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猫と幼なじみ  作者: 鏡野ゆう
帝国海軍の猫大佐 裏話

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47/55

一般公開に行くよ! in 帝国海軍の猫大佐 10

帝国海軍の猫大佐の裏話的エピソードです



+++++



「いい汗かいてるなー」

「そういう問題?」


 私達がトレーニングルームに入ってきても、お兄さんの腕立て伏せの勢いは止まらない。横で見物している隊員さん達は、姿勢を正して(しゅう)ちゃんに敬礼をした。


「すごいな、伊勢(いせ)立検隊(たちけんたい)、ずいぶん体力がついてきたんじゃないか?」

「まだまだですよ。最終目的は、俺を乗せての腕立て伏せ十回ですからね」


 その言葉に、修ちゃんはあきれた顔をする。


「無理するなよ? 体を壊したら元も子もないからな」

「わかっています。あ、奥さん、乗ってみますか?」

「いえいえ! 遠慮します!」


 私が首を横にふると、伊勢さんは残念そうな顔をした。


「おいおい、なんでうちの嫁」

「今のみむろは男ばかりですからね。なかなか軽い人間が見つからなくて。副長の息子さんの次にとなると、奥さんぐらいしかいないでしょ」


 真面目な顔をして言っているところを見ると、伊勢さんは本気で言っているらしい。


「だからってうちの嫁を重石(おもし)にするな。それにめったにこっちに来ないから、アテにはできないぞ」

「たとえこっちに住んでいても、トレーニングの付き合うのはかんべんかなー」


 私がボソッと横でつぶやくと、修ちゃんと伊勢さんは笑った。二人とも笑ってるけど、私は本気で言ってるんだからね? イヤだよ、休みのたびに呼び出されてお兄さん達の上に座るなんて。他になにか、かわりになるモノはないの? 漬物石とか。


「そうですか、それは残念。がんばって他を当たってみます」

「どうしても人型(ひとがた)重石(おもし)がいるってんなら、溺者(できしゃ)人形を改造しろよ。あれなら重さを自由に調節できるし、怪我人が出る心配もないだろ」


 溺者(できしゃ)人形とは、海に隊員さんが落ちたことを想定して訓練する時の、隊員役をする人形のことだ。この隊員役をすることが、護衛艦では一番の激務と言われている。それもあってか乗員さん達は、その人形に名前をつけてとても可愛がっていた。


「うちのみむろ君を改造したら、激怒しませんかね、清原(きよはら)先任。あれをえらく可愛がっているんですが」

「お前の交渉力しだいじゃないか?」

「なるほど。では一度、清原先任と交渉してみます」


 伊勢さんは真面目な顔でうなづいた。その様子に、修ちゃんはやれやれと首を横にふる。


「さて、そろそろ、うちの息子を重石(おもし)役から解放してもらっても良いかな? 艦内を見学させたいから」

「了解しました。腕立て伏せやめ!」


 その掛け声に、腕立て伏せをしていたお兄さんがマットの上でのびた。


「はー……小さい子でも、さすがにきつすっいスねー! 副長、お疲れさまです!」


 かず君を背中からおろし、腕立て伏せをしていた隊員さんが立ち上がる。


「お疲れさん。それと息子の相手をありがとう。助かったよ」

「いえいえ。こちらも助かりました。それに息子さん、将来の立検隊候補かもしれませんからね」


 伊勢さん達がおちびさんを見下ろしてニカッと笑った。おちびさんも同じようにニカッと笑って敬礼をする。


「うちの息子をリクルートするな。油断もスキもないな」

「息子さんの負けん気とチャレンジ精神は、立検隊に向いていると思いますが。ま、もっと上を目指しても驚きませんがね。特警(とっけい)とか」

「うちのはまだ幼稚園児だぞ。まだお前達と戦隊モノのヒーローの違いは、わかってないと思うぞ?」

「戦隊モノのヒーローですか」


 おちびさんからしたら、伊勢さん達はかっこいいヒーローだ。任務の大変さを理解するのは、まだまだ先のことだと思う。


「では息子さんのヒーローであり続けるために、日々精進(ひびしょうじん)いたします!」


 本気なのか冗談なのか、その場にいた立検隊(たちけんたい)の皆さんが、修ちゃんとおちびさんに向けて敬礼をした。


「二人とも行こうか。ここでグズクズしていたら、そのうち俺まで重石(おもし)あつかいだ」


 修ちゃんは笑いながら、私とかず君を部屋から押し出した。


「ああ、伊勢、今日の礼はあらためてするから」

「お心遣いありがとうございます。楽しみにしています」


 部屋からそんな返事が返ってくる。


「お礼って?」


 廊下を歩きながら質問をする。


「貴重な訓練の時間に、和人(かずと)の相手をしてもらってたんだ。それなりの礼は必要だろ?」

「飲み会でおごるみたいな?」

「そんな感じ。もちろん今日じゃないよ。二人が帰ってからの話さ」


 律儀だよね。そういうところが修ちゃんの良いとこなんだけど。


「パパ、リンゴジュースのんだー!」

「それは良かった。おいしかった?」

「うん!」

「もしかして伊勢さんに渡したやつ?」


 伊勢さんにおちびさんを頼んだ時、修ちゃんがジュースを渡したことを思い出す。


「うん。自販機、子供が飲めるようなの売ってないからさ」

「いろいろありがとう」

「どういたしまして。さて、和人(かずと)、どこをみたい? まだ時間はあるから中の見学できるぞ?」

「パパの部屋!」


 その返事に困惑をする修ちゃん。


「もっと面白いところあるだろ。なんでそこ」

「パパの部屋!!」

「私も見たいなー、修ちゃんの部屋」

「まこっちゃんもか」

「別に散らかってるわけじゃないでしょ? それに個室なんだよね?」


 二人部屋なら、同室の相手の許可がないとダメって断れるだろうけど、いまは個室だって聞いている。断る口実ないよね?

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