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猫と幼なじみ  作者: 鏡野ゆう
帝国海軍の猫大佐 裏話

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53/55

一般公開に行くよ! in 帝国海軍の猫大佐 16

帝国海軍の猫大佐の裏話的エピソードです



+++++



和人(かずと)、パパ歩きにくいんだけどな」


 車からおりたとたん、おちびさんが(しゅう)ちゃんの足にへばりついた。そのかっこうは、木にしがみついているコアラさんだ。


「かず君、パパが歩けないって言ってるよ?」

「……」


 そう言っても、不機嫌そうな顔をしてしがみついたまま。さすがにそのまま歩くわけにもいかないので、修ちゃんはしかたなくおちびさんを抱っこした。


「しようがないなあ……どうした? 今日は朝からご機嫌ななめだなあ、んん?」

「……」


 顔をのぞき込もうとすると、修ちゃんの肩に顔を押しつけて顔をかくしてしまう。今日は朝からずっとこんな調子だ。ううん、昨日の夜、寝る時からかも。


「あー……帰るのがイヤなんだね、かず君」


 頭が少しだけタテに動いた。


「しかたないだろ、和人。幼稚園もあるし、ママだって仕事あるんだぞ?」

「やすむ」

「幼稚園をか? お友達に会えないぞ? 仲良しのヨシ君やケンちゃんと遊べなくてもいいのか?」

「……やだ」


 答えるのに間があった。きっと、おちびさんなりに葛藤(かっとう)があったにちがいない。


「だろ?」

「でもパパいないのもヤダ」

「そればっかりはなあ」


 修ちゃんは困った顔をしながら笑った。


 これでも修ちゃんが勤務している場所は、我が家から一番近い場所なのだ。それ以上に近い場所となると、もう市内の地方協力本部勤務しかない。そして今の修ちゃんは、そこを希望したとしても絶対に却下される状態にいた。ま、本人は、上官に気に入られるのも善し悪しだねと笑っているけど。


「こんなんじゃ、横須賀(よこすか)やもっと遠い場所への転勤になったら大変だな」

「はんしんきちがいい」

「よく知ってるな、和人」


 意外な場所が出て感心している。


「前に護衛艦がきたニュースを見たんだよ」

「なるほど。みむろもそのうち、あそこに寄港すると思うぞ?」

「そうなの?」

「まだ一度も立ち寄ってないんだよ、あそこ」

「へー。とっくに立ち寄ってると思ってた。じゃあ、その時はまた見に行くよ」


 ニコニコしながら言ったら、微妙な顔をされた。


「え、来るのか?」

「行くよ」

「マジで?」

「マジですよ」

「えー……」

「えーって、なんなん。かず君、阪神基地でみむろが一般公開したら絶対に行くよね?」


 しがみついたままのおちびさんに声をかける。


「いく」

「ほらー」

「だからさあ、二人が来ると気恥ずかしいんだって」

「修ちゃんの気恥ずかしさより、パパに会いたい和人の気持ちが優先でしょ?」

「そりゃまあそうだけどさあ」


 ぶちぶちともんくをいう修ちゃんにかまわず、お店に入った。そこは地元の人達に人気がある海産物屋さん。修ちゃんや山部(やまべ)さんの奥さんのおすすめは、新鮮な魚で作られたチクワとカマボコ。もちろん他にもおいしいものがたくさんあるけど。


「いらっしゃーい」

「クール便で送っていただきたいんですが、大丈夫ですか?」

「はい、できますよ。何をお送りしましょうか? 三千円以上なら送料無料ですよ」

「えーと、だったらあ……」


 店員さんに送ってもらう商品を伝えていると、奥でチクワを袋詰めをしていた年配の女性が、ニコニコしながら出てきた。


「あらあら、どうしたの? ご機嫌ななめねー? うちのカマボコ、おいしいよ? 試食してみる?」


 ツマヨウジに刺したカマボコを、奥さんがおちびさんに差し出した。


「ほら、かず君。カマボコだって」


 顔をそろっとあげると、目の前に差し出されたツマヨウジを手にとる。そしてカマボコを口に入れた。


「どう? おいしい?」

「……ぷりぷりでおいしい」

「よくわかるねー、そうなのよ、うちのカマボコ、ぷりぷりでおいしいの!」


 奥さんの笑顔につられて、おちびさんもニッコリと笑った。


「じゃあ、カマボコ、送るのとは別に買って帰えろうか。ばあばにも食べさせてあげたいし」

「シイタケたちにも」

「うんうん、そうだね、シイタケ達にも」


 私達の会話に奥さんが首をかしげる。


「しいたけって、あのしいたけ?」

「あ、シイタケってのは、うちの猫の名前なんですよ」

「マイタケもいるよ」

「ああ、猫ちゃんの名前なの? シイタケちゃんとマイタケちゃん。いいわね、なかなか面白いわ。うちも今度そういう名前をつけようかしら。うちはね、ダイフクとキンツバなの。猫っぽくないって言われるんだけど、シイタケちゃんとマイタケちゃんには負けるわね!」


 奥さんは笑いながら、ショーケースの向こう側に戻り、またチクワの袋詰め作業を再開する。


「こちらに住所とお電話番号をお願いします」

「はーい」


 送り状に書き込んでお支払いをした。明日の夜便で届くそうだ。


「修ちゃんは買わなくてもいいの?」

「うん。食いたくなったらここに来るから」

「いいよねー、ご近所においしいチクワとカマボコのお店があるって」


 持って帰る分のカマボコとチクワを手提げ袋に入れてもらう。


「家で食べるの楽しみだなー」

「おいしいよ」


 試食ずみのおちびさんが言った。ますます楽しみだ。そんなことを考えながら、奥さんにお礼を言って店を出た。


「……修ちゃん」

「うん」

「ダイフクとキンツバだって」


 最近の猫ちゃんの名前はなかなか面白い。

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