一般公開に行くよ! in 帝国海軍の猫大佐 3
帝国海軍の猫大佐の裏話的エピソードです
+++++
「お母さん、この日、修ちゃんちにお泊り行ってくる」
親世帯側にいくと、お母さんに声をかけた。
「どの日?」
「この日ー。仕事あると思うけど、シイタケとマイタケのこと、たのめる?」
お婆ちゃんが亡くなってから、お母さんは専業主婦を卒業した。とは言っても、結婚してお姉ちゃんが生まれるまでは、お父さんと同じ会社で働いていて、まったくの未経験者ではなかったんだけど。
「いいわよ。二匹も四匹も一緒だから」
私達からしたら、お婆ちゃんの介護生活が終わったんだし、気楽に猫ライフを楽しめば良いのにって話なんだけど、猫の食費ぐらいは自分でかせぐ!と一念発起。意外と今の職場が合っているようで、猫の食費をかせぐパートライフを楽しんでいる。もちろん、自分の食費ではなく、猫のなの?!と皆のツッコミが入ったのは言うまでもない。
「うちの子達も、シイタケちゃんとマイタケちゃんのこと好きだし、こっちにつれてきて面倒みようか? そのほうが、運動会の心配しなくていいでしょ?」
「それ助かるけど、こっちでの運動会が、とんでもないことにならない?」
「その保証はチクワとカマボコのおみやげね」
修ちゃんが今いるところは、おいしいカマボコがいっぱいある地域なのだ。
「それさあ、お母さんが食べるんじゃなくて、猫達のお腹に入っちゃうんじゃ?」
「そんなことないわよ。私も食べる」
私「も」ってことが実にあやしい。
「商談は成立。チクワとカマボコかってくる。なんかね、個人商店で、すごくおいしいカマボコのお店があるんだって。そこにつれてってもらう予定」
「修ちゃんだって仕事があるんだから、無理いったらダメよ?」
「わかってる。ああ、ピエールさん、お元気ー?」
足元にピエールがしずしずとやってきた。私の顔を見あげてニャーンと鳴くと、コロンと寝っ転がってお腹を見せる。君、わがはいを撫でたまえという合図だ。
「本当に穏やかな性格だよねー、ピエールさんて。ちょっと偉そうだけど」
「鷹揚な性格ってやつかしらね」
「うちの二匹も、年をとったらこんなふうに落ち着くかなー」
「無理ね」
「断言されてるし」
そこにマリアンヌもやってきた。ニャーンとなくと頭突きをしてくる。こちらも非常に上品な頭突きだ。
「マリアンヌさんも上品だよね。キーッてならないし」
「いたわねー、そんな子」
ちょっとの間うちにいた、野良のお婆ちゃん猫がそんな感じだった。ちょっとでも他の子が近づくとシャーッてなって、大変だったことを思い出す。
「あ、そうだ、真琴。おいしいお肉もらったのよ。今晩は一緒にすき焼きでもしちゃう?」
「え、すき焼き?! いいね、すき焼き!」
それを聞いて頭の中は、すき焼きの甘い味でいっぱいになった。
「あ、他はどうする? うち、すき焼きに入れられそうなの、ネギとタマネギとシラタキぐらいしかないかも」
冷蔵庫の中のものを思い浮かべながら首をかしげる。
「別にいいわよ、わざわざ持ち寄らなくても。たまには親世代にたかりなさいよ、せっかくの二世帯なんだから」
「十分にたからせてもらってると思うけどなー、私。あ、お米を提供しようか?」
「それであんたの気がすむなら、持ってきなさい」
お母さんは笑いながら手を振った。
「わかった。じゃあ、和人つれてくるね。あ、猫達も一緒にいい?」
「いいわよ。どうせついてくるだろうし」
自分世帯に戻ると、おちびさんに声をかける。
「バアバが一緒にご飯たべようって」
「わーい、バアバんとこ行くー!」
「あ、ちょっと待って。パジャマとパンツ、それからカリカリを持っていっくてれる?」
「わかったー!」
どうしてパジャマとパンツとカリカリかというと、うちの二匹は決まったカリカリしか食べないからだ。晩御飯を一緒に食べたら、おチビさんはあっちで寝ちゃうパターンで、そうなると必然的に二匹も一緒にいることになる。だから朝のカリカリを持っていくのだ。
「自分でパジャマとパンツ、用意できるー?」
「できるー!」
その間にカリカリとお米を用意した。その間、なぜかシイタケとマイタケが私の後ろについてきて、フンフンとにおいをかぎまくっている。自分達とは違う猫のにおいに気づいたらしい。
「ピエールさんとマリアンヌさんのにおいでしょー? あっちに行くんだよ、君達も」
「ママー、これに入れたらいいー?」
おチビさんが、パジャマとパンツ、そしてお気に入りの布製のエコバックを持ってきた。陸自さんの駐屯地でもらったもので、お買い物には使わず、おチビさんの「バアバんちお泊りセット」用に使わせてもらっている。いやほら、貴重な非売品なのかわかってるけど、外で使うのはちょっと恥ずかしいじゃん?
「じゃあ行くよー」
「いこー!」
おちびさんは猫達を引きつれて、親世帯へとつながる廊下を走っていった。
「すっかり三人兄弟だよね……」
尻尾をピンと立てて、おちびさんの後ろを走っていく猫達を見送りながら、ため息をつく。猫使いの血は、しっかりと受け継がれているみたい。




