「早くガーベラ村へ行くわよ」
ガーベラ村? すごい名前の村だな。ガーベラが咲き誇っているのだろうか?
あれ? じゃあ、この村の名前は何なんだ?
そんな疑問はすぐに頭から抜けていった。
シャルルが俺の布団を引き剥がしたのだ。
「何すんだよ!」
「もうリュードもサナも待ってるわ、急ぎなさい!」
いつも急なんだよな。
しかしここで悪態をつこうものなら、この後ずっと睨まれることになるので心の中にしまった。
準備を終え、外に出るとリュードとサナが待っていた。
シャルルが今日の朝、7時にガーベラ村に行く馬車を見つけて、交渉したらしい。
「さあ、急いで乗るわよ!」
俺達は荷車に乗せてもらった。
道中、盗賊は出なかった。馬車を運転していた村の人は、「こんなに安全な移動は久しぶりだ」と喜んでいた。
森を抜け、少しするとガーベラ畑に入った。
「きれい・・・」
シャルルとサナが呟く。リュードも感動しているようだった。俺も、この景色には感動せざるを得なかった。
まさに絶景だった。
ガーベラが辺り一面に咲き誇っていたのだ。白、ピンク、黄色、緑、紫、オレンジ、赤と様々な色のガーベラが咲き誇っている。
風がガーベラを撫でるように吹いていく。ガーベラは左右に動き、まるで俺たちを歓迎しているように見えた。
ガーベラ畑を抜けるとすぐに村が見えた。
村に着くまで、俺達はガーベラ畑の話題で持ちきりだった。
なんだか久しぶりに落ち着いた気分になった気がする。
今までは生きるか死ぬかだったもんな。
このまま穏やかな日々が続いてくれたらいいのだが。
これ完全にフラグだな、そう思って俺は考えるのをやめた。
村に着くと、シャルルが別行動をしようと言い出した。特に反論する理由もなかったので、各々別行動をすることになった。
俺はサナに「大丈夫か?」と聞くと、
「大丈夫です! お姉ちゃんに自衛の術を学びましたから。心配してくれてありがとうございます!」
と返された。それでも少し不安で、シャルルにサナのことを質問したら
「この村で1人で行動出来ないようなら冒険者はやれないわ。
いつかあの子は1人で解決しなきゃいけない場面に必ず出くわす。その為にも今のうちに慣れておかなきゃいけないでしょ。
大丈夫、とっておきを授けてあるから」
と言われた。シャルルは時々だが、まともなことを言う。サナを本当に心配してるからこその行動なのだ。
自分の安易な考えが恥ずかしくなった。
「ハチミツちゃん、待っててね。私が美味しく食べてあげるからね!!」
シャルルはそう言うと何処かへ行ってしまった。
もしかして、ハチミツを独り占めする為に別行動をしようと提案したのか?
一瞬でもシャルルを尊敬した俺がバカだった。




