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猫と幼なじみ  作者: 鏡野ゆう
小話

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37/55

カレーは飲み物か食べ物か

「カレーが食べたい……」


 修ちゃんを送り出して、洗濯機を回していたら、急にカレーが食べたくなった。目の前に護衛艦が停泊しているせいじゃないと思うけど、それなりに食べたくなった理由の一つには含まれているかも。


「ってことは、お買い物に行かなくちゃね」


 今日は平日。桟橋さんばしで見学もできないし、総監部の中にある博物館にも行けない。ってことは、私がいきなりお昼寝して爆睡しない限りは、ゆっくりご飯を作る時間はあるはず。


「あ、修ちゃんとこの艦、レシピ、公開してるのかな」


 洗濯機が回っている時間を利用して、パソコンで検索してみることにする。修ちゃんのパソコンだけど、一応は使っても良いことになっている。ただし、ユーザーアカウントは別に作られていて、修ちゃんのアカウントにはパスワードがかかっているから、のぞくことはできないけど。


「えーと、海自カレーで検索したら良いのかな」


 パソコンを立ち上げてから、修ちゃんが乗っている護衛艦の名前と、海自カレーで検索をしてみた。


「お、出た。ってか、公式サイト!!」


 海自カレーのファンサイトだと思ったら、なんと海上自衛隊のホームページ内。しかもしかも、スイーツのレシピまである!


「あああ、おいしそうなケーキ……は! そうじゃなくて、カレーのレシピを見なきゃだよ!」


 横道にそれそうになったので、慌ててカレーのアイコンをクリックする。


「なるほどなるほど。これなら私にも作れそう。あ、でもニンニクは苦手だからパスしたい」


 材料をメモしながら、そこに含まれているニンニクの文字にうなってしまった。きっとふねの料理長さん的には欠かせない材料なんだろうけど、私的にははずしたい材料だ。


「ま、完全再現しなきゃいけないって決まりはないし、とりあえずニンニクはパスと」


 どんな味になるかわからないけど、あくまでもベースはこれにして、あとは自分流で作ってしまおうと決める。


「……ん? ってことは、レシピを見る必要なかったってこと?」


 ふと、自分で自分の行動にツッコミを入れた。


「ま、いいか。味の違いは修ちゃんに味見してもらえばわかるもんね」


 そう呟きながら、さっき見たスイーツのページに戻る。


「おいしそう……私に作れるかな、これ」


 正直なところ、スイーツ作りは今までやったことがなかった。なぜかって? 理由は簡単。お気に入りのケーキ屋さんで買ったほうが絶対においしいから。


「お義兄にいさんに頼んだら、作ってくれるかな、これ」


 あくまでも自分でつくる選択肢はない。


「レアチーズケーキ、今度たのんでみよう」


 洗濯が終了した音がしたので、パソコンの電源を落とすと、洗濯物を干す作業にとりかかった。



+++++



「ただい」

「修ちゃん、ごめん!!」


 ドアのカギが開く音がしたので、玄関に走った。そして修ちゃんが入ってきたと同時に謝る。


「ま。……どした? 鍋、焦がした?」

「そうじゃなくて! てか、お鍋を焦がしたなんて、どうして考えたかな」

「え? いや、ほら、カレーのにおいがしてるからさ。まこっちゃんのことだし、変に対抗心燃やしてルーから作ろうって思い立って、物の見事に失敗したという流れを想定してみた」

「ごめん言ってから一秒も経ってないじゃん」

「え、俺の頭、スパコンなみだから」


 冗談か本気かわからないことを言いながら、修ちゃんは靴を脱く。


「で? 焦がしたであたってるわけ?」

「あー、良いとこは突いてるよ、修ちゃん」


 少なくともカレーに関することなのは当たり。


「え? 本当になにか焦がした?」

「んなわけないじゃん! そこじゃなくてカレーだよ、カレー!」

「うん。いい匂いだね。まこっちゃんのカレー、久し振りに食べるよ」


 にこにこしながら、台所の前で鼻をヒクヒクされている。そんなところはヒノキ達とそっくり。


「そうじゃないんだって」

「だったらどういうことさ」

「だからさ、今日、木曜日なんだよ!」

「木曜日だね」

「今日が木曜日ってことは、明日は金曜日でしょ?!」

「まあ、いきなり土曜日になることはないかな」


 普段ならこのへんで察してくれるのに、呑気に笑っている修ちゃんに、若干、イラッとなった。


「だからだから! 明日のお昼、修ちゃんとこ、カレーじゃん!!」

「ああ、そうだった。でも俺、カレーは好きだから一週間ぐらい続いても平気だし問題ないよ」

「……」

「なに。安心したろ?」


 部屋に入ると制服を脱ぎ始める。


「なんか心配で大騒ぎした自分がバカバカしくなってきた……」

「職場のカレーと、家のカレーは別物だから」

「でも、ベースは修ちゃんとこの護衛艦のレシピなんだよ」

「調べた?」

「うん、調べた。でもニンニク抜きにした」

「だろうね」


 私の好き嫌いを知っているせいか、修ちゃんは特に驚いた顔はしていない。


「とにかく、久し振りのまこっちゃんカレーだから、楽しみだよ、俺」

「そう?」

「うん」

「なら、あたためてくるね」

「お願いします」



+++++



「ねえ、それ、なにしてるの?」


 次の日の朝、出かける準備をしていた修ちゃんが、台所でなにやら怪しげな動きをしていた。その手にはオタマ。そしてカレーをタッパに入れている。もうイヤな予感しかしない。


「ん? まこっちゃんのカレー、持っていこうと思って」

「ちょっとー、やめてよー。普通にあっちでカレー食べなよー。なんで持っていくのー」


 食事が出るのに、なんで家からカレーを持っていこうなんて考えるのか理解できない。っていうか、それって許されることなの?


「なんで? たくさん残ってるんだから、少しぐらい持っていっても問題ないだろ?」

「そもそも持っていく必要ないじゃん?」

「え、うまかったし、昼にも食べたい」


 そりゃ、おいしいって言ってくれるのはうれしい。だけど、持っていく場所が問題。うん、かなり問題!!


「だーかーらー、そっち、カレーマイスターの集団がいるじゃん」

「マイスターってなんだよ」


 修ちゃんが笑う。


「そんな場所に、なんで持っていこうとするかなあ……」

「そりゃ、俺の嫁のカレーは日本一うまいって言うために決まってるじゃん」

「やーめーてー!! まさか、それ、料理長さんに食べさせるつもりじゃないよね?!」

「ん? 味見ぐらいしたいって言ってくると思うけどな。もちろん俺は拒否らない」

「ぎゃあああ、ちょっと、我が家のカレー、持ち出し禁止!!」


 タッパをとりあげようとしたけど、修ちゃんは素早く逃げた。


「やだね。今日の昼は、まこっちゃんのカレーって決めたんだから。なにがなんでも持っていく」

「うそやーん!!」

「艦長も食べたいって言うかもな。正式に認定されたら知らせるよ」

「やーめーろー! ってか、レシピ通りには作ってないんだから、認定されるわけないじゃん!」

「海自嫁カレーとか、新しいジャンルができるかもね」


 もう笑えない。


「あのさ、ぎゃーぎゃー騒いでるけど、奥さんが作ったカレーでもんくを言ってるヤツなんて、少なくとも俺のまわりじゃ、一人もいないから」

「だからって料理長さんと艦長さんの口に入るとか、こわすぎ!」

「なにをいまら」

「なに? なんで、なにをいまさらなの。なにを食べさせたの、ちょっと修ちゃん?!」


 今、修ちゃんは聞き捨てならないことを言ったような気がする。


「もう時間だから。続きは帰ってからゆっくり聞いてあげるよ」

「帰ってからじゃ遅いやん!!」


 とは言え、ここで遅刻する事態になってもよろしくない。


「一人で食べてね! くれぐれも料理長さんと艦長さんへの献上は禁止!! てかそれ以外の人にも禁止!!」

「艦長命令は絶対なんだけどなあ……」

「禁止!! 絶対だからね!! 艦長命令より私の命令のほうが大事です!!」

「はいはい」


 もー……本当に笑えない。

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