表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
猫と幼なじみ  作者: 鏡野ゆう
帝国海軍の猫大佐 裏話

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

45/55

一般公開に行くよ! in 帝国海軍の猫大佐 8

帝国海軍の猫大佐の裏話的エピソードです



+++++



「こんにちはー」

「こんにちわっ」


 ゲートを入ると、いつものように受付があった。声をかけられたおちびさんは、元気にあいさつをする。時計を見れば約束した時間の十分前。なかなかいい感じで現地到着だ。


「かず君、ちょっと止まって、これを首からかけて」


 受付で渡されたネックストラップを渡す。


「あ、パパいるー!!」

「ちょっと、それより先に首に……」


 私の言葉は丸っと無視された。(しゅう)ちゃんの姿を見つけたおちびさんは、入場者証を振り回しながら、全力でみむろめがけて走っていく。


「もー、またなのー?! いいかげんにして――!!」


 岸壁から落ちでもしたら大変なので、慌てて追いかける。なんで幼稚園児なのにこんなに足が早いの?! 甲板に出ていた修ちゃんが気づいて、桟橋(さんばし)をこっちに渡ってくる。助かった! 少なくともかず君が桟橋に突撃することはなくなった。


「本当に元気すぎて困る……」

「お疲れ、まこっちゃん」

「あいさつ代わりの社交辞令とかじゃなくて、本当に疲れてるんですけどね、私」

「だろうねえ」


 おちびさんにまとわりつかれながら、修ちゃんは笑った。


「幼稚園児の瞬発力なめてた。パパ好き好きモードが落ち着くまでは、ロープでつないでおきたい……」

「うちの余っているロープはあったかな?」


 冗談なのか本気なのか。でも護衛艦に置いてあるロープって、頑丈そうだよね。


「修ちゃん、降りてきちゃって良かったの? 見学している人に、写真撮らせてくれって言われるよ?」

「小さい子供と一緒なら、逆にその心配がないんだよ」

「あ、そうなんだ」


 考えたら肖像権がなんたらとか、小さい子供の顔をそのまま出すのはどうのとか、最近のSNS事情は色々と難しい。よそのお子さんの写真を勝手に撮るのもよろしくないし、ましてやそれを流すことなんてもってのほか。だから、その「よそのお子さん」がくっついている限り、修ちゃんはいきなり写真を撮られる心配はないということだ。


「今、見学してる人、乗ってるの?」

「ちょうどお昼時間で、午後からの見学はあと五分で開始ってところだな」

「他の御招待客は?」

「皆さん、そろそろじゃないか? 多分あの集団じゃ?」


「あ、藤原(ふじわら)さーん」


 振り返ると、見知った顔の奥様がニコニコ顔で手を振ってきた。この艦の先任伍長をしている、清原(きよはら)海曹長さんの奥様だ。


「清原さーん、おひさしぶりですー」

「もー、なかなかこっちに来てくれないから、寂しいじゃないの! 艦長のお茶会でやっと来てくれたのね!」

「すみません。仕事と子供の幼稚園の都合が、なかなか合わなくてー」


 これは嘘じゃない。休みの時は平日にため込んだ家事を片づけたいし、自分達が疲れない日程を組むのは難しい。無理に顔を出さなくても大丈夫だよって言ってくれる、修ちゃんや他の幹部の奥様の達の言葉に甘えっぱなしだ。


「清原さん、今日のお茶会の参加メンバーは、どういった皆様ですか?」

「曹候補で入隊して、今年からみむろで教育訓練を始めた、海士長君達の親御さん達。こちらは比良(ひら)さん。副長の下にいる海士長君のお母さんよ」

「はじめまして。藤原の家内です」

「こちらこそはじめまして。いつも息子がお世話になっています」

「いえいえ、こちらこそー」


 紹介されたお母さんに頭をさげた。それから順番に紹介されたので、それぞれの親御さんとごあいさつをしていく。都合がつかず、今日は欠席されたご家族のかたも何人かいらっしゃるらしい。


「副長ー」

「なんだ?」


 甲板からお声がかかった。


「艦長が、少し早いけど皆さんをご案内しろって」

「わかった。……和人(かずと)、ママと手をつないで」


 いつもはニコニコしているパパがお仕事モードになったのを感じたのか、おちびさんはおとなしく私と手をつないだ。


「では皆さん、ご案内します。艦内の通路は非常にせまく、階段も急です。上り下りをする時は手すりをもって、十分に気をつけてください。十分に」


 最後、私の顔を見た。おちびさんをつれている私は、特に気をつけるようにと言いたいらしい。わかってますよ。十分に気をつけます。修ちゃんを先頭に、清原さん、ご家族の皆さんが乗艦する。私とおちびさんは、一番最後に桟橋(さんばし)を渡った。


「にゃんこ!」

「え?」


 おちびさんの声に、全員が廊下の先を見た。


「かず君、さすがに艦内ににゃんこさんはいないと思うよ? 桟橋のあたりには野良ちゃんいそうだけど」

「しっぽみえたよ?」

「そうなの?」

「うん」


 とは言え、言った本人も自信がなさそう。もしかしたら、お掃除で使うモップを運ぶ隊員さんがいて、その人の姿をチラ見したのかもしれない。


「副長」


 途中で伊勢(いせ)さんが合流した。


「和人、伊勢さんとトレーニングルームに行ってくるか? 立検隊(たちけんたい)がトレーニングするって話だったぞ?」

「いくー!」

「じゃあ伊勢、頼む。ああ、これも頼む」


 修ちゃんはズボンのポケットから何か出して、伊勢さんにサッと渡した。目の錯覚でなかったら、紙パックのリンゴジュースだったような気がする。


「じゃあ和人君、行こうか。奥さん、またのちほど」

「お願いします」


 おちびさんはご機嫌な様子で、伊勢さんと手をつないで行ってしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ