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入社2年目の同期が、よしなしゴトをそこはかとなく語る

作者: 五日北道

!!! 下ネタ注意 !!!


苦手な方はすぐに閉じてください。

「鶴岡さんって、女子力低そう」

「……自覚はあるけど、由比くんに言われたくはない」


 仕事で遅れて、駆けつけた忘年会。

 空いた端の席にすべりこんで、(ナマ)をイッキ飲みしたらこれですよ。

 ぷはーって言うのは自粛したのに。


 あ、由比くんは目の前に座ってる同期です。


「だいたい、由比くんだって、男子力は高そうに見えないけどね?」


 言い返しておいて、残っていたお通しを口に放りこむ。

 枝豆美味。


「……男子力ってなんやねん」

「今つくった。あとエセ関西弁がへん」


 次のピッチャーが届いたので、手酌で注いで口をつける。


「ほらー空いたグラスに注ぐとか」

「それは女子力の分類じゃ?それに俺のグラスも空いてるけど?」


 ……ブーメラン返ってきたわ。とりあえずピッチャーを押しつける。手酌しとけ。


「でもさ、上司とか取引先のお客様のグラスは、男子も気をつけておく必要があるよね?」

「そりゃそうだけど」

「じゃあそれは社会人力か、大人力ね」

「だったらなおさら、男子力ってなんだっていう話に……」


 んー。

 少しマジメに考えた。


「これかな!」


 親指と人差し指でマルを作る。


「ゲンキンだな!」

「否定しない」

「ひでぇ。もっと他にないのかよ。抱擁力とか、せめて容姿とか」

「容姿は、女子力でも必須の条件じゃない、と思うからさーお洒落のセンスなんかは問われると思うけど」


 そりゃ容姿が佳ければ、なお良いんだろうけどね。


「それにしたって男は金だけかよ」


 由比くんの渋面がなんとなく気の毒になったので、もうちょっと考える。

 お酒は楽しく飲まなきゃね?


「そうだなーじゃあ、どことは言わないけれども大きさとか長」


 もが。


「それはセクハラ。セクハラ案件!」


 もぐもぐ。

 口の中に突っこまれたお刺身を咀嚼する。これはイカかな?

 ごっくん。


「あー、ごめん」

「分かったなら良いんだわ」

「私、お刺身ワサビいらない派。ワサビついたの寄越さないで?」

「そこかよ。ひでぇ。……ワサビつける派で悪かったな!」


 由比くんが余計に渋面になった。


「しわが増えるゾ☆お酒は楽しく飲まなきゃ」

「……誰のせいだと」


 うわあ、由比くんの顔に、うぜぇっていう文字が見えるようだ!

 うん、気を利かせて話題を変えよう。

 これぞ女子力。


「今イカ?食べたけどさ」

「あーそうだな」


 テキトーな相槌とともに、ジョッキに口をつける由比くん。


「下ネタ表現って、なんで海鮮系なんだろね」


 ごふっという変な擬音が聞こえた。

 由比くんがビールにまみれていたので、さりげなくおしぼりをさしだした。

 女子力。


「イカくさいとか、アワビとか」

「セクハラ!それはセクハラだから!」

「イカだって月に数回食べれば多いレベルだし、アワビなんて年に1度食べるかどうか。イカはともかく、そんな身近な食材でもないよね」

「聞いてねぇ!」

「やっぱり日本人だからかなあ」

「どういう理屈だよ」

「外国だったらさ、海鮮系の例えってあんまりなさそうじゃん?なんか、あなたのソーセージがーとか?」

「短絡的なイメージ!」

「もっと昔の日本はさ、魚中心の食生活で、海鮮系に例えるのがみんなに分かりやすかったのかなって」

「ま、まあ、昔はもっと魚食べてたかもな」


 由比くんの目がなんだか泳いでいる。

 魚の話題だけに?…………ごほん。


「今はお肉もかなり食べるじゃん?下ネタ表現もお肉系になってくのかな?」

「お肉系ってなんやねん」

「え、うーん。どこがとは言わないけどA5ランク和牛のとろけるようなやわらかさだ!とか、キミの肉汁があふ」


 もが。


「セクハラ!」


 もぐもぐ。

 口の中に突っ込まれた唐揚げを咀嚼する。

 ごっくん。


 うーん、なんだか既視感(デジャヴュ)なやり取り……


「あーごめん」

「今度はなんだ」

「私、唐揚げレモンつけない派。味つけは塩でもマヨでも醤油でもケチャップでも、なんでもいいんだけど」

「だよな!悪かったな!レモンつける派で」


 由比くんが、今度は噴き出さないように、慎重にジョッキを傾けた。


「女の子が、あんまりそういうこと言うなよ、な?俺が優しい紳士だからいいようなものの」

「変態紳士だよね?」


 とたんに半眼になる由比くん。


「俺は!鶴岡さんの話に巻きこまれた被害者!純然たる紳士!」

「紳士?」

「首かしげるな。このしょーもない会話にもつきあってやってる超紳士だろ!」

「うーん。紳士の定義とはいったい」

「そこ、真剣に悩まないでもらえるかな」

「童貞のまま30越えたら魔法使い、みたいな明確な定義が欲しいよね」

「それもセクハラだからな!俺からしたら、鶴岡さんの考える定義の基準がナゾだよ!なんでシモ基準なんだよ!」

「誰か#define(デファイン)きっといてくれればいいのにね?」

「聞いてねえ。あと、俺まだ27だからな?!」


 なんだか年齢をものすごく強調された。

 由比くんは、たしか院卒で同期だけど年上だっけ。


「でも、由比くんはマジックユーザータイプだと思うけどなあ」

「……なんて不吉なことを」

「だって魔法使いって、基本的に魔攻と魔防は高いじゃん?」

「?? 急にゲームの話?」

魔攻(INT)魔防(MND)、つまりIntelligentとMindじゃん?」

「あー。うん。そうだろうけど」

「知性と精神」

「いや、直訳してくれなくてもそれくらいはわかるけど」

「院卒の由比くんは、たぶん知性と精神力が高い、と思う」

「お、おう」


 由比くんがなぜか照れた。

 でも、べつに褒めてない。


「だから魔法使いの素質があると思う」

「なにそのアゲて落とすスタイル」


 肩をおとした由比くんは、そこで気がついたらしい。


「たしかに知性と精神力がありそうなガリ勉タイプが恋愛から遠いのはわかる。でも、院卒が全員恋愛しないわけではないだろ」

「それは、たぶんINTとMNDのコントロールの問題かなと」

「???」


 由比くんが首をひねる。


「うーん、たとえば、お酒を飲み過ぎて呂律が回らないとか、INT低下の状態異常でお持ち帰りされちゃったり」

「あー」

「あとは、失恋直後でMND低下中に新しい恋を見つけたり」

「それは実体験かな」

「黙秘。とにかく、素INT素MNDが高い自覚がある人は、ひと工夫要りそう。あえて自分から状態異常になるとかね。それで能力値(ステ)を下げられる院卒なら魔法使いにならないんじゃない?」

「それか、状態異常の相手を見つけるか、かな」

「それは一般的に鬼畜です」

「うっ……はい、すみません。」


 なんか謝らせてしまった。


 そこでちょうどよく、部長が手を叩いて注目を集めた。

 そろそろお開きの時間らしい。

 部長グッジョブ!


 しめの挨拶を聞き流してコートを手に、帰り支度を始めると、


「俺は魔法使い向きとして、鶴岡さんは?」


 革靴をとんとんしながら、由比くんに訊かれた。


「私はゲームじゃDEX振りの生産か弓専門」

「へえ。それは現実の恋愛においては?」

「それを聞きますか。よろしい、ならば2次会だ!」

「え?」


 由比くんの声にならない悲鳴が聞こえたような聞こえなかったような。


お読みいただきありがとうございました。

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