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猫と幼なじみ  作者: 鏡野ゆう
帝国海軍の猫大佐 裏話

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一般公開に行くよ! in 帝国海軍の猫大佐 17

 かず君のご機嫌がなおったのも駅につくまでだった。駅舎前の駐車場に車が止まったとたん、またもと通りのご機嫌斜め状態に。ななめならまだ良いんだけど、この様子だと、電車が走り出したら泣いちゃうんじゃ?な気配だ。


「かずくーん、またお休みに来ればええやん?」

「……」

和人(かずと)?」


 普段なら改札口で見送ってくれる(しゅう)ちゃんだったけど、今日は入場券を買ってホームまで上がってきてくれた。電車が来るのを待っている間、私が苦労しそうだって察してくれたんだと思う。


「またゴールデンウイークに来ればいいだろ?」

「どんだけー?」

「最初から最後まで。パパはずっとは休めないけどさ」


 電車が来るまでと座ったベンチ。おちびさんは足をぶらぶらさせながら、ふくれっつらをしている。


「そのつぎはー?」

「その次? 次は夏休みかな?」

「パパ、かえってくる?」


 下をむいたままボソッと言った。


「パパも夏休みあるから、その時は帰るよ」

「いっぱい?」

「どうだろうなあ。ママの夏休みと同じぐらいかな」


 正確には修ちゃんがとれる夏休みのほうが長い。ただ修ちゃんの場合、緊急事態が起きたらそれが全部なくなるから、「絶対」がないんだよね。


「ほら、あまり足をふりまわすと、靴さんが線路に飛んでっちゃうよ?」

「つぎはー?」

「次? 次は秋の連休?」

「……」


 お友達のお父さんと違って、毎週末遊べるわけじゃないから寂しいのはわかる。物心つく前はわかってなかったみたいだけど、ここ最近は幼稚園のお友達との交流で、そういうことに気がついたみたい。親の事情とはいえ、そこは申し訳なく思う。


「たんしんふにん、いつおわるのー?」

「えー……?」


 どうしよう?と修ちゃんの顔を見た。ここでバカ正直に定年までなんて言ったら、きっと泣いちゃうよね?


「単身赴任がいつ終わるかはパパにもわからないけど、来年の四月からはもう少したくさん帰ってこれると思うよ」

「そうなの?」

「うん。今はお船に乗ってるけど、次は基地での仕事になるからね」

「たくさんてどれくらい?」


 その質問に修ちゃんは真面目な顔をして考え込んだ。


「そうだなあ。土日のほとんどじゃないかな? もちろんイベントで戻れない時もある。そういう時は、和人達がこっちに来れば良いだろ?」


 どこに転属になるかわからないけど、地上勤務になって毎週末に戻ってくるのは大変なことだ。だけど修ちゃんは嘘はつかない人だから、きっと本当に帰ってくるつもりでいるんだと思う。


「だから、パパがお船に乗って帰れない時は、よしろく頼むよ? ばあばのことも、ママのことも、にゃんこ達のことも」

「わかったー」


 本人は完全に納得したわけではないけれど、大好きなパパに頼むって言われたら断れない。だからお口をとがらせながうなづいた。


「あ、電車きたよー」

「またきていいー?」

「もちろん。だけど毎週末は考えものだと思うな。ママが疲れちゃうだろ?」


 おちびさんと修ちゃんが私の顔を見る。


「体力のないママでごめん」

「しかたないよな、和人?」

「だきょーしますー」

「幼稚園児に妥協されてるよ、まこっちゃん。どうすんの」

「どうすんのって。だってしかたないじゃん、本当に疲れちゃうんだから」


 この際だから、幼稚園児にも妥協してもらう。


「ママが熱だして寝こんだから困るだろ? そりゃ、ばあばが隣にいるけどさ」

「うん」

「だから、ほどほどに遊びにおいで。ママが疲れない程度にね」

「わかった」


 車内清掃が終わったので、お客さん達が乗り始める。私達が乗る車両は指定席のせいか、かなり空いていた。座席に落ち着くと、窓越しにホームに立っている修ちゃんに手をふる。車内アナウンスが流れ、電車のドアが閉まる音が聞こえた。おちびさんが窓にはりついて、修ちゃんの顔を見ている。


「ばいばーい」


 口の形で何を言っているかわかったらしく、修ちゃんからもバイバイの返事が返ってきた。そしてゆっくりと電車が動き出す。


「パパ、ばいばーい!」


 ホームで手をふる修ちゃんが見えなくなるまで、おちびさんは窓にはりついたままだった。


「……」


 パパの姿が見えなくなるのを見届けて、おちびさんは座席に座りなおす。スンスンと鼻を鳴らしはじめたので、ハンカチを渡した。


「寂しいのはパパも同じだと思うよ?」

「ママは? ママもさびしい?」

「そりゃ寂しいに決まってるじゃん?」

「だきょーしてるー?」

「してるしてる。もう妥協しまくり」


 おちびさんはハンカチをにぎりしめたまま、私の膝に頭を乗せる。


「そのままお昼寝しちゃう?」

「うん」

「寝たらすぐにお家の駅だからねー」


 靴を脱がせると、おちびさんに膝枕をしたまま、私も目を閉じた。


+++


「ちょっと! シイタケ、マイタケ、なんでそんなに私達をかぎまくるの! ピエールさんとマリアンヌさんも!」


 自宅に戻り、母親に帰宅の報告をしにいったら、いきなり猫達に囲まれた。四匹はなぜか私とおちびさんを取り囲み、鼻をフンフンとさせている。


「もしかしてチクワとカマボコのにおいでもしてる?!」


 二人でお互いの服のにおいをかいでみるけど、私達にはまったくわからない。


「よその猫ちゃんと遊んだんじゃないの?」


 母親はその様子を見て笑うばかりだ。


「あっちにいる間、野良ちゃんにも遭遇してないのに? 見かけたのはカモメぐらいだよね?」

「トンビもいたー」


 まったく、一体なにが気になるのやら。まさか、私達のことを忘れちゃったんじゃないよね?!

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