大食い大会
「アニキ、俺に稽古をつけてくれませんか?」
リュードが唐突に言った。
俺が戸惑っていると
「いいわよ、見てあげる」
シャルルが答えた。リュードは嬉しそうに「やったぁ!」と言い、急いで料理を食べる。
「今からでもいいですか?」
「ええ、場所は1番近くの森にしましょう」
リュードはすぐに「はい!」と返事をした。
・・・・・・
「それじゃあ、ヒロトとリュードは百本勝負をしなさい。魔法の使用はありよ。
魔物が出てくることもあるから、警戒を怠らないように。
それでは始め!」
リュードは突っ込んできた。
何これ? ついていけてないのは俺だけ?
シャルルは俺とリュードの戦いを一通り見ると、サナと一緒に魔法の練習を始めた。
リュードとの勝負は学ぶことが多かった。魔物にはなかった駆け引きから、防御を簡単に崩してくる剣術まで、リュードは俺に持っていない技術を持っていた。
始めの方は10回中3回は負けていたが、繰り返していくうちにほとんど負けなくなった。
「アニキ、強すぎですよ」
30回ほど戦っただろうか。リュードが膝をついて言った。
「当たり前じゃない。ヒロトはあなたから多くのことを学んで、戦いの最中でも成長してるんだから」
シャルルが得意げに言った。
いや、お前が威張ることじゃないだろ。
「そうか、相手から学ぶ・・・
アニキもう一戦やりましょう!」
リュードは意気込んで構えたが、シャルルが止めた。
「今日は終わりよ。日も暮れてきたし、2人ともボロボロじゃない。こんな状態じゃ怪我するだけよ」
リュードは「でも!」と言ったが、シャルルに睨まれて黙ってしまった。
こうなったシャルルは、もう何を言っても変わらない。
「飯にするか!」
俺はリュードの肩を叩き言った。
・・・・・・
「アニキ! おはようございます!
今日も森で戦いましょう!!」
リュードは俺の部屋にノックもせず入ってきた。
俺は寝ぼけ眼でリュードを見る。もう森に行く準備は万端のようだ。
「駄目だ」
俺はリュードに言った。
「なんでですか?」
リュードは驚き、ショックを受ける。
「今日はシャルルが出る大食い大会がある。あれを見にいかなければ、俺もお前もあいつに殺されるぞ」
リュードはすごく落ち込んでしまった。
少し言い過ぎたかな。
「大食い大会が終わった後ならいいぞ」
リュードの顔が輝く。
「ありがとうございます! アニキ!!」
・・・・・・
「みなさん、お集まりいただきありがとうございます!
大食い大会の司会を務めます、ソフィアです。
先日の予選を突破した5名が今からこの場所で優勝を目指して戦います。
ルールは至ってシンプル。制限時間内にどれだけ多く食べられるかを競います。
それでは、選手の紹介です。みなさんから見て左手から、この村で鍛冶屋をしている、マシュー!」
観客が拍手をする。
「武器から防具まで何でも揃ってる、マシュー鍛冶屋をよろしく! とのことです」
なるほど! 決勝戦に出るといろんなアピールができるのか。だからみんな参加するんだな。
その後、同じような紹介が3回続いた。端的に言うと、この村のパン屋が1人と冒険者が2人だった。
「うちのパン屋をよろしく」とか「依頼があれば、ぜひ声をかけてください」という内容だった。2人の冒険者はそれぞれランクが7と5だった。
次はシャルルの番だ。なんだか急に恥ずかしくなってきた。
「ラストは冒険者のシャルル!
私が優勝するからみんな見ててね! とのことです」
うわっ! 恥ずかしっ!
あいつ絶対バカだろ。もう一緒に歩けないよ。
「アネキ、頑張れ!」
リュードが手を振る。
ここにもバカがいました。
「ちなみに、優勝商品は・・・ この村で採れる、最高級ハチミツです!!!」
ハチミツ⁉︎
シャルルが参加するわけだ。景品が食べ物なら意地でも優勝するだろうな。
「それではみなさん準備はいいですか?
いきますよ! 大食い大会決勝戦、スタート!!」
笛が鳴り、大会が始まった。選手が食べているのはホットドックのようなものだった。
シャルルは圧倒的だった。食べるペースが全く落ちない。あの細い体のどこにホットドックが入っているのか不思議だった。
「残り1分です!」
司会のソフィアが叫ぶ。シャルルは2位に7本程の差を開けていた。終了の笛が鳴る。シャルルの優勝だった。
「すごい! 大食い大会最高記録です!!」
シャルルがガッツポーズをする。観客は歓声を上げた。
シャルルは優勝商品のハチミツを受け取り、ご満悦のようだった。大会が終わり、俺たちはシャルルの元へ向かった。
「おめでとうございます! アネキ」
「おめでとう! お姉ちゃん」
「おめでとう」
「ありがとう! これから勝者インタビューの後、この村のお店をまわらないといけないから、もう少し自由にしていてもいいわよ」
「お店をまわるってどういうことだ?」
俺が聞くと、決勝戦にいた鍛冶屋のおっさんが説明してくれた。
「優勝者が毎回この村の店をまわって、感想を書いていくんだ。それでお客さんを増やして村を活性化させようっていうのが、大食い大会の本当の目的なんだよ」
なるほど、今シャルルはこの村では有名人だもんな。
「そっか、じゃあ俺たちは昨日の修行の続きをしに森に行くよ」
俺がそういうとリュードが目を輝かせた。
鍛冶屋のおっさんは驚いているようだった。
「兄ちゃん達だけで森に行くのかい? 他に仲間はいないのか?」
シャルルが言う。
「いないわ。でもこんな見た目でも、こいつ結構やるのよ。
分かったわ。魔物がいることを忘れちゃダメよ。サナはどうする? 私と一緒にお店をまわる?」
なんだかんだで認めてくれているのか。
俺はにやけそうになるのを必死に我慢した。
「リュードが心配だから森へ行きます。誘ってくれたのにごめんなさい」
とサナは頭を下げた。
シャルルは先程優勝したとは思えないほど落ち込んだ。
「そう、それじゃあ気をつけてね」
シャルルはトボトボと歩いていった。
・・・・・・
俺たちは昨日の続きを始めた。リュードは昨日、シャルルに言われたことを意識しているのか、無駄な動きがどんどん減っていく。
サナはシャルルに教えてもらったのだろう、魔力操作の練習をしていた。
「うわーーー!」
突然奥の方から男の人の叫び声が聞こえた。
俺とリュードは戦いを止める。サナも練習を中断した。
俺たちは顔を合わせた後、叫び声が聞こえた方へと向かった。




