第一章 09 エンゲージ・オブ・ガーディアン
日付を一日勘違いして、昨日の投稿を忘れてました……不覚。
《Α・ο 1515》
《〈南部辺境〉〈墜落孔湖〉壁内外縁部》
《主観:不明》
ユーヤが話し終えた後は、二人の間に沈黙が下りた。ユーヤが話した内容は、それだけ重い内容だったからだ。
次に二人の間に会話が戻ったのは、更に15分程も歩いた後の事だった。
「……む、ユーヤ。『アレ』じゃないのか?」
「ん? あ、本当だ。『アレ』だな……」
無言で歩いていたサウリが、突然ユーヤの肩を叩くと前方を指差す。
サウリに示されたユーヤが見た物は、霧を抜けた上方に断崖の頂上付近まで続く、金属で組まれた大型の昇降機の姿だった。
周囲を警戒しながら、付近のちょっとした高台にあった岩塊まで近付き、その陰から確認する。
すると、霧のせいで全景を見る事は出来ないが、昇降機の周囲に展開されている簡易の建物の群れらしき物が見えた。
外周を頭より高い土塁で囲われた簡易の建物たちは、所々にその所属を示すオレンジ色の『ヒムカス軍』の紋章が入っており、ユーヤの話に出てきた『拠点』に間違い無いようだ。
霧の流れ方によってちらちらと、簡易の建物の合間にも大量のコンテナや軽車両が残され、一角を占拠している事が分かった。
「……前来た時はここまで近づかなかったんだけど、これは思ってたより規模がデカイな……てっきり、もっと最低限の機材しか持ち込んでなかったのかと思っていたけど……これなら、使える物も残ってそうだ」
考えながら呟くユーヤと、興味深げに周囲を見回しているサウリ。
と、サウリが周りを見回したままユーヤに問いかける。
「なぁ、ユーヤ。話にあった、『偵察哨戒機』とやらが……見当たらないんだが」
「ああ、その事か」
サウリの疑問に、ユーヤは納得顔で答えた。
「前に見かけた『偵察哨戒機』は、常駐してる訳じゃなさそうだった。記録データを取った解析した結果だと、〈戦宙艦〉を連中にとっての『拠点』にして、そこから〈クレーター〉の外周付近まで複数パターンのルートを周回させている、って事だそうだ」
「なるほど……それなら、『偵察哨戒機』が見当たらない今の内に、使える〈機材〉を頂戴するのが良さそうかな?」
「違いない。差し当たっては……〈非常用通信機〉の壊れてる部分を交換できる、電子部品関係が優先ってとこか」
見る限り、崖とそこに付随する昇降機を背にして、正面に大きな『広場』があるように見える。
他に目立つのは、左右に他より高い『警戒塔』らしき物、かまぼこ型の『整備ドーム』らしき物、大きくはないが一つだけ2階建て構造の『司令部』らしき簡易の建物、が目についた。
「探すのなら、『整備ドーム』か『司令部』辺り。それでも見つからなければ『警戒塔』で、ダメならたくさん置きっぱなしの『コンテナ』を調べていく……のは勘弁してほしいけど」
「見つからなければそれも仕方ない。あ、もし捜索中に『自動防衛装置』と遭遇した場合はどうする?」
嫌そうに首を横に振るユーヤに、サウリが問いかけた。
するとユーヤは、一瞬対処を考えたのだろう。宙を睨んだ後、答えた。
「……逃げる。と言いたいところだけど、大半のタイプとは移動能力に差があり過ぎて絶対に補足される。つまり、見つからないようにやり過ごすしかない」
「消極的に過ぎるが、それが実際か……『実物』を見ないと、あたしも何とも言えないところだよ」
二人はそろって肩を落とし、警戒はしつつもトボトボと『拠点』へと向かうのだった。
□■□
《Α・ο 1545》
《〈南部辺境〉〈墜落孔湖〉壁内外縁部・放棄された『ヒムカス軍拠点』》
《主観:不明》
二人は『拠点』の中でも離れる事無く、一緒に行動し捜索をしていた。
二手に分かれた方が効率が良いのは間違い無いが、何かを探そうとする時には周囲への警戒がおろそかになるだろう。それでどちらかが発見された場合には周辺一帯の警戒度合が上昇し、もう一人も見つかる事になる。そうなれば命は無い。
それならば、片方が捜索している間に、もう片方が警戒をすると言う事にして、二人で行動する事となったのだった。
「……ダメ、か。『司令部』っぽいここなら、通信機関連の何かがあるかと思ったんだけど」
「見つからなかったのかい?」
一部が崩れかけた2階建ての『司令部』らしき建物の中、見つけたガラクタを置いたユーヤがサウリの待つ出入口まで戻ってきた。
「ああ、たまにそれらしい物はあるんだけど、運悪く外からの浸食が激しい場所に置いてあったからボロボロになってる。この中はダメそうだ」
「となると……次は向こうの『整備ドーム』らしきところか」
ドアの陰から外を伺うサウリが、近い角の部分がうっすらと見えている『整備ドーム』のような大型の幕を張られた建物に視線を向ける。
逆側の陰から同じように視線を向けたユーヤが、背負っているサバイバルキットの位置を調整しながら質問した。
「電子機器がありそう、って言う順番だとそうなんだが……サウリ、他に何か思いついたりするか?」
「いや……あたしも探すのならそこだと思う」
「じゃあ、移動するか」
二人は交互に周囲を警戒しながら、簡易の建物や軽車両の間を抜けていく。少しづつ日が落ちている為、周囲の光量が徐々に落ちている。
現状はまだ問題ないが、もう1時間もしない内に完全に影に入ってしまう事を考えると、急ぐ必要があった。このろくでもない環境で一夜を明かすのは、二人ともに望まないところである。
念の為に『広場』を迂回し、二人は『整備ドーム』らしき建物の横に着いた。側面の人間用の出入り口から、様子を伺うサウリの横を通ってユーヤが中に入ろうとした、その時だった。
「ッ!」
「う──「(静かにッ)」」
何かに気付いたサウリが小柄なその全身を使って、ユーヤを手近なコンテナの影へと押し倒す。ついでに声を上げ掛けたユーヤの口を、片手で抑え込んだ。
そのまま体重をかけ、全身を使って尻もちをついた姿勢のユーヤを体で押さえつつ、首だけ振り返らせ聞こえてくる音に神経を張り巡らせる。
「(サウ──モッ)」
「(静かにしろってば)」
何か危険があったのかと、顔を寄せて小声を出そうとしたユーヤの口を。開いた手で強引に自分の胸元に押し付け、無理やり口を塞ぐサウリ。
ユーヤは(分かってるから小声で言ったんだが……)とも思っていたのだが。顔面に感じる柔らかさとか、ふわりと香る甘い匂いに意識が行ってしまい、何も言えなくなっていた。
そのまま警戒を続けていたサウリだったが、一向に何かが動き出すような音も気配もしない事を確認した。ゆっくりと顔を戻すと、自分の胸元にユーヤが顔を突っ込んでいるのを見て一瞬ピクリと体を震わせる……が、一度深呼吸をして気を落ち着け、口を開いた。
「(……大きな声を出すなよ)」
危険な状況だと言うのに、ゆっくりと顔を離したユーヤの顔がやけに赤いのを見て、思わずサウリもほんのりと顔を赤くする。が、何気ないフリをして体を離すと、コンテナの陰に移動しユーヤを手招きする。
ユーヤも今度は声を出さず近づき、ゆっくりと示される方向を確認した。
すると、今しがた入ろうとした『整備ドーム』の中ほどに、『黒い塊』が鎮座しているのが見えた。一見、外に多数放置されている軽車両の一種のようにも見えるが。
『黒い塊』を認識いしたユーヤの体がビクッと震えると、ゆっくりとした動作で体を隠しサウリに話し掛けた。
「(……あ、危なかった)」
「(あたしも肝が冷えたよ。まさか──『多脚戦車型』の『自動防衛装置』が、ど真ん中に居座ってるとは思わなかった)」
冷や汗を拭うユーヤと、自分自身を抱くように腕を組むサウリは、念の為にもう少し距離を取って対処を考える事にした。
来た道を逆戻りし、身を隠せる建物の中に入り込む……一息ついたとこで、サウリが口を開く。
「……しかし、困った事になったな。『多脚戦車型』の中でも、あれは兵器が潤沢に搭載されているタイプだ……今見えただけでも、正面に〈照射型光学兵器〉、左右の背部に〈多連装ロケットランチャー〉が取り付けられていた」
「……」
「加えて言えば、正面の顔に当たる部分にメインの〈複合センサー〉、おそらく後部にも〈動体検知センサー〉、背部後方に〈無線通信装置〉のアンテナがあったな……今は偶然側面からの接触で、一瞬だけだから気付かれなかったようだが、見つかれば即座に周囲の『自動防衛装置』にも警報が行って集まってくるだろう」
流れるように、目に入った『自動防衛装置』の推測諸元を口にするサウリに、目を丸くしたユーヤが問いかける。
「お、おいサウリ? 何で……そんな事まで分かるんだ?」
その言葉を聞いたサウリは、何を言ってるんだ? と言う顔を一度したものの、何かに思い当たったかのように自分の頭に手を当てる。
「ああ……そう言えば色々とゴタゴタし過ぎて、名前以外の自己紹介もろくに出来ていないんだったか。ユーヤにはまだ言って無かったんだった」
「うん?」
ニヤリと笑みを浮かべたサウリは、言葉を続ける。
「ユーヤ、あたしの──『職業』は、何だと思う?」
「『職業』? ……フリーの『盗賊』?」
問われたユーヤは、一瞬考えてから答えるが、呆れた表情を浮かべたサウリに否定される。
「……違うよ。と言うか、あたしを今まで『盗賊』だと思ってたのかい?」
「い、いや! 今のは冗談だ、ハハハ……でも違うとすると、分からないな」
サウリのジトリとした目に笑って否定したユーヤだったが、情報が少なすぎて推測出来ない。お手上げだとばかりに、両手を上げたところでサウリが胸を張って主張する。
「あたしは、今は失われた古代の技術を発掘・回収して調査する──『考古学者』なんだよッ!」
どやぁと誇らしげな顔をしているサウリだったが、向けられた側のユーヤの反応はあまり芳しくない……と言うより、若干イヤそうな顔すらしていた。
「『考古学者』? ……って『遺跡漁り』か? 傭兵の俺が言える事じゃないけど、バクチな『職業』してるんだなぁ」
「……『遺跡漁り』と一緒にされるのは、非常に業腹なんだが……知らない人間に区別がつくものでもないし、あたし自身どこかに所属している訳でもないしなぁ……まぁ、似たようなものだよ」
ユーヤの反応にもの言いたげな顔を返しつつも、細かく否定するには時間も根拠も少ないと考え直して、サウリはとりあえずおおよそ肯定しておく事にする。
そして、サウリの言葉を聞いたユーヤの側も、自分の疑問の答えが提示された事に思い至った。
「だがまぁ、なるほどね。それなら『自動防衛装置』の細かい仕様に詳しいのも分かった」
一つ二つ頷いたユーヤに、サウリが腕を組みながら呟いた。
「……本当なら、折角の機会だから〈戦宙艦〉まで調べられたら良かったんだけど……命には代えられないからね」
「全くだ……しかし、そう言う事なら。サウリ、『多脚戦車』への対処方法なんてのも、思いつくって事か?」
問いかけられたサウリは、少し目をつぶって考えるが……ややあって目を開くと、再度ニヤリと笑みを浮かべる。
「任せたまえ。あの『多脚戦車』の一体や二体、始末する方法はいくつか思いついたさ」




