一般公開に行くよ! in 帝国海軍の猫大佐 5
帝国海軍の猫大佐の裏話的エピソードです
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「あー、ちょっと待って! こらー! ママを置いていくなー!」
駅に到着してホームに出るが早いか、おちびさんは私に荷物をぜんぶ押しつけて、階段をかけおりていく。
「ちょっとー! 切符ないと駅員さんに怒られるでしょー!!」
どんだけ早いの!と文句を言いながら、急いで階段をおりる。おりきったところで見えたのは、駅員さんの足の下をくぐって改札口を飛び出していく背中だった。そして改札口の前に立っていた修ちゃんは、注意する間もなく飛びつかれ、ひっくり返りそうになっている。
「やーめーてー!! すーみーまーせーん!!」
切符を持って改札口に走っていく。私がひーひー言いながら走ってきたせいか、駅員さんはものすごく気の毒そうな顔をして切符を受け取ってくれた。
「もー、すみませーん!! かず君! 改札口を出る時は、切符を駅員さんに渡してからじゃなきゃダメって、ママ言ったよね?!」
「……!!」
私の言葉を聞いて、やっと思い出したようだ。そして駅員さんを見上げる。
「切符はお母さんからもらいました。次からは気をつけてね」
「はい!!」
そして敬礼をする。駅員さんも敬礼を返してくれた。でもごめんなさい、この子の敬礼は駅員さんの敬礼ではなく、海上自衛隊の敬礼なんです、駅員さんは気づいてないだろうけど。
「それとかず君、これ! あなたのリュックさんですよ! 置いていったらダメでしょ!」
「お疲れ、まこっちゃん」
「もー、電車を降りてからここに来るまでで、エネルギー使い果たした。今日はもう寝たい」
「お寿司はー?!」
そんな私のことなんておかまいなしに、おちびさんはお寿司お寿司と連呼する。恐るべし幼稚園児の体力。そんな彼らの、しかも集団をみてくれる幼稚園の先生達を、私は心の底から尊敬する。
「お寿司って?」
「回るお寿司に行きたいんだって」
「そうか。でも、夕飯にはまだ早いぞ?」
修ちゃんは腕時計を見ながら言った。
「先にお買い物して、一度家に帰ってから出かけたら?って話なんだけど」
「ああ、なるほどね。でもまこっちゃん、大丈夫かよ。今にも倒れそうになってるやん」
「お買い物ぐらいなら平気。……多分」
やっと呼吸も落ち着いてきた。この分なら、お買い物する間ぐらいは元気でいられそうだ。
「アイスたべたい!」
「……て言ってるけど?」
「お寿司の前にアイス?」
「51のアイスー!」
「ああ、そう言えばここ、あったね、51。私もアイス食べたい」
無性に甘いものが食べたい。今日はレモンシャーベットの気分。
「じゃあ荷物を車に置いて、アイス食って、買い物して、それから家に行くか」
「賛成」
「さんせーい!」
そういうわけで、私達はまずは車が停めてある場所へと向かった。
「明日は晴れそうだね」
「いつもよりちょっと早めに出るから。二人は寝ててくれたら良いからな」
「起きそうだよー……ってか、今夜は興奮してなかなか寝ないかも」
「まこっちゃんが? それとも俺が? 子供がいるのに、はしたないぞ?」
ニヤッと笑う。
「なにを言ってるんですか、お父さん。寝ないのは貴方の息子さんですよ、そっちではなく人間の!」
ひそひそとささやきながら、おちびさんの頭をさした。
「なーんだ、そっちの息子さんか」
「薄情だなあ。和人、パパに会えるって大喜びしてたのに」
「もちろん俺も大喜びだよ。久しぶりに二人の顔が見れてうれしい」
それは本当なんだと思う。でも、職場に来られるのはイヤなんだよね? そこは昔も今も変わっていない。
「仕事してるところを見られるの、イヤがるくせに」
「それとこれとは別の話さ」
「仕事をしてるところを見てもらうの、うれしくないの? 企業のファミリーデーでは、そういう意見が多いけど」
少なくとも、私の職場のパパさん達は、子供さん達が職場見学にくるのを喜んでいるけどな。
「ほら、普段は部下に厳しい指示を出してるだろ? だからさ、家族を前にデレると色々とアレなんだよ」
「アレとはなんですか、アレとは」
「上官の権威の危機というか」
「でも、山部さんの奥さん、修ちゃんはすごく部下に優しい幹部だって言ってたよ?」
たまに甘すぎるとまで言われてるんだけど、そのへんはどうなんだろう。私達が思い浮かべる「優しい」と、修ちゃん達がいう「優しい」は違うんだろうか?
「子供に優しいお父さんが、職場でも甘いとは限らないし、別にイメージどうこうは気にしなくても良いんじゃないかなあ」
「それでも気恥ずかしいよ。特に制服が萌え萌えとか言って、頻繁に写真を撮りたがる奥さんがいると」
ん? ちょっと待って。それってどういうこと?
「え、もしかして私のせいなの? ねえ、私のせい?!」
「さあ、どうでしょう」
「カメラを持ってきたのに、撮るなってこと?!」
「そこまでは言わないけどね」
「あと、私、萌え萌えなんて言ってないと思うけど?!」
「それは本人が気づいていないだけという話もあるよねー……」
修ちゃんはポケットからキーを出して、前に差し出した。とめてあった車がピヨピヨと返事をする。
「荷物、後ろのシートに放り込んでおけばいいよ」
荷物を車に乗せると、私達は三人で手をつないで、ショッピングモールに向かった。




