一般公開に行くよ! in 帝国海軍の猫大佐 12
帝国海軍の猫大佐の裏話的エピソードです
+++++
「良いながめだねー、かず君」
「たかーい!」
護衛艦の艦橋は、私達が見学できる場所で一番高い場所だ。実際はさらに上に行けるらしいけど、そこは一般の人達にはとても上がれない場所だった。ちなみに外から「あの場所」と言われて見たことはあるけど、どう考えても私には行けそうにない。
「和人君、せっかくだから艦長席に座ったら?」
そう言ってくれたのは航海長の山部さん。
「で、そこの帽子かぶって、ちょっと偉そうにしてなよ。そこに座って帽子をかぶっている限り、パパより偉い人だぞ?」
「一番?」
「うん。一番偉い人」
「僕、すわるー!」
喜んでイスに座ると、前に置いてあった帽子をかぶる。するとその場にいた修ちゃん以外の人達が、ピッと姿勢を正した。
「では、臨時艦長殿に敬礼!!」
山部さんの号令で敬礼をする。
「さすがに笛を吹いたら大騒ぎになっちゃうから、笛なしね」
「けいれーい!」
「うぃーす!!」
今日は接岸していて任務中ではないせいか、皆さん、のんびりした雰囲気だ。
「じゃあ写真を撮っておこうか。うちの副長、写真を撮られるのが嫌いだから普段は逃げ回ってるけど、さすがに息子さんと奥さんとなら、逃げませんよねえ?」
「普段だって逃げてないだろ」
「いやー、けっこう上手にかわしてるなって、いつも感心しながら見てるんですけどねー」
笑いながら山部さんは、私が持ってきたカメラをかまえる。
「はいはい、にっこりしてくださいよ。広報スマイルじゃなくて、自然なスマイルをお願いします。ちょっと副長、口元がひきつってますよ!」
山部さんの容赦ないダメ出しの後、何枚か写真を撮ってもらった。ようやくOKが出ると、修ちゃんは「ハーッ」と大きなため息をつく。
「私達と写真を撮るのイヤなの?」
「いや、そういうわけじゃないけどさ」
「なんでも、自分のプライベートをさらすのがイヤなんだそうですよ、うちの副長。幹部の威厳がどうとかこうとかで。そんなこと言ったら、俺の威厳はどうなるんですかね。家族でこっちに来てるのに」
山部さんのところは、私達のような単身赴任ではなく、奥さんとお子さんが一緒についてきてくれている。それを聞いて、二年で異動なのにすごいなーって感心していた。お子さんは和人と同い年。幼稚園の間はまだしも、小学校、中学校と学年が上がっていったらどうするつもりなんだろう。受験とかもあるし、そのあたりのタイミングで山部さんも単身赴任組の仲間入りなのかな。
「そうだよー? 山部さんの奥さんには、出港式とか諸々でいつもお世話になってるんだから、あまりワガママ言ったらダメだよー?」
とたんにヒューヒューとからかう声があっちこっちであがった。
「ほらー、副長の威厳がどっか行っちゃっただろー?」
「え、もしかして私のせい?! 私のせいなの?!」
「奥さんは悪くないですよ。隠したがる副長がいかんのです」
山部さんの断言に、その場にいた全員がうなづく。
「幸せ家族の空気をどんどん垂れ流してくださいよ。そうすれば、独り者の若いモンにも結婚願望が沸き上がりますから」
「それで良いんですか?」
「良いんですよー。フワフワしている隊員も、家庭を持つと落ち着くヤツが多いんです。そこが狙いでして」
「だったら山部が垂れ流せば良いだろ? 俺をアテにするな」
修ちゃんはムッとした顔をしながら言った。
「いやいや。惚気させたら、副長の右に出る者はいないという話ですからね。ここでも心置きなく、垂れ流しちゃってください」
「惚気って?」
「なんでもない。そっちには関係ない話だよ」
修ちゃんの返事は素っ気ない。どうやら話してくれる気はないらしい。
「誰だよ、山部に話したのは」
そしてブツブツともんくを言っている。
「艦橋の見学に連れてきてくれたのはそっちじゃん。ねえ、かず君」
「にゃんこー!!」
双眼鏡をのぞいていたおちびさんが声をあげた。
「え、猫ちゃんがいるの? それで見える場所なの?」
「あそこー」
岸壁のあたりかな?と探したけど、さすがにここからでは見えない。というか、おちびさんの指、甲板をさしてるんだけど。
「かず君、どこさしてるの? そこ、お船の上だよ?」
「猫いるよー」
「嘘やん、護衛艦に猫ちゃんいたら大変だよ?」
指の先をたどっていくと、大砲の上っぽい。目を凝らしてもそんなモノは乗っていない。見えないのは私の視力の悪さのせいではなさそうだ。
「さばちゃん」
「サバトラなの?」
「しっぽながーい!」
「ごめん、ママ、わかんないわー」
なにか猫と間違えるようなものでもあるのかな? まさかロープ? でもあれ白いよね?
「もしかしたら、子供にしか見えない猫の神様でもいるのかもしれませんね。船にとって猫は、ゲンが良い生き物って言いますから」
山部さんが窓のそばにきて、下を見下ろす。
「猫の神様ですか」
私の横に修ちゃんが来て、同じように下を見下ろす。
「修ちゃん、見える?」
「やっぱり子供にしか見えない猫なんじゃないか? 見えないものが見えるって、小さい頃にはよくあるって言うし」
「そっかー。でも残念だなー、私も見たいのに、猫ちゃん」
そんなことを呟いて下を見ていると、なんとなく足元でふわふわした気配がしたような気がした。




