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猫と幼なじみ  作者: 鏡野ゆう
幼なじみから旦那様に

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第二十二話 幼なじみから旦那様に 2

 自宅で晩ご飯を食べようとしていた時に、姉が顔を出した。


「あれ? お姉ちゃん、いきなりどうしたの?」

「お母さんにメールもらったの」

「お義兄(にい)さんのこと、ほっといて良いの?」

「こっちのほうが大事でしょ? それとね、みんなに、ちょっと言いたいこともがあって来たの。はいはい、ちゅうもーく! マツ、タケ、ウメ、ヒノキとヤナギ、お前達もちゅうもーく!」


 居間の真ん中に立つと、姉はニコニコしながら両手をたたいた。そしてご飯を食べかけていた母達と、カリカリを食べて満足げに顔を洗っている猫達を注目させる。


「真琴と修ちゃんの重大発表に便乗しちゃうけど、私からも重大発表がありまーす! 実は、赤ちゃんができましたーー! ただいま四か月でーーす! 気がつかなくてごめーーーん!! はい、はくしゅーーーー!!」


 その勢いにのまれ、私達は姉に言われるがまま拍手をした。マツ達はなにごともなかったような顔をして、そのまま毛づくろいを再開する。


「というわけでお母さん、なにがなんでもお父さんに初孫を抱かせてあげたいので、治療して少しでもよくなるように、お父さんと主治医の先生のお尻をたたき続けてください」

「わかりました。このことは、明日、お父さんに話すわね」

「お婆ちゃん、ひ孫だって!!」

「こりゃ大変だ。赤ん坊のものなんて、もう家に残ってないよ」


 祖母も、自分が曾祖母になると知ってうれしそうだ。ニコニコしながら、産着(うぶぎ)だのオムツだのと心配をし始める。


「お婆ちゃん、最近はなんでも売ってるから大丈夫だよ。それに用意するのはちょっと早い」

「そんなわけで、夏には新しい家族が増えるので、みんな、よろしくお願いしますね」


 姉の言葉に、全員で再び拍手をした。


「というわけで、私のほうはともかく。本題は、修ちゃんと真琴のほうよね。修ちゃん、いつあっちに行かなくちゃいけないんだっけ?」

「えーっと、この日からこの日の間」


 姉の質問に、修ちゃんはカレンダーの日にちを指でさした。それを見て姉が目をむく。


「ちょっと! もう一週間もないじゃない! こういうのってやっぱり初日に顔を出さなきゃ心証が悪いわよね?! ってことは……」


 カレンダーをにらんでいた姉は、母親のほうを見て首を横にふった。


「いくら私でも、こんな短期間で結婚式の準備をするのはムリ! お母さん、ごめん、食事会にしよう! それだったら、なんとかなるから!」

「だから言ったじゃない。入籍とお食事会だけにするって」

「まさかそんなに早く行っちゃうなんて、思わなかったんだもの!」

「……ごめん」


 修ちゃんが姉の言葉にシュンとなる。


「その日程を修ちゃんが決めたわけじゃないんでしょ? だったら謝る必要はないわよ、こっちはそれを踏まえて日程を組むだけだから」


 姉は食器棚からお茶碗を出すと、ご飯をよそい、お箸とお茶碗を持って母親の隣に座った。


「食事会は昼のほうが良いのよね?」

「お父さんの外出許可がちょっと難しくてね。それもあって昼間のほうが都合が良いの」

「なるほど」


 姉はお漬物をポリポリしながら、居間に放り出したバッグから手帳を取り出した。


「ちょっと、行儀が悪いわよ」

「だって、やれる日にちが限られてるんだもの。さっさと予約で個室をおさえないと。これでもうちのホテル、それなりに繁盛してるんだから。あ、明々後日(しあさって)の昼間なら、旦那のレストランの個室が開いてるけど」

「ちょっと早すぎない?」

「でも、その次だと修ちゃんが帰る前日しか空いてない」


 全員がその場でうなる。


「あのさ、別にそんな晴れ晴れしくする必要はないんだよ? お父さんが家に帰ってきて、ここで皆でお寿司でもとって食べるのじゃダメなの?」


 自分なりに考えて提案をした。しかし姉の顔を見るかぎり、この意見は却下らしい。


「真琴と修ちゃんはそれで良いもかしれないけど、それだとお父さんが気にするでしょ? 自分がこんなんだから、なにもしなかったって。そんな辛気臭(しんきくさ)い気分のままあの世に行かれたら、こっちも寝覚めが悪い」

「お姉ちゃん、もうちょっとオブラートにつつもうよ……」

「いまさらでしょ。なるようにしかならないって言ったのはお父さんなんだから」

「そうだけどさあ……」

「修ちゃんが帰る前日は仏滅だよ」


 壁に貼られているカレンダーを見ていた祖母が口をはさんできた。


「そうなの?」


 どうやら、この祖母の一言で日程は決まったらしい。


「じゃあやっぱり、明々後日(しあさって)で決まりね」


 そう宣言すると、姉は携帯を手に席を立つ。廊下に出ると誰かに電話をしているようだった。


「ねえ、お母さん、いいのかなあ……」


 こちらから無理に頼んだわけでないにしろ、姉におんぶにだっこというのは少しばかり申し訳ない気がする。それに修ちゃんだってなにも言わないけれど、我が家の都合であれこれ勝手に決めることに対して、心の中では面白く思っていないかもしれない。


「二人には二人の考えがあるだろうけど、これはお父さんのためでもあるってことで。申し訳ないけれど、お父さんの都合を優先して付き合ってあげてくれる?」

「私はまあ、みんながそれで良いならかまわないんだけど、修ちゃんはどう?」


 私の問い掛けに、修ちゃんはしばらく考え込む。


「あの、今まであえて聞きませんでしたけど、おじさんの病状はどうなんですか? 完治の可能性は?」


 考え込んだ後、母親にズバリと質問をした。母親は溜め息まじりに首を横にふる。


「今までの数値を見ている限りは悪くなってる。今の治療は、その速度をどれだけ遅くできるかどうかってことなの。ここまで頑張れているのは、おそらく新薬が体に合っているからだろうって話よ」

「そうなんですか……」

「でも初孫のことを聞いたらわからないわよね。もっと頑張らなくちゃって気持ちになってくれるかもしれないし、そういう前向きな気持ちも大事なんですって」


 そう言って母親はほほ笑む。


「僕は、おじさんが喜んでくれるのであれば、それでかまいません。まこっちゃんにプロポーズできたのは、おじさんがきっかけをくれたからですし。それに」


 そこで言葉を切って私の顔を見た。


「初孫に続いて二番目の孫を見せてあげるってことも、僕達にはまだできそうにないので」


 電話を終え、姉が戻ってきた。


「予約とれたよ。お母さん、あとでお父さんが食べられそうなものとそうでないものを教えて」

「わかった」

「それから!」


 そう言いながら、姉は私を指さした。


「なに」

「修ちゃん!」


 私を指さしているのに、なぜか修ちゃんの名前を呼ぶ。修ちゃんはいきなり名前を呼ばれて、椅子から飛び上がった。


「は、はい?」

「明日、朝の十時に制服を持ってうちのホテルに来なさい」

「へ? なんで制服?」


 そして姉は私の顔を見た。


「あんたはその一時間前、ううん、二時間前に来なさい」

「なんで?」

「写真、撮っておかなきゃでしょ? レンタルだから定番しか取り寄せできないけど、そのぐらいしてもバチはあたらない」

「えーと、定番てなんのこと?」


 姉の言っていることがピンと来なくて、首をかしげてしまった。


「ウエディングドレス! 最近はレンタルも充実してるから、真琴が気に入るのもきっとあると思うわよ。早く来いっていうのは、選ぶ時間と取り寄せる時間を入れてるから」

「えー、なんでそんなこと……」


 なにやら朝から面倒くさいことになりそうで、おもわず顔をしかめる。

 

「せっかくなんだもの。家族で記念写真を撮ることもだけど、二人でちゃんと結婚しましたっていう記念の写真も残しておくべきだと思うのよ。ねえ、お婆ちゃん?」

「私かい? 私とお爺さんの結婚写真は、あっちの親戚の顔ぶれが気に入らなかったから、さっさと破って捨てちゃったけどね」


 祖母が何気にさらりと恐ろしいことを口にした。


「うわあ……」


 私と修ちゃんは、その話を聞いてドン引きしてしまう。お婆ちゃんがそんなことをするなんて!


「もちろん、お爺さん公認でだよ。あとで二人で写真館に行って、記念写真を撮ってもらったさ。だから、二人で写真を撮るのはいい案だと思うよ」

「そうよね。てなわけで、写真を撮るから来なさい。真琴とは八時にロビー集合、修ちゃんとは十時にロビー集合。明々後日(しあさって)の食事会の時間は、お母さんとあとで決める。家族写真もちゃんと撮るからね。それでいい?」


 全員が文句なしの声をあげた。


―― すっかりお姉ちゃんに主導権を握られている…… ――


 だけど明々後日(しあさって)の食事会の場所を確保してくれたのは姉で、写真のことやドレスのことを手配してくれるのも姉なのだ。ここはありがたく感謝し、父親のためにおとなしく従っておくべきなのだろう。


「じゃあ、明日、写真を撮り終わったら、その足で区役所に行こうか」


 修ちゃんが提案をした。


「そうだね」

「真琴、寝坊しないのよ? あんただって四月から社会人なんだから。春休み気分のままゲーム三昧した、寝不足顔で記念写真なんて撮りたくないでしょ?」

「大丈夫。俺も今日はゲームしないでさっさと寝るから」

「えー……」


 小さい声で文句を言ったら、向かい側に座っていた姉に足を蹴られてしまった。こういうところは姉も容赦がない。


 その後は、食事をしながら姉が母親と食事会の打ち合わせを始めた。たまに私達の意見も聞かれたけれど、姉の様子からして、ほとんど採用されないのでは?と思わないでもない。


「お姉ちゃん、外商としてもやっていけるんじゃ?」


 そんな姉の様子を見ていた修ちゃんが言った。


「支配人さんにも、ホテルの営業職をやってみたないかって言われたみたい。だけど営業するのイヤなんだって。異動させたら、その日に辞職するって言ったらしいよ」

「へえ。目指しているのは女支配人だっけ?」

「そうそう。あのホテルを牛耳るんだって。おっかなーい、いたっ」


 ふたたび姉に蹴られてしまった。


「でも、まこっちゃんのウエディングドレス姿を見れるなんてうれしいなあ」

「そう?」

「うん」


 修ちゃんが喜んでくれるなら、早起きして姉にあれこれ指図(さしず)されるぐらい、我慢できるかもしれない。

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